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第21話


「ちょっと見せて!」


 カオリが声を出した。隣のユキも顔を突き出してくる。夕刻に3人でレストランで夕食をとっている時に今日買った魔道具の話をすると、魔除けの魔道具ではなくペンダントに食いついてきた2人。


「はい。2つ買ったからどうぞ」


 そう言って2人にペンダントを渡すとそれを手に取って食い入る様に見ている。


「魔力は通したの?」


 ペンダントを見ていたユキが顔を上げた。俺は顔を左右に振る。


「まだ。2人とも要らないのならそのまま店に返品しようと思っていたから」


「どこのお店で買ったって言ったっけ?」


「アイテムショップ・ロココというロココおばちゃんがやってるお店」


 ちょっと待ってて、カオリがそう言うと手にペンダントを持ったまま席を立って店の奥に足を向けている。あそこの席に私たちの知り合いの女性がいるのよ。とユキが教えてくれた。


 しばらくしてカオリが戻ってきた。


「ユイチ、ありがと。聞いたら間違いなく効果がある物だって。中にはまがいものもあるらしいけどロココおばさんの店の品物は間違いないって。私が聞いた彼女達もロココおばさんの店で買った同じ物を持ってたわよ」


 騙されていないと分かってほっとしたよ。というか結構女性の間では流通してるのかな?ユキが2つのペンダントに魔力を通し、受け取ったカオリが首からかけるとユキも同じ様に首からかけた。ユキも魔力量が多いので問題ないな。


「これで安心ね」


「そうね、結構魔力を使ったけどだからこそ効果がありそう」


「ユイチ、これからは遠慮しなくていいわよ」


「そう。思い切りしてくれていいからね」


「えっ!はい、わかりました」


 思わず条件反射で返事をしたが2人が言っていることは超過激だよ。妊娠を気にせずに遠慮なくやれってことだよな。でもとにかく俺も一安心だ。


 それからようやく魔除けの魔道具の話になった。順序が逆じゃないかと思ったがもちろん俺がそれを口にすることはない。お姉さん2人のペースに合わせるのが一番波風が立たないからな。


 野営が少し楽になるよと、魔除けの魔道具の話をするとその通りと頷く2人。


「それにしても色々な道具があるのね」


「サンロケに行ったらそんな店を探して歩くのも楽しそうかもね」



 翌日はしっかりと食料や飲み物を買い込む。外で生ものを買ってはアパートの部屋に戻ってから俺やユキの収納に入れてまた外に出て買い足すということを何度か繰り返し、夕刻前には全ての準備が整った。収納魔法がその場で使えないので魔法袋に入れては部屋で収納に移し替えるという作業を繰り返したんだよ。オークの肉の串焼きなんて何本収納に入っているのか?ってくらいに買い込んだよ。


 2人の収納には1ヶ月分以上の食料と飲み物が入っている。これでまず問題ないだろう。準備が終わると3人でギルドに顔を出した。カオリが受付に明日からの予定を話している間、俺とユキは先にギルドの2階にある資料室でここポロからサンロケまでのルートを確認する。地図を見ていると話し終えたカオリも資料室に入ってきた。地図は図書館で見たものとほとんど同じだ。高低差はわからないが道と街、距離感がつかめれば問題ない。


「この地図を見てる限りだと移動は9日から10日。途中で3、4回は街か村に泊まれそうね」


「部屋が満室でも街中の空いている場所でテントを張って休めるだけでも全然違うよね」


 2人の言う通りだよ。塀に囲まれた村や街の中で夜を過ごせるのなら見張りは不要だ。ぐっすり眠れそうだ。


 俺は資料室の棚から別の本を持ってきた。これは魔獣の分布図だ。生息している魔獣のランクが地図上に書かれている。これをみると目的地の港町サンロケに行くまでに出会う可能性のある魔獣での最高ランクはシルバーランクが相手にする獣人。街の周辺になるとランクが落ちてブロンズランクの冒険者の狩場になっている様だ。


 これを見ている限り、俺たちが手も足も出ないという魔獣や獣人と遭遇する事はなさそうだ。安心したよ。女性2人もこれなら問題ないか、なんて言い合っている。


「少々強い相手が現れてもユイチの魔法があるしね」


「そうそう、ユイチの魔法なら倒せない敵はいないんじゃない?」


 と持ち上げてくれるが流石にそれは言い過ぎでしょう。ただ普段からこの2人はこうやって声をかけてくれる。気にかけてくれるとも言う。今までの人生で人から注目されることがほとんどなかった俺にとっては2人がこうやって話かけて、気にかけてくれることでかなり成長できたのだと思う。


「カオリとユキもいるし、3人なら何とかなりそうだね」


 俺が言うと、そう言うところがユイチの良いところなのよとカオリが褒めてくれた。よくわからないが褒められて悪い気はしない。


 万が一を考えてアパートの家賃は前払いで3ヶ月分を支払っている。この世界では家賃を滞納すると2ヶ月まで待って、その後は強制的に部屋の開け渡しとなるのが一般的だ。2ヶ月分の踏み倒しと考えるのではなく、冒険者が帰ってこなかった、つまり死亡するケースがあるから2ヶ月まではそのまま待つらしい。


 もちろんこうやって先払いをしておくと、先払いした月数+2ヶ月先までは部屋に住む権利が確保される。



 全ての準備が整った。



 翌朝、日が昇ってしばらくした頃、俺たちはアパートを出てポロの城門を抜けた。これから街道を北に進んで行き、レンネルという街を目指す。このレンネルの街は交通の要所でここから東西南北に街道が伸びており、西に行くと港町サンロケに続いていた。ちなみに北に進むと王都、東に進むとベールヒルの街に着く。

 

「このまま街道を北上して5日ほどだっけ?」

 

 前を歩いているカオリが前を向きながら言った。俺とユキはその後ろを歩いている。この三角形の体形は普段狩りをしている時のスタイルだ。前衛が前、後衛が後ろ。もう3人とも癖になっているというかこの立ち位置が一番落ち着く。ちなみに後ろの2人は俺が右側、ユキが左側だ。これもいつもの立ち位置。


「そう。レンネルまで4、5日、サンロケまでも4、5日。こんな感じだね。地図から計算した距離だけどね。それで今日は朝のこの時間に出て夕刻3時から4時頃に最初の村に着く予定」


 朝が早かったせいか街道を歩いている人はいない。もう少し時間が経つと商人やら冒険者達が街道を行き来するんだろう。俺は少しでも2人に貢献しようと地図と所用時間を頭に叩き込んでいた。


 どこでもそうだが街の周辺には魔獣は生息していない。魔獣や獣人は草原よりも森に生息する傾向がある。なので草原に伸びている道はとりあえずは安心だということになっていた。


 街を出て3時間ほど過ぎると今まで行ったことがないエリアになる。ここから先は見る物全てが初めてだ。土の街道はまっすぐに北に伸びていてその右手には遠くに山が連なっているのが見えていた。


 途中で街道の脇で休んで昼食をとると、奥に入って人気のない場所を覚えて、また街道に戻っては進んでいく俺たち、予定通り午後3時半過ぎにこの日泊まる予定の最初の村の柵が見えてきた。


「宿の部屋は3部屋空いてるって」


 村の入り口で冒険者カードを提示して村に入るとそのまま宿に向かう。部屋の有無を聞くと空いているという。夕方5時過ぎになると宿泊希望の人が増えて部屋がなくなることがあるというがこの時間なら大丈夫だ。1つ学習したぞ。


 とりあえず初日は野営をしなくても済んだ。部屋は1階で3部屋並んでいる。部屋にはトイレはあるがシャワーはない。水浴びは宿の裏でできると教えてくれた。


「ユイチ、私とユキが先に水浴びする間、外で見張っててくれる?」


「分かりました」


 部屋に入ってローブを脱いで待っているとノックの音がしたので廊下に出るとカオリとユキが立っていた。2人とも私服だ。女性はこんな時でも着替えないといけない。大変だな。


「ごめんね」


「全然」


 水浴びと言っても薄いカーテンで仕切られた中で大きな桶に溜まっている水を体に浴びるだけらしいが汗をかいている2人はそれでも十分に気持ちが良いんだという。この世界だと水浴びは当たり前だし2人ももうそれにすっかりと慣れている。


 2人が浴び終えると交代で俺が水を頭から被った。冷たい水が心地よい。さっぱりすると村の中にあるレストランに3人で顔を出した。


 レストランは1軒しかなくてこのあたりで採れる野菜中心の料理だが交通量の多い街道でレストランを経営しているだけあって味は想像以上に良かった。


「美味しいね」


「とれたて野菜は新鮮だよね」


 初日は何事もなく無事に終わった。



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