表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/137

第32話


 重力系の魔法はなかなか身につかない。活動が無い休みの日は部屋や庭で鍛錬をするのだが身に付きそうだ、何とかなりそうだという気配は今のところ全く感じられない。


 何かが違うのだろうと言う事は分かるのだが、じゃあ何が違うのかが全く分からないんだよな。魔法はイメージだよと最初に教えてくれたラニア治療院のラニア先生の言葉を思い出しながら自分が浮くイメージを考えるのだが頭の中では昔のアニメのサ⚪︎ボーグ002や鉄⚪︎アトムの様に足の裏から火を噴いてしっかりと浮き上がっているが実際には両足は地面や部屋の床に付いたままだ。1ミリも動いていない。


 ひょっとして魔力量がまだ足りない?


 魔力量を増やす鍛錬は毎日やっているが魔力量は一朝一夕に伸びるものではない。魔力量は増やす鍛錬をこれからも続けよう、そしてイメージだ。今までと違ったアプローチを考えないと。そうは言うもののその違ったアプローチが思いつかない。


 パーティの活動がない休養日のこの日、俺はポロの街の図書館に足を向けた。以前もいた司書さんが座っていたけど俺を見ても表情を変えない。俺の事を忘れたのかも知れないな。嫌な顔をされないのはいいんだけど、忘れられたら忘れられたでちょっと寂しいものがる。人間って身勝手なもんだよな。



 鳥の図鑑を見たり昆虫の図鑑を見たりと小学生が読みそうな本を片っ端から読んでみる。チラッと受付をみると司書が怪訝な表情でこっちを見ていたが俺と目を合わせると慌てて目を逸せる。

 

 いい年こいた大人が必死になって見る本じゃないってのは分かっているんだよ。21歳だけど。


 分かっていたけれど鳥も昆虫も羽根をバタバタとさせて飛んでいるんだよな、じゃあ俺の背中に羽根があるイメージでやりゃいいのかと思うがこれは既にやっている。背中に羽根があるイメージを作っても浮かないし、両手を上下にバタバタさせても浮かなかったんだよ。


 ふと気がつくと図書館の窓の外が暗くなり始めていた。やばい。今日は俺が夕食当番だ。慌てて本を棚に戻して怪訝な表情の司書さんの横をダッシュで通り抜けると市内の屋台でオークの肉の串刺しを買って自宅に戻る。


 この日の食卓はオークの肉の串刺し、野菜とナッツを炒めたもの、それとフルーツにジュースだ。シンプルですまんと思っていたが野菜炒めが2人に好評だった。


「ナッツと野菜を炒めたの美味しいね。塩加減もちょうどいいわ」


「うん、この野菜炒めにオークの串刺しがあうよね」


 2人が満足してくれて一安心だ。食事をしながら今日はどうしてたのかお互いに話をするカオリは知り合いの女性冒険者とショッピングをしており、ユキは午前中は部屋でゴロゴロして昼からは1人で服屋さんを回っていたらしい。俺はどうしていたのかと聞かれたので浮遊魔法のイメージを掴むために図書館に行っていたんだと言ってからイメージが上手く湧かないんだよと愚痴っぽく話をする。


「魔力量についてはユイチは気にしなくてもいいんじゃない?多いのは間違いないんだし」


「私もそう思う。となるとイメージの持ち方よね」


「イメージかぁ」


 想像力の乏しい俺には簡単ではない。収納の魔法を習得したときも2人が温泉で着る浴衣というアイデアを出してくれたからイメージが出来たからな。1人だったら今でも収納魔法は会得できていなかっただろう。


 食事が終わっても皆でキッチンテーブルに座りながら話を続けていた。ちなみにジュースのおかわりを注ぐのは俺の仕事だ。普段から2人に頼りっぱなしなのでこれは俺がやる仕事だと決めている。たかがジュースを継ぎ足すだけじゃねぇかとは言うなよ。俺にとっては意味がある仕事なんだから。



「ユイチ、自分が飛ぶという発想から一旦離れたら?」


「でもそうしたら浮かないんじゃ?」


 カオリが言った言葉にちょっと抵抗してみる。


「その発想だといつまで経っても会得できないんじゃない?発想を変えるのよ」


 だからどうしたらいいんだ?


「足の裏から火を吹いたりするのをイメージするのは無いと思うわよ」


 横からユキが言った。それには同意だ。この世界に無いアニメの話だし俺もこれはないなと思っている。となると手をバタバタさせるしかないのかな。もっと激しく両手をバタバタさせるんだろうか。それはそれで滑稽な気もするが。


「浮遊魔法なので最終的には浮くんだろうけど、いきなり自分が浮き上がることを考えるんなじゃくて自分が軽くなって結果的に浮いちゃったよ、とかね」


 ん?カオリが今言ったことを自分の中で消化してみる。浮かそうと思わずに浮いちゃったよ。そう言うイメージかな。今までとは違う切り口だ。


「カオリが今言った言葉で違うイメージが湧きそう。ちょっと部屋で鍛錬してみる」


「「根詰めちゃだめだよ」」


 2人から同時に声をかけられた。


 リビングの奥にある自分の部屋に入ると私物が少ない部屋の中央に立ってさっきのカオリの言葉を主出す。浮き上がるんじゃなくて自分が軽くなって浮く。自分が軽くなるというイメージだな。


 頭の中で自分が風船の様に軽くなって浮き上がるイメージをすると今までとは違う感覚が身体の中に出てきた。これはいけるかも知れない。目を閉じて自分が軽くなるイメージを想像する。上手く出来そうで出来ない、そんなモヤモヤした気分だが今までは上手くいきそうな気配すらなかったのだからこれは大きな進歩だ。


 結局この日は成功しなかったが自分の中ではなんとなく上手くいきそうな気がする。知らんけど。



 収納魔法の時は旅館で着る浴衣のイメージを抱いてから3時間程部屋で頑張ったらできたけど浮遊魔法はそうはいかない。かと言ってそればかりに集中することもない。いやできない。活動日は3人で街の外に出てシルバーランクやゴールドランクの魔獣を倒しては魔石や死体を持ち帰って換金してポイントを稼ぐ。それ以外に料理をしたり買い物をしたりと普段からする事が多い。生きるために仕事をして金を稼ぐ。これはこちらの世界でも同じだ。


 魔法の鍛錬は夜の寝る前と休養日に集中的にやる様にしていた。


 もう少しで何とかなりそうだという感覚はあるのだがそれが出来ないというもどかしい感覚が続いて2ヶ月程経ったある日。夕食を終えて自室に戻ってくると例によって部屋の中央に立って目を閉じると自分の体から体重がなくなって軽くなるというイメージを想像する。訓練を初めてしばらく経った頃。時計がないから推測だけど30分位?相変わらず俺は目を閉じてイメージを膨らませていた。


「痛っ」


 突然頭のてっぺんに強い衝撃が来た。目を開けて上を見るとすぐそこに部屋の天井がある。ん?視線を足元に向けると俺は浮いていた。


「おおおっ」


 と声を出した瞬間にそのまま部屋の床にドスンと落ちてしまった。何をやってるんだか。でも出来たぞ。今確かに俺は浮いていた。


 今度は目を開けたままやろう。さっきの風船のイメージを作るとゆっくりと体が浮いていくのがわかる。風船から空気を抜くイメージを作ると同じ様にゆっくりと落下して今度は静かに着地できた。


 よっしゃー! 


 声を出したかったが夜だし、カオリとユキが部屋で休んでたら怒られそうなので心の中で叫んだよ。ガッツポーズはした。


 浮いてるのはせいぜい80センチ程かな。浮いて降りるという動作をしても魔力を持っていかれたという感覚はない。俺はそのまま部屋から庭に出て同じ様に魔法を発動させる。1メートル位までは問題なさそうだ。それよりも高くなると家の外から見られるかもしれない。その辺の分別というか気配りはあるんだよ。


 収納魔法と同じで浮遊魔法も1度覚えると2度目からは発動が楽になった。50センチ程浮いた状態で庭の上を円を描く様に移動することもできた。浮けば移動はそう難しくはないな。


 どれくらいまで浮き上がれるか、そして浮いたままどれくらいの距離を移動できるのか。これは明日以降街の外でやってみよう。


 時間はかかったけどようやく身につけることができたぞ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ