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第23話


「市内を散歩してきたの?」


「転移の魔法の件もあるし、できるだけいろんな景色を目に焼き付けておこうと思って」


 夕方俺の部屋をノックしたカオリとユキに1時間程市内を散歩してきたという話をする。2人ともシャワーを浴びてさっぱりしたと言っているが着ている服は冒険者の服だ。下着は着替えたのよと言っている。いちいち俺にそれを言わなくても良いと思うんだが。


「えらいわね。ユイチ」


 散歩の目的を理解したカオリが褒めてくれた。その後3人でギルドで聞いたお勧めのレストランに足を向ける。泊まっている宿から10分程歩いたところにあるレストランだ。値段は普通よりやや高いが味は保証するとギルドの受付嬢が言っていたらしい。


 左右の店を見ながらゆっくりと通りを歩いて目的のレストランに入るとまだピークの時間の前だったのか比較的空いていた。広い店内の隅にあるテーブルに案内されるとメニューを渡されてる。


「魚料理があるわね」


「サンロケが近いからかしら。でもこれからその港町に行くし、ここで魚料理は私はパスかな」


 カオリが言うのがもっともだ。結局皆魚料理は頼まずに無難な鹿肉などの料理を頼んでついでにこの地の地酒というかご当地ワインを注文した。これが美味い。


 食事を終えた後でワインをもう1本買って部屋で飲もうということになった。


「ここで飲んでもいいけどさ、ポロに比べたら治安が悪そうじゃない。酔っ払って道を歩くのはやめようよ」


 食事をしながらカオリが言う。ユキもその方が良いねと言っていた。俺も同じ感覚だ。昼間に散歩した時に感じていたが、交通の要所であるということはいろんな人がやってくる場所ということになる。ポロでは感じなかった視線を感じていた。


 それにしても2人とも治安が悪そうだとか言うのは感覚的なものなの?と聞いた俺。


「宿からここに来るまでの道を歩いているときに、あちこちからいやらしい視線を感じたのよ」


「そうそう、私たちを値踏みする様なねっとりとした視線。CAの時にたまに感じる視線と同じだったわ」


 なるほど。職業柄男のスケベな男達の視線は分かるということか。俺も気をつけないと。と思ってフォークで肉を刺して口に運んで顔を上げると2人が俺を見ていた。


「ん?」


 肉を口に入れたまま間抜けな声で何と言った俺。


「前から言ってるけどユイチは別格だからね。気にしなくていいから」


「むしろ遠慮なくいやらしい目で見てくれてもいいのよ」


「んぐ。いや、えっ、あの、そうなのか。はい、分かりました」


 我ながら間抜けな返事をしたなと思うもののお姉さん達からそう言われて悪い気はしない。俺は今までそう言う目で見ていたのだろうか?否と言い切れる自信はない。


 レストランはギルドが勧めるだけあって料理も酒も満足するものだった。支払いを終えて夜が始まったばかりの街の中を歩いていく。この時間になると通りが賑やかで冒険者や商人、そして2人が言っていた得体の知れない男達が通りを歩いていた。


 何事もなく宿に戻ってくると俺の部屋で飲もうということになる。カオリとユキは一旦自分の部屋に戻ってから俺の部屋にやってきた。私服に着替えている。2人ともショートパンツにTシャツっぽいシャツを着ていた。ラフすぎない?と思うがもちろん声には出さない。俺はローブを脱いだだけの格好だ。


 3人揃うと収納から酒のつまみになるものを取り出して部屋にある皿の上に乗せた。これはポロで人気のあるナッツで日本にあるピーナッツに近い味がする。3人とも大好きなナッツだ。


「宿に戻ってくるとリラックスできるわね。さあ飲みましょう」


 その後はワインを飲みながらナッツをつまみにしていろんな話をする。カオリとユキが言うのはやっぱりポロの街は住みやすいと言うことだ。


「あの視線はポロでは感じたことがないもの」


「休日に私服で街を歩いても全然平気だしね」


 だから最初に来た街がポロでよかったという2人。これもあの洞窟の近くでユイチと出会ったからだよねと言う。確かにあの偶然がなかったらどうなっていたか。この2人なら何とかあの場所から街道に出られたかも知れない。逆にだ、2人と知り合っていなかったら俺は多分今でも薬草採りをして安ホテルの部屋で過ごしていただろう。当然ブロンズランクのままで満足している。それは間違いないという自信がある。


 そういう点ではこの2人に出会って自分でも性格が少しは前向きになったんじゃないかなと思う様になっていた。相変わらずチキンなのは変わらないと思うがそれでも以前よりは物事をポジティブに考えられる様になった。これはこの2人のおかげだな。


「どうしたの?黙っちゃって」


 ユキから声を掛けられて我に帰る。


「いや、俺も2人に会ってよかったなと思っていたところ。出ないと今でも安宿に泊まって毎日薬草を採ってそれで満足していたと思うんだ。2人に会ってから少し前向きに物事を考えられる様になったなと」


 そう言ってからありがとうと2人に頭を下げた。


「「ユイチ」」

 

「はい!」

 

 カオリとユキが同時に俺の名前を読んだので条件反射で返事をする。2人は立ち上がって俺の左右に座ったと思うと両側から体を寄せてきた。


「ユイチは私たちの恩人よ」


「そうそう。ユイチがいなかったら私たちどうなっていたか。お礼を言うのはこっちよ」


 そう言って寄り添ったままワインを飲む2人。俺も何とか手を動かしてグラスを口に運んでいた。


 ワインのボトルが無くなった時にはカオリはソファに横になって寝ているし、ユキは俺のベッドで同じ様に寝ていた。いつ2人がソファやベッドに移動したのかすら覚えていない。3人が完全に酔ってるんだよね。


「これだったら1部屋だけでよかったんじゃないか。それにしてもだ、折角お姉さん2人がそばにいるのにこっちも酔っ払っちゃって眠い」


 そう呟いた俺も次の瞬間には床の上にゴロンと横になってそこで意識がなくなった。


 翌朝目が覚めると2人はまだ寝ていた。叩き起こすと眠そうな目で俺を見てくるがここが自分の部屋じゃないと気がついた2人。


「途中から寝ちゃったのよね」「私も」


 俺もだ。そう言うと2人が俺を見て言う。


「本当?私たちの身体を触ったりしてたんじゃない?」


「触ってもよかったんだよ?」


「いや、触りたかったけどこっちも酔ってたし、床の上に横になった瞬間に寝ちゃったんだよ」


 本当に惜しいことをしたと今激しく後悔している。


 部屋に戻った彼女達が着替えて準備ができると俺達は宿を出てそのまま西門から外にでた。2人は切り替えが早いんだよ。


 カオリもユキもこの街には興味がなさそうだ。なら早く目的地に出発した方がいいに決まってる。


 俺はポロの街を出てから街道の左右の景色を見て転移できそうな場所を見つけると頭の中にその景色をインプットする。街道上に転移する訳には行かない。森の中や岩が固まっている近くとか、とにかく目立たない場所を見つけては記憶していた。


 レンネルを出て港町サンロケに向かう街道でも同じだ。魔獣を退治すると街道から外れるので情景を覚えやすい。


 今も森の中にオークを見つけた俺たちは街道から外れてそこで固まっていた3体のオークを倒したところだった。魔石を取り出している2人のために水玉を作って空中に浮かべながら周囲の景色を頭の中に叩き込む。


「ありがと。ここなら転移しても見つかりにくそうな場所ね」


 浮かんでいる水玉に手を差し入れて洗いながらそう言ったユキ。


「こんな場所を数ヶ所覚えておくと次から楽になるね」


 レンネルからサンロケへの街道は冒険者よりも商人の方が多い。海産物を仕入れに行くのだろう。馬車が行き来している。


 4日の移動で宿に2泊できたので野営は1日だけだった。この野営場所もやっぱり決まったエリアになっていて商人や冒険者達がテントを張って夜を過ごす。野営が3日目になるともう慣れたものだ。周囲とのプライバシーを守りながらしっかりと休むことができたよ。


 朝に村の宿を出て西に向かって歩いていると潮の香りがしてきた。2人も同じ様に感じ取った様で、


「潮の香りがするね」


「懐かしい匂い。もうすぐだね」


 そんな会話をしながら3時間程歩いて小さな丘を越えると目の前に海、そして目的地のサンロケの街並みが見えてきた。ポロの街を出て10日目の夕方だった。



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