第31話
俺たちが商業区で買い物を済ませて自宅に戻るとカオリはすでに帰っていた。
「私も少し前に帰ってきたのよ」
これよ、と彼女が新しく買った片手剣をテーブルの上に置いた。俺たちも買ってきた腕輪を同じ様に置く。片手剣は素人の俺が見ても格好いい。能力はわからないがビジュアルが格好いい。
「格好いい剣だね」
「ありがと。性能はもちろんだけど、外見が気に入ったのもあって買ったの」
能力的には攻撃力と素早さがアップする付帯効果がついているということでこれでまた動きやすくなって一撃のダメージがアップするとカオリが言った。
「ユキとユイチも腕輪を買ったおかげでまた能力アップだね」
「ゴールドランクが相手となるとね。やっぱり装備関係は充実させないとね」
そんな話をしている2人のやりとりを聞いている俺。2人が装備を充実させるのに俺だけ何もしないという訳にはいかないよ。世話になっているしな。俺がそんなことを考えていると、
「同じ効果でも指輪の方が値段が高いんだ」
ユキの言葉にカオリが返事をしている声が聞こえてきた。
「同じ効果なら腕輪で十分じゃない」
「そうだよね。それに指輪はいずれユイチが私たちにくれるだろうしね」
「そうそう。ユイチ、知ってる?この世界は一夫多妻が認められてるのよ。私たち期待してるからね」
この2人は時々とんでもない言葉をぶっ込んでくる。いつもそれが本心なのか冗談なのかがわからないから対応に困る。
俺がはぁと間抜けな声を出していると2人が俺に寄ってきた。目が真剣だ。なんだ?どうした?俺、今変なこと言った?
「ユイチ、いくらこの世界で3人しかいない日本人同士と言ったってその男の人が変な人なら私もユキも家を買って一緒に住もうなんて言わない。その前にアパートだって別々にしてる」
「そうそう。ユイチは少し気が弱いところがあるけど変な人じゃない。それどころか素直で周りに気を使うこともできる。自分じゃ気がついてないと思うけど、ユイチはいい男、魅力的な男なのよ」
俺がいい男?魅力的?いやいや冗談でしょ?
「魅力的な男って外見の話じゃないの。内面の話。ユイチは外見だけの薄っぺらい男じゃないって私もユキもわかってるのよ」
外見だけの薄っぺらい男ってなんだ?と思ってたら2人が説明してくれた。暇さえあれば自分の格好を鏡で見るナルシストやファッションや持ち物に金をかけて自分がモテると思っている勘違い男。そして女とやることしか考えてない男の事らしい。
うん、見事に全部当てはまらない。だがそれはそれで問題じゃないのか?
「ユイチは難しいことを考えずに今のままでいいのよ。自信を持って、なんて言わないから」
「そうそう、今のユイチが好きなのよ。毎晩庭で魔法の鍛錬をしているのだって最初から知っていたのよ。頑張ってるんだなって思ってたの」
「ありがとうございます」
お礼を言うしかないよな。それに自信を持てとか言われてもどうしたら良いのか分からない。とりあえず今まで通りで良いということは分かった。嫌われていないだろうとは思っていたが2人から直接好かれていると分かって安心している自分がいる。
新しい装備の効果は自分の想像以上だった。カオリも同じだ。同じ敵を攻撃してもダメージが上がっているのが一目瞭然だ。ユキは僧侶なので攻撃することはないが彼女も魔力が増えているのは実感できるという。
強くなったと言うよりもこれで怪我や死ぬ確率が少し下がったと実感できるだけで俺は満足だ。プラチナランクを目指す訳じゃない。今まで相手にしていた敵が楽に倒せる様になるだけで十分だよ。
俺たちは装備を更新した。つまりまたお金を稼がないといけない。例によって自宅の庭から外に飛んで師匠がいる森の奥でシルバー、ゴールドランクの魔獣を倒しては夕方にまた魔法で戻ってくる。俺とユキが収納魔法を会得しているのでそこにストックしてそれを小出しにギルドに持ち込んでは換金する。
どれくらいの数の魔獣や魔石をギルドに出すと疑われないかという匙加減はカオリに任せている。自宅で打ち合わせをしてから収納から魔法袋に移していかにも今日倒してきましたと言った体でギルドに顔を出して換金するのだが今まで全くギルドから疑われていない様だ。駆け引きは俺は無理なので女性2人に丸投げして後でお金を貰うだけにしている。
移動魔法のおかげで移動時間が大きく短縮され、結果的に狩りの時間が増えて現地で長時間しっかりと稼げるので今までの3勤1休が最近では2勤1休、あるいは3勤2休になっていた。個人的にこれは嬉しい。
「本当ならもっと稼げるんだけどギルドに目を付けられたくはないからね」
自宅で夕食を摂りながらそんな話をする。ギルドに限らず普段から目立ちたくないと考えている俺。カオリとユキが話をしているのを頷きながら聞いている。
「装備を変えて討伐は楽になってるわね。危ない場面もないし」
「ユイチの魔法の威力もアップしたから助かってるわよ」
「そりゃどうも」
俺がそう返事をするとカオリが俺に顔を向けた。
「ユイチ、魔法についてはもっと自分に自信を持っていいわよ。実際私が見てもユイチの魔法の威力は相当よ」
魔法についてはという枕詞がひっかかるが聞き返す雰囲気じゃないので黙っているとユキが続けて言う。
「そうそう。ラニア先生も言っていたじゃない、桁違いに魔力量が多いって。魔力量が多くて毎日魔法の鍛錬をしてる成果がしっかりと出ているわよ。ユイチのおかげで私たち、楽させてもらっているもの」
「そうなのか」
自分ではそこまで貢献しているという意識はなかったが2人が言うから間違いないのだろう。お世辞を言う必要もない関係だし。
とは言ってもだ、魔力量の多さと優秀な魔法使いとはまた別物だろう。今はカオリが優秀でしっかりと前衛で頑張ってくれるからこっちも安心して魔法を発動することができている。これがソロだったら魔獣と会ったらテンパってしまって慌てるだけで魔法を上手く撃てないのは間違いない。
二人がいるから安心して魔法を撃てているというのはあるが、よく考えたらそれがパーティとしての動きなんだよな。お互いに助け合いながら敵を倒す。自分で全部しようとするからテンパってしまうんだ。
今頃気がついたよ。本当に鈍いな、俺。