第26話
ポロの街に戻って3日もすると以前の生活パターンをしっかりと思い出してきた。他の街で魔獣を倒す活動をしてポロで同じことをするとこの街がいかに冒険者向きの街であるのかがよくわかる。街の外に行けばランクに応じた魔物があちこちに徘徊しており効率よく倒すことで多くのお金をゲットできるし、冒険者が多い街であるおかげかこのポロにはマフィアやチンピラといった人間のクズが少ない。もちろんいるにはいる。ただ彼らは冒険者には手を出してこない。たとえブロンズクラスの冒険者であっても魔物と生死をかけた戦いを日々している者達には見えない迫力がある。弱い人を脅しているだけの奴らとは根性が違う。なので俺も安心して暮らせている。
「旅行で散財したけど、ポロの街に戻ってきてお財布も少しずつ潤ってきたね」
ギルドで清算を終えたカオリが俺とユキが座っているテーブルに戻って来て言った。
彼女の言う通りだ。魔物を相手に戦うリスクはあるがこのパーティはカオリやユキがしっかりしているので俺は後ろからコソコソ魔法を撃っているだけだ。それでそれなりの金策になる。ありがたい話だよ。
「それでさ、明日は休養日じゃない?今夜はアパートで3人で買ってきた海産物を食べない?」
「いいわね。ユイチ、お刺身作れる?」
「多分出来ると思うよ」
魚を捌いて刺身を切る位ならやったことがあるので出来るよと言うとこのまま俺の部屋で食事をすることになった。
港町サンロケで買った新鮮な生魚を収納から取り出すと鱗を落としてから木製のまな板の上で3枚に降ろす。それを包丁で刺身サイズに切って盛り付けたら終わりだ。この世界では醤油もわさびも見かけないので醤油の代わりに岩塩、わさびは無しだが仕方がない。刺身ができると切り落とした魚の頭や骨を茹でて出汁を作り、そこに貝を投入する。ミキサーで砕いた魚の切り身で作った団子も入れて魚介スープの完成だ。
女性二人も自分たちの部屋で魚を焼いて持ってきてくれた。コメはないのでパンになるがこれもまた仕方のないところ。2人とも部屋で着替えてきてラフな私服姿だ。2人は洋服のセンスもいいんだよな。センスがない俺から見ても似合ってるなって思うもの。
俺の部屋のテーブルの上に刺身、スープ、焼き魚にお野菜、そしてパンとビールが置かれる。フォークはあるがそれとは別に自作の箸も3セットおいた。これは休養日の暇なときに俺が作ったものだ。戦闘の貢献度は低いのだからこれくらいはしないとね。
「「いただきます」」
そう言って食べ始めた3人。刺身を塩で食べると二人が美味しい!と声を出した。俺も食べてみると美味い。
「これはいけるね。塩で食べても美味しいよ」
「本当。それにこのスープもすごく美味しい。出汁がよく効いてる」
「ユイチ、料理が上手いね。いい旦那さんになれるわよ」
「私の旦那さんになってくれる?」
この二人は時々ドキッとすることを言うんだよな。冗談か本音かがわからないから困る。人付き合いが少ないとこう言う言葉に込められている意味というか真意が分からないんだよ。なので俺はいつも二人から褒められたり、こう言うことを言われたときはリップサービスだと思ってニコニコすることにしている。
収納魔法のおかげでポロの街中でも新鮮な海鮮が食べられる。もちろん市内に海鮮料理を出すレストランはあるがお値段が高い。自宅でやったら安上がりで美味しいのが食べられるよね。
テーブルの上の食事がなくなってきた頃にこれからどうしようかと言う話し合いになった。最大の問題はメンバーを増やすか、それともこのままでやっていくのかどうか。
「盾ジョブの人、特に女性を探すのは厳しいわね」
「かと言って男の人は嫌だな」「だよね」
などといつもの話をしている2人。この後ユイチはどう思うと聞かれるのがいつものパターンなのでここははっきりと自分の意思を言おうと頭の中を整理していると案の定声がかかった。
「ユイチはどう思う?」
「正直に言ってもいい?」
「もちろんよ。隠し事なし。思っていることを教えて」
「遠慮することないって。もう長い付き合いなんだしさ」
カオリとユキが言った。確かにもう2年以上この二人と付き合っている。
「俺はこのまま3人でやりたい。その結果ゴールドに上がれなくてもいいと思ってるんだ。新しく入ってくれた人と上手くやってけなかった時のことを考えると怖いんだよ」
そう言うと二人がじっと俺を見る。これはやっちまったかもしれない。これでこのパーティも解散になるのかな。いい人達だけど目標が違うから。彼女らは昇格の階段を昇っていきたいだろうし、方向性の違いってやつなのか。
そう思っているとカオリが椅子から立ち上がると俺の横に来てそのまま座っている俺に抱きついてきた。えっ!?何? と思っているとユキも立ち上がって反対側から俺に抱きついてきた。どうなってるんだ?
「ユイチってさ、私たちと知り合ってからずっと私たちに気を使ってくれてるよね。山の中で再会したときから全然変わってない」
とカオリ。
「ユイチが私たちをしっかりサポートしてくれてたからここまでやってこれたんだよ。私もカオリもユイチには感謝してるの」
「そう。そのユイチが今後のパーティについてどうするか、自分の意見を言ってくれたでしょ?うれしいの」
「ユイチがそう考えているのならパーティはこのまま3人で続けましょう。私たちはね強くなるよりも皆で毎日楽しく過ごしたいいのよ。ユイチが嫌だと思うことはしたくないの」
思っていた展開と全く違う展開になっているがどうやら俺の意見が通ったみたいだ。盛大に安心する。
「いいのかな?」
「「もちろん」」
抱きついていた2人はテーブルに戻った。もうちょっと一緒にいたかったけどそれは言えない。テーブルに座るとカオリが言った。
「方針は決まったね。今後も3人で冒険者を続ける」
頷く俺。
「それでね、すぐの話じゃないんだけどさお金が貯まったらこの街で3人が住む一軒家を買わない?」
「一軒家?」
カオリがまたすごい事を言ったぞ。
「そう。冒険者の中にはパーティ単位で一軒家を買って住んでいる人がそれなりにいるのよ。その人たちに聞いたらさ、一軒家なら万が一、長期で街を離れても家賃の心配をしなくてもいいし、アパートよりもずっとプライバシーが守られるんだって」
「今カオリが言った通りでね。私達で色々事前に調べてみたのよ。すると結構売り物があるの。もちろん価格は場所や広さによってピンキリよ。でも思っていたよりも安いの」
ユキによると金貨400枚程から庭付きの一軒家が手に入るらしい。
それよりもだ、一軒家に住むってことはこの美人元CAさん2人と一緒に住むってことだよな。こんな嬉しい事はないぞ。同棲だろう、これ。
しかもポロに家を買うってことはこれからもずっとこの街に住み続けるってことだ。地味に生きようとしている俺にとっては朗報だ。
「日本と違ってローンはないから一括払いになるんだけどね。でも手が届かないレベルじゃないでしょ?」
「本当だね」
思わず声に出して言ったよ。そんな事考えたこともなかったから当然調べてもいない。
「どう?ユイチも賛成してくれる?」
「もちろん」
「決まりね」
その後は3人で具体的にどうするか話し合った。家資金を積立てることにしてとりあえず今の所持金の中から生活できる金額を差し引いて積立に回せる金額をお互いに言い合う。その結果1人金貨50枚。3人で150枚の金貨が積立に回ることになった。元々はもっとあったけど旅行で結構使ったからな。
「500枚を超えるとそれなりの家があるの」
「カオリとユキに任せます。俺はどこでも良いので2人が住みやすい、気に入った家を見つけてくれたらいいよ」
その後は料理やお酒をたらふく食べて、飲んで満足した俺。お姉さん達も満足してくれてそれぞれの部屋に戻っていった。
シャワーを浴びた俺はベッドに横になって今日の話を思い出していた。ひょっとしたらパーティ解散か?とビビった俺だったが結果的にそれはなく、持ち家の話まで進んでいった。
引き続きポロに住んで、2人と一緒にいられるというのがわかって嬉しい日だったよ。今日はぐっすりと眠れそうだ。