第18話
3人でラニア治療院で魔力量を測って貰ってからも俺達は3勤1休のローテーションで冒険者の活動をしていた。
そして俺が収納魔法を覚えてから1ヶ月が経った頃、ユキも無事に収納魔法を会得する。
「私の場合、収納はリビングダイニングの部屋の広さ程度なのよ。やっぱり魔力量がユイチより少ないからかしら」
そうは言ってもリビング程度の広さがあれば相当のアイテムを収納できるぞ。俺がそう思っていると同じ事をカオリが言っていた。
その2日後、ユキが収納魔法に続いて転移の魔法を会得する。と言ってもこれも魔力量の関係で一度の転移で最大5Km程だ。それで魔力が半分以上持っていかれるらしい。でも2人が転移できるのはでかい。魔力が減ったらもう1人にお願いできるので移動スピードがグッと上がる。
「これもそれもユイチのおかげだね」
「そうそう。ユイチが図書館で書物を読んでしっかりお勉強して会得したから私たちも使える様になったんだよ」
「そりゃどうも」
この日は活動の後でレストランで夕食を摂っている。賑やかな場所であることもあって3人とも具体的な魔法の名称などは言わずに話をしていた。
「そろそろシルバーに昇格できると思うのよ。昇格したら装備を変えるつもりなの」
カオリが言うとそのタイミングで私も変えようとユキ。
「ユイチはどうする?」
と2人が顔を俺に向けてきた。個人的には今の装備で問題ないと思うんだけど2人が装備を更新するのならそれに合わせるのがいいんだろうな。この辺りが優柔不断と言われる所以だが。
「2人が更新するのなら俺もしようかな」
「そうしなよ。お金はあるでしょ?」
その言葉に頷く俺。最近はずっと安定して収入がある。一方で支出は食費くらいで多く無いので貯金額が増えていた。装備を更新しても問題ない額は貯まっている。
相変わらず後1人の盾ジョブは見つかっていないらしい。いい人がいないのならこのまま3人で活動を続けてもいいか、なんて話をしている。
「シルバーランクになったらこの3人で他の街に遠征しようか」
「そうだね。気心が知れているし。途中で野営をしても気を遣わなくてもいいしね」
ん?そりゃどう言う意味だろう。と思っていると俺の表情を見たのかカオリが顔を近づけてきた。
「ユイチなら隠す必要ないでしょ?しょっちゅう私達の裸を見てるんだしさ」
「そうそう。お互いにもう隠してる部分なんて無いじゃん。だから野営しても気が楽なのよ」
俺を男として見ていないのかと思ったがどうやらそうじゃなかったみたいだ。でも俺はしょっちゅうは見てないぞ、せいぜい月に2回程だ。それが2人だから月に4回はどちらかの裸を見させて貰ってる。いやこんな話はどうでもいい話だ。いやどうでも良くないか。ん?どっちだ。
その後は俺とユキが会得した2つの魔法について話をする。レストランの中なので具体的な魔法名は言わない。イメージさえしっかりできれば会得できるのにどうして皆できないのだろうという俺の疑問に2人の意見は以前知り合いから聞いた言葉に集約されていると言う。
「皆あの魔法は想像上の魔法、御伽話の魔法だと決めつけているのよ。だから覚えるための努力もしない。私たちは背景が背景だから過去からの言い伝えや思い込みがない。それが大きいんじゃないかな」
なるほど。十分にあり得る話だよ。言われて納得だ。ただ重力魔法はまだ身についていない。簡単そうに見えてこれがなかなか難しいんだよ。浮くのは無理だし相手に重力をかけるのも難しい。浮く、重力と正反対だからだろうか。まぁこっちはのんびりとやろう。
新しい魔法は習得したが特に転移の魔法については使い所を気をつけないといけない。一方収納魔法については周囲に人がいなければ問題ないので俺もユキも収納にたっぷりと水や食料を入れ、予備の装備もその中に入れている。いつでも遠出できる準備は終わっていた。
「外で暖かい料理や冷たいジュースを飲めるのって最高ね」
「ほんとね。今までの干し肉やパンだと気力が出ないもの。収納魔法を覚えてよかったわ。もう干し肉と生温かい水には戻れないよね」
外で魔獣を倒している時の休憩時間に2人が話をしている。俺は周囲の警戒だ。2人が食べ終わってから食事をすることになっている。
「そろそろシルバーに上がると思うのよ。結構ポイント貯めたでしょ?」
この3人の中でカオリがギルドとの窓口として受付に出向いていることもあって日頃からポイントに関する情報も聞いている。その彼女が言うのだから間違いないだろう。
「シルバーになったらすぐに遠征する?」
「それについては3人で相談ね。どこに行くかとかどれくらいの期間行くかとか決めないとね」
そう言った後でカオリが俺に声をかけてきた。
「ユイチもそれでいい?」
「もちろん」
お姉さん2人が考えることに間違いはないと信じてるよ。少なくとも俺よりは色んなことを考えているのは知っているし。
その後のカオリとユキが話をしているのを聞いているとカオリが出かける街の候補をいくつか持っているらしい。このポロの街は南部最大の街なのでどこの街に出かけるにしても北上していくことになる。
「ユイチも自分が行きたい所があったら教えてね」
「分かった」
そう返事するが俺は基本ずっとポロの街で構わないと思っている。ただ前にユキから自分たちのベースはポロで変えないと言っていたので旅行気分で動くのなら他の街を見てみるのも良いかなと思う様になっていた。
その日の活動を終えてポロの街に戻ってきた俺達。カオリが代表してギルドに報告と精算をしている間俺とユキは酒場のテーブルに座ってジュースを飲みながら待っている。
「お待たせ」
カオリが戻ってきてユキと俺のギルドカードを渡すと椅子に座ってテーブルにある自分のジュースを一口飲んでから俺とユキを見た。
「もう少しでシルバーだって。受付で聞いたら今日のペースだとあと3、4回で昇格するって言われたの」
「来週には昇格できそうね」
「そんな感じね」
シルバーランクになると一人前の冒険者というのがこの世界の認識だ。冒険者になった者は皆シルバーランクを目指して活動をする。そしてシルバーなったらそこからは個性が出る。さらに上を目指す冒険者もいればシルバーで満足して無理をせずに活動をする冒険者もいる。ゴールドやさらに上の滅多にいないプラチナになるためには自分よりもずっと強い敵を倒しまくらないといけない。俺は絶対無理だ。でもそれに挑戦している冒険者達がいるのも事実だ。
個人的には世間から一人前と認められているシルバーのままのんびりと過ごしたと思っているがそれを口にすることはない。波風を立てないというのが俺のポリシーだ。日和見主義者と呼んでくれ。
目の前に座っている2人がシルバーになった後どういうことを考えているのかは知らない。知っているのはどこかに遠征に行こうということだけだ。あまり先のことを考えてもその通りに行く事の方が少ない。ある程度行き当たりばったりでもいいのかなと思っている自分がいる。何事も深く考えないのは昔からだ。
翌日の活動を終えた次の日、休養日のこの日俺は図書館に顔を出した。以前ここで時空魔法の本を読みながらグーやパーをやって怪訝な顔をされたので行くのを躊躇していた。恐る恐る図書館に行くとあの時と同じ司書の女性がいたが俺を見ても何も言わなかった。ほっとしたよ。
今日の目的は地図だ。詳細な地図はないがおおよその町の場所が書かれている地図はある。どう違うかと言うと高低差がわからない。道と街とが書かれているシンプルな物だ。
テーブルの上に広げて地図を見ると、ポロは南部にあり王都は北部にある。これは以前の知識通りだ。それ以外にポロから北西に行くと港町サンロケがあり北東に行くと山裾にベールヒルという街があった。
どちらの街も地図で見る限りポロから徒歩で1週間から10日程の距離にある。街の大きさは地図ではよくわからないけどポロが南部最大の街らしいので大きくてもこの街と同程度、おそらくここより少し小さい規模の街になるんだろう。街道の途中にも村なのか小さな街がある。毎日野営をしなくても済みそうだ。
別の本を取り出してサンロケとベールヒルについて見てみる。サンロケは港町ということもあって漁業が盛ん、ベールヒルは林業と鉱業が盛んでいずれの街にも冒険者ギルドはある。食べ物を考えたらサンロケかな。海産物がありそうだし。
一緒に活動をしているのでカオリとユキが何を考えているのかはおおよそはわかる様になっていた。最初の遠出だしいきなり遠方は目指さないだろう。おそらくサンロケかベールヒルのどちらかを提案してくるんじゃないかな。聞かれたら港町サンロケと答えよう。




