第17話
「ユイチ、魔力はまだ余ってるの?」
「うん、それは問題ないね」
「それだったらここから師匠の洞窟まで飛べるんじゃない?」
カオリがそう言ったが流石にユキが止めた。
「飛んだばかりだから、次やるのなら魔力が回復してからの方がいいわよ」
「そっか。そうだよね、今まで魔力使ってるものね。ユイチ、ごめんね」
「いえ、全然」
その後俺たちは飛んだ先の森の中でブロンズの討伐対象の魔獣を倒し、そこからまた森の出口付近まで飛んで森を抜けると草原を歩いてポロの街に戻ってきた。
ギルドでカードを記録し、討伐部位や魔石を買い取ってもらった俺たちはギルドを出て屋台で串カツを買って公園のベンチに座って食べる。これが今日の夕食だ。いつもはギルドの中にある酒場や外のレストランだが今日の話は周りに聞かれたくない。なので公園のベンチにした俺達。食事をしながら転移の魔法について話をし、それが一段落したところで俺は2人に言った。
「食事が終わったらラニア治療院ってところに行って魔力量を測定してもらおうと思ってるんだ」
感覚的なものだが自分の体内にある魔力量が増えている様な気がする。この街に来て冒険者になった時に測ってもらって以来魔力量を測定したことがないので転移の魔法を覚えたこともあって改めて測って貰うつもりだと話すとユキが自分も一緒に行きたいという。
「私なんてこっちの世界に来てから魔力量なんて正確に測ったことがないのよ。どれくらいあるのか知りたいじゃない」
結局3人で行くことになった。
ラニア治療院の扉を開けると中にはお客さんは誰もいなかった。扉についている鈴の音を聞いた先生が奥の部屋から出てきた。相変わらず白衣を着ている。
「おや、ユイチじゃない。久しぶりだね。どうしたんだい?」
俺は後ろに立っているカオリとユキを紹介して今この3人でパーティを組んで活動をしているんですと言ってからここに来た目的を話しする。
「ランクが上がって今俺は精霊士、ユキは僧侶、カオリは戦士なんですよ。それで最初にここで先生に魔力量を測ってもらったじゃないですか。感覚的にその時よりも魔力量が増えている気がするんでもう一度魔力量を測定してもらおうと思って」
俺の話を頷きながら聞いているラニア先生。
「いい心がけだよ。ユイチの言う通り、ジョブを取得すると魔力量が変化する。今の自分の魔力量を正確に理解するのは必要だよ。ユキはもちろん測ってあげるしカオリも測ってあげるよ」
そう言うと一旦奥に引っ込んだラニア先生。戻って来た時は両手で箱を抱えてきた。俺達の前のテーブルの上にその箱を置くと蓋を開ける。中にはこの前見た水晶とは違う水晶が入っている。大きさ自体は以前のよりも小ぶりだがそれが3個入っていた。
先生が箱の中に入っている3つの水晶を指差しながら言う。
「これは以前ユイチの魔力量を測定した時の水晶よりもずっと精度が高い。測定の前に簡単に説明をするとこの左端の水晶から順に右手、左手、そして両手と触ってくれるかい?右に行くほど魔力量がないと光り方が弱くなる」
「私からやるね」
カオリが言った。じゃあ次は私とユキ。順番が決まったところでまず左端の水晶を取り出して柔らかい敷物の上に置いた先生。
カオリが置かれた水晶に右手を触れるとぼんやりと光る、左手も同じだった。両手で水晶を包む様に触れると光ったがそれでもまたぼんやりしている。
「普通の前衛ジョブの人よりは多いね。この水晶だと光らない前衛職の人はいくらでもいる。普段の生活魔法で使う分には全然問題がないよ。街の市民よりはずっと多いね」
ありがとうございますというカオリ。自分にも魔力があり、それが一般人以上だと分かって表情が明るいよ。
続いてユキが水晶に触れた。光方、輝きが違う。左手を触れただけで光輝いたのを見た先生は水晶を2つ目のに変えた。
「今度はこっちの水晶で同じ様に左、右、両手で触って」
「はい」
2つ目の水晶もそれなりに輝いている。魔力量が多いねと先生は3つ目の水晶を置いた。それに触れると左手、右手、両手でも光るが光り方が弱い。
「ユキの魔力量も多いね。普通の僧侶や精霊士よりはずっと多いよ。魔力量で言えば上クラスの下のレベル。上クラスの魔力量の人はあまり多くいないよ大抵は中クラスの中か、よくて中の上だよ。自慢して良いレベルだね」
「ありがとうございます」
ユキも魔力量が多いと言われて表情が明るい。お姉さんの落ち込んだ顔は見たくなかったから俺もほっとしたよ。そして俺だ。と思ったら今ユキが手に触れた3つ目の水晶を指差した。
「ユイチの魔力量が多いのは知っている。あんたは最初からこの水晶に触れてくれるかい」
「分かりました」
俺が左手で水晶に触れた瞬間お姉さん2人が「すごい」と声を出した。水晶は眩しいくらいに輝いている。その後右手で触れても同じで両手で触れると一段と輝いた。
「ユイチ、あんたまた魔力量が増えてるよ、それも大幅に増えてる」
「そうなんですか?」
水晶から手を離して先生に顔を向けた。
「間違いないね。ユイチの魔力量は上の上、それも最上級クラスだよ。前はユイチより魔力量が多いのは1人しか知らないって言ったけど今のを見るとその1人と同じかひょっとしたらユイチの方が上かもしれないね。ここまでの魔力量の多い人はいないね」
無能だとボロクソに言われてこの世界に飛ばされたが、こうやって言われると嬉しくなってくる。先生からはここまで魔力量が増えるのは毎日相当魔法を使うか鍛錬をしていないと無理だよと言われた。
「そう言えば冒険者になってからは休みの日も朝から夕方まで部屋でライトの魔法や水玉の魔法を作って鍛錬していたよ。今考えたら魔法を使わなかった日は無いね」
俺がそう言うとそれだね!と言った先生。先生は俺から女性2人に顔を向けて言った。
「今のを聞いただろう?魔力量を増やす最も手っ取り早い方法はとにかく魔法を撃つことなんだよ。たとえそれが魔力の少ないライトの魔法でもいいんだ。魔法を使うという行為が魔力量が増えることにつながっているからね」
「じゃあ私もこれから毎日魔法を使っていれば増えますか?」
ユキの言葉にもちろんと即答する先生。
「カオリも同じだよ。ただあんたの場合はジョブが戦士だからこの2人のレベルは無理だ。無理だけど体内の魔力量を増やせることはできる。魔力量が増えると戦闘でも疲れにくくなることは証明されているんだよ」
先生によると魔力量が多い人は疲れにくいという研究結果があるらしい。なので一見華奢に見える後衛の女性が街から街へ長い距離を歩いても戦士の男性と同じペースで歩けるのだという。体力は劣るが魔力で補っているからできるんだよと教えてくれた。
「ユキの場合はユイチほどの量まで増えるかどうかと聞かれたらそこは分からないんだよ。増えるのは間違いないと言われている。ただ無限に増え続けるもんでもないんだ」
「それでも魔力量が増えるのであれば鍛錬する意味がありますよ」
俺たちはお礼を言って診察料を払って治療院を出た。
「私たちもこれから鍛錬するわよ」
「うん、頑張って」
次の日は街の外から師匠の洞窟を目指す。ポロの街から師匠の洞窟までは草原を4時間歩いてそれからまだ森の中を半日歩かないといけない。距離にしたら30Kmくらいはあるだろう。まだ2Kmほどしか転移をしてない俺にいきなり30Kmはきついので数度に分けて転移をすることにする。転移するとその都度自分の魔力量がどれくらい減ったかというのを感じながらの移動だ。
結局10回も転移せずに無事に洞窟に着いた俺たち。最初は2Kmだったが次はもうちょっと距離を伸ばしてみようと転移し、最終的には10Km近く転移して魔力が半分程持っていかれた感覚だった。
「数時間で洞窟に着いちゃったわよ」
「本当。ユイチのおかげね」
洞窟でお花を添えて祈りを捧げた俺たちはそのまま洞窟の中で休憩しながら話をしている。もちろん師匠には新しい魔法を会得したことを報告したよ。
「慣れたら普通に20Km程度の転移はいけそうだね」
お祈りが終わった後でユキが言った。20Km飛べることができれば2回の転移で洞窟に行ける。
「多分。そのくらいなら魔力が枯渇することは無いと思うよ」
感覚で大丈夫だと分かる。
「これで他の街に遊びに行くのも楽になるね」
カオリが言った。確かにそうだ。行きは場所を覚えることもあって転移の魔法はほとんど使えないだろうけど帰る時はかなり時間が短縮できそうだ。ただ周囲に人がいない場所という条件がつくけど。
ユキは自分も部屋で収納魔法の鍛錬をしてそれができたら次は転移魔法に挑戦すると言ってる。収納と転移魔法を2人が使えると楽だよね。
洞窟で休んだ俺たちはその森の奥で魔獣を倒して夕方にはポロの街に戻ってきた。現地で3時間ほどしっかりと狩りができたよ。野営をしなくて済んだのでお姉さん2人も大喜びだった。もちろん俺もしかり。やっぱり夜はベッドで寝たいもの。




