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第3話


 日本語だ。何故に日本語?

 その疑問は板を読み始めると解けた。


ー 私はこの世界に飛ばされた1人の日本人だ。名前は和田源吾と言う。


 そう言う書き出しで始まっていた。スマホのライトを当てて食い入る様に文字を読んでいく。骸骨の前にあった板を全部自分の前に置いて上から順に読み始める。



ー 私はこの世界に飛ばされ、この地で50年以上住んだ。最初に飛ばされたのがこの森の中だった。それからこの洞窟を見つけてここで数日を過ごしたのち山を降りて街を探し出してそこで生活をしていたが、自分の寿命がもう長くないと知った私は最後は飛ばされたこの場所を死場所とすることにして街を捨ててやってきてこれを書いている。


 50年以上住んでいたのか。この世界の師匠と呼ばせてもらおう。


ー この世界は私がいた世界、日本とは全く違っていた。私の死後ひょっとしたら別の日本人がこの世界に飛ばされてくるかもしれない。必ずこの場所に飛ばされるかどうかは分からないし、この場所に飛ばされこの洞穴にやって来たその人が日本語が分かるとは限らないだろう。それでも私は死ぬ前に私の同胞にこの世界について記録を書いておくことが責務であると感じたのでこの世界で生きていくための簡単な術をここに記す。私のこの記録が第三者によって見つけられる可能性は限りなくゼロに近いだろう。それでも私はこれを書くことで私がこの世界で生きてきたという証としたいのだ。まず最初に言っておく。この世界から我々がいた世界、日本に戻る術はない。そこは諦めてくれ。50年の間探したが見つからなかったのだ。


 すごい人だ。そしてやっぱり戻る方法はないんだな。


ー この世界には地球にいた動物も住んでいるがそれ以外に魔獣と呼ばれる攻撃的な獣があちこちを徘徊している。彼らは人間を見ると襲ってきてその体を喰らおうとする。一方で人間はその魔獣を倒してその体内から魔石と呼ばれる石を取り出してそれを生活の道具として利用して生きてきている。この世界では魔獣は人間を喰らうために殺し、人間は魔獣の魔石を取るために殺す、人間と魔獣との殺し合いが日常行われている世界だ。


 殺し合いだよ、怖いよ。それにしてもマジで異世界小説の世界じゃないか。


ー 人間は生身の身体では強い魔獣に勝てない。従って武器や魔法で魔獣を倒して生計を立てる冒険者という職業が存在する。何を隠そう私も20年程冒険者をやってきた。流石に年を取ってからは引退したがな。冒険者は魔獣を殺して生計を建てる仕事だ。危険が伴うが見入りは多い。この世界に飛ばされた身元不詳の地球人が生きていく為には冒険者になるのが最も良い方法だと今でも信じている。


 なるほど。冒険者ってのは身元を探られずになれる職業ということだ。命の危険はありそうだけど。


ー 冒険者には2種類ある。武器を持って戦う者と魔法を使って戦う者だ。私の左手側にある木の箱を開けるとその中に2つ水晶が入っている。透明な水晶は魔力を測定する水晶で赤みがかった水晶はこの世界で生きていく為の言語理解ができる水晶だ。まず赤みがかった水晶を両手で包み込む様にして持つのだ。その後同じ様に両手で透明な水晶を持つがよかろう。ちなみに私は魔力があったので魔法使いとして生きてきた。日本から転移したとは言っても決して最強ではなく、ごく普通の魔法使いだったがそれでも生活をする分に不自由は無かった。



 言語理解の水晶ってのがあるんだ。ひょっとしたら最初に飛ばされた世界でも同じ様な物があってそれで奴らが日本語を話せ、理解したのかもしれない。俺は読んでいる板を一旦地面の上に置くと師匠の左手の近くにある木箱を開けた。師匠の言葉通り中には水晶が2つ入っていた。細かい砂をかぶっていたので息を吹きかけると確かに透明と赤みがかったものの2つある。シャツで2つの水晶の表面を綺麗に拭くと、まず赤い方の水晶を両手で包む様に掴んだ。何かが体に流れ込んできた。これが言語理解なのだろう。そしてだ、現実ではチートな才能を付与された。なんてのは無いということが確認できた。異世界から来たからスーパーマンってことじゃないんだな。俺にとってこれは大事な事だ。


 続いて透明な水晶を見る、前の世界では光らなかったのでここでも光らないだろうと両手で包む様に持つと水晶が眩しいくらいに光出した。どういうことだ?俺は魔力ってのが全くない無能じゃなかったのか?


 光が消えると俺は再び板を手に取った。


ー 赤い水晶を持って何かが体の中に入ってきたと感じたら大丈夫だ。それでこの世界で話をされる言語を理解し、文字が読める様になる。そして透明な水晶が光ったのなら魔力があるということになる。冒険者になるのなら魔法使いがよかろう。光らなかったからと言って悲観することはない。武器を手に持って戦えば十分に魔獣を倒すことができる。


 ちょっと待て。前の異世界では魔力がない無能だと言われたが、この世界では魔力というのがあるの?う〜ん、とりあえず魔力について考えるのは後回しにしよう。板はまだあった。


ー この洞窟を出て山を降り、山を右に見ながら4、5時間ほど歩くと森を抜ける、そこからさらに半日程歩けばポロという街がある。私がこの世界で住んでいた街だ。大きくて人も多い。街に入ったら冒険者ギルドという場所に顔を出して冒険者登録をするのを勧める。登録をすれば身分保証書をくれる。この世界では身分保証書がないと都合が悪いことが多い。そして一番身分保証書を入手しやすいのが冒険者なのだ。


 街が近くにあるんだ。それで冒険者になるといいのか。多分過去を詮索されないということだろう。この世界での身分保証書を得るためにも俺は冒険者というものに登録をする必要がありそうだ。そう思いながら板を読む。


ー 洞窟を出て森の中を歩いていると多くの木々に実が成っているのが見えるはずだ。赤や緑の木の実だが食べても安全だ。というか美味い。それを食べていると空腹にはならないだろう。ただ森には魔獣がいる。この辺りにいるのは強くはないがそれでも頭に硬い角があるウサギには注意するんだ。角で突かれると生身だと大怪我をすることになる。このエリアの魔獣で警戒すべきはそれだけだ。それ以外の魔獣はここから街へ行く間にはほとんど見かけない。ただ森の奥にはこの場所よりもずっと強いのが生息しているので注意するんだ。


 どうやら餓死はしなくてすみそうだ。木の実を食べて生き延びられる。それはいいとしてだ、やっぱりこの世界、森には角が生えているウサギがいるんだ。飛ばされた場所が洞窟に近い場所で良かった。これが森の奥とかだったら生きていられたかどうか。うん、無理だな。


ー 最後になるが私の右手の横にある木箱にはこの世界で通用する貨幣が入っている。多くはないが当座の生活には困らないだろう。私はこの世界に飛ばされた時はショックで落ち込んだが住んで生活をしてみるとそう悪い世界でもなかった。これを読んでいる誰か、私の同胞もこの世界を楽しんでもらえることを祈っている。日本に戻る術は無いが割り切るとこの世界もなかなかだぞ。 和田源吾。


 

 板を読み終えた俺はしばらく放心状態だった。俺の先輩にあたるこの師匠はすごい人だ。いつ来るかも、本当に来るのかどうかも分からない中でこれほどまで詳細に記録を残している。俺にはできないよ。そして元の世界には戻れないってことだ。50年の間生きていて見つからなかったのだろう。俺が簡単に見つけられるとは全く思わない。


 師匠の右手側にある木箱を開けると布製っぽい袋の中にこの世界のお金だろう。金色をしている通貨が5枚、銀色をしている通貨が50枚ほど、そして銅色をしている通貨が30枚程入っていた。


 普通ならこれだけ通貨が入っていると袋が重たいはずなのに重たくない。どうなってるんだろう。まるで中に何も入っていないと思えるくらいに軽い。


 その日俺は洞窟の中で夜を過ごした。そして翌朝最後のカロリーメイトを食べた俺は立ち上がると師匠の亡骸の前で頭を下げた。


「師匠、色々と教えていただきありがとうございました。自分はこれからポロと呼ばれる街に行ってきます。落ち着いたらまたこの洞窟に参ります」


 2度目の異世界でとりあえず自分が進むべき方向を知った俺は洞窟を出ると師匠の教えの通りに山裾にそって右手に歩き出した。


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