表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/139

第16話


 今のブロンズランクでの討伐で十分に生活費を稼ぐことができる。あくせくする必要がない。3日活動して1日休みのローテーションを続けながら俺は時間がある時に時空魔法の鍛錬を続けていた。


 と言ってもなんとかなりそうだという感覚はまだ全く掴んでいない。相変わらず部屋でグー、チョキ、パーを繰り返している。いや、チョキはないな。文字通り雲を掴むような話だ。うん、我ながら上手い事言ったな。


 イメージだというが元々想像力が低い俺は何もない空間に収納するというのがどういうものがどうなのかピンとこないままだ。



「最近元気がないわね。何かあったの?」


「そうそう、悩んでいるみたいじゃないの。お姉さんに相談してもいいんだよ?」


 この日の活動が終わって3人でポロの市内のレストランで夕食を摂っている時にカオリとユキが話かけてきた。時間が早いせいか俺たちの周囲のテーブルに他の人達は座っていない。彼女達には様子がおかしいとバレていた様だ。俺は実はと言って図書館で見つけた本で時空魔法の会得の鍛錬をしているんだけど上手くいかないという話をする。


「それで悩んでいたのね。心配したわよ」


 話を聞き終えるとユキが言った。


「ごめん」


 謝る俺。女性を心配させちゃあいけないよな。


「その新しい魔法をマスターしたら収納魔法はあるし移動魔法もあるんでしょ?今よりもずっと便利になるじゃない」


 俺の話を聞いたカオリがそう言ってきた。


「それはそうなんだけどその会得、習得が難しくてね。魔法はイメージだと言われているんだけど収納のイメージがよく分からないんだよ」


「収納かあ」


 そう言ったユキ。


「私も使えるかもってことだよね」


 と続けて言う。


「魔法だからね。魔力があれば使えると思うよ。本によると魔力の量によって効果が変わるらしいけど」


「それでも使えたら便利よ」


「その通りなんだよね。中では時間が止まっているらしいから食料も腐らない。遠出するときにはすごく便利な魔法だと思うんだよな」


「ユイチ、その魔法を絶対に会得するのよ!」

 

 カオリさんがテーブル越しに顔を突き出してきた。美人に迫られるってのはこんな感じなのかな。思わずはい!わかりました!と返事したよ。


 その後は食事を続けながら3人で収納のイメージについてあーでもないこーでもないと話をする。


「空間に収納することに拘るといけないのかも」


「普通のカバンに入れる感覚?」


「そんな感じかも」


 と3人で話をすると言いながら実際は女性2人の話を聞いている俺。ただ今までと違った視点からの考察は参考になる。


 食事を終えると3人でポロの街中をアパートに向かって歩いていた。明日は休養日なので皆リラックスしている、もちろん俺もだ。そしてこの街は治安が良い。ほとんどのエリアは夜歩いても安全だ。


「あ〜あ、温泉に行きたいわね」


 カオリが言う。


「ここは良い世界なんだけど温泉がないのがね。3人でゆっくりと温泉に浸かりたいわよね、ユイチもそう思うでしょ?」


 ユキの言葉に思わず目を見開いたよ。3人で温泉に浸かる?この美人のお姉さん2人と一緒に温泉?


「もちろん。ゆっくり浸かりたいよね。疲れも取れるし」


 多分俺のすけべな想像と彼女達の想像は違うのだろうがそれは気にしない。


「和風の旅館でさ、浴衣に丹前とか着てね」


「そうそう」


 そんな話をしながら通りを歩いている。俺も浴衣を着ている自分を想像しながら歩いていた。温泉か、確かにあれは日本人の拠り所の一つだよ。


 また明後日と挨拶をして部屋に戻ってからも俺は温泉のことを考えていた。温泉といえば浴衣、裾にスマホと小銭を入れて風呂に行って湯上がりに自販機で飲み物を買ったなぁ。


 思い出しているとふと思った。あの浴衣というか丹前の腕の裾にスマホを入れる感覚でできないか?浴衣は着ていないが着ていると思って左腕の下の部分に右手を伸ばしてみる。


「おっ」


 今までとは違う感覚だ。このまま続けよう。


 そして3時間後。


「出来たぞ!」


 今何もない空間に皿を入れて何もない空間から皿を取り出した俺は思わず大きな声で叫んでいた。


「出来たの?」


 扉が開いてユキとその後からカオリが部屋に入ってきた。2人とも私服だ。部屋にいたからラフな格好でしかもどう見ても2人ともノーブラだ。


 いや、そんなことを気にしている場合じゃない。


「出来たんだよ。さっき温泉の話をしてただろう? 温泉でさ、よく浴衣の上に着る丹前の裾にスマホとか小銭を入れて旅館の中を歩いていたじゃん、それを思い出してイメージしてやってみたらできたんだよ」


 そう言って2人の前でテーブルの皿を収納に入れると目の前から皿が消えた。左腕の下に手を伸ばして引くと手には皿が。


「すごいじゃん」


「流石にユイチね」


「2人が温泉の話をしてくれたおかげだよ」


 その後色々検証してみるとどうやら収納の広さは俺のアパートの自分の部屋の広さくらいはありそうだということ。冷たい水を入れて時間を置いて取り出したら入れた時の冷たいままだったこと。収納中は魔力の消費は無いみたいだ。入れる時と取り出す時に少しだけ魔力を使う感覚はあるがほんのわずかなものだと思う。


 ユキも自分の部屋でこれからそのイメージでトレーニングをやってみると言う。そうそう2人収納があると絶対便利だからね。


 翌日は1人で街の外に出てみた。周囲に人がいないのを確認すると移動魔法の練習をする。いきなり遠くに飛んで魔力がなくなってフラフラになったところを魔獣にやられたなんてことにならない様に近くから鍛錬を始める。

 

 正直こちらは楽だった。100メートルほど先に飛んでもほとんど魔力が減ったという認識がない。こりゃいけるぞと鍛錬を続けてこの日は最後は1Kmほど転移、移動したが全く問題なかった。


 翌日の活動日に早速食料を収納に入れて街の外に出る。外を歩きながら転移の魔法を会得したと話をすると2人が驚くと同時に俺に忠告してきた。


「ユイチ、時空魔法の事は大っぴらに言わない方がいいわよ」


「そうそう。私たちだけの秘密にした方がいいわ」


 彼女2人は昨日の休みの日に市内で知り合いの女性冒険者達と話をして色々聞いてきたらしい。時空魔法とは言ってないらしいが収納魔法や転移の魔法があるらしいわねと言った感じで話を持ちかけたという。その時、ベテラン冒険者達は首を左右に降ったそうだ。


「あれは幻の魔法よ。書物には書いてあるけど実際に使える人はいない。昔からあんな魔法があったら便利だよねという話で使える人は誰もいないわ。御伽話の世界の話よ」


 と皆口を揃えて言っていたという話だ。マジか。


 俺はその話を聞いて分かりましたと大きく頷く。こんな魔法を会得しましたとバレたらどう言うことになるのか。俺でも分かる。とてもじゃないがこの世界で地味に暮らしていくという人生設計が根底から崩れてしまう。それは絶対に避けたいところだ。


 そんな話をしながら外を歩いていて森の中に入るとカオリが転移の魔法を使ってみてと言ってきた。


「えっと、一緒に転移するには俺に触れる必要があるので肩に手を置いてくれるかな?」


 そう言うと2人が左右から俺の両手にしがみついてきた。胸の膨らみがグイグイと腕に押し付けられてきた。これは天国だよ。


「何他人行儀な事言ってるのよ、ユイチに触れると言ったらこれでしょ?」


 そう言ったカオリがまたグイグイと胸を押し付けてくるし、ユキはユキで俺の腕にしがみついてくる。


「そうそう、いつも私たちの全てを見てるくせに」


 と言って胸の谷間に俺の腕を挟んできた。


「いや、まぁ、そうなんだけどさ」


 このままの状態が続くとやばいと思ったので俺は行くよと言ってから森の中の記憶していある場所をイメージする。


 ちょっとした浮遊感があり、次の瞬間に俺たちは森の中まで移動していた。


「すごいじゃない。何キロ位移動できるの?」


 最初キョロキョロと周囲を見ていたカオリが自分達がしっかりと転移できたのを確認するとそう言ってしがみついたまま言う。ユキもしっかりと腕に抱きついている。


「自分でもまだよく分かっていないんだけど数キロなら問題なさそうだね。今も3人で移動したけど魔力が減った感じがしないんだよ」


 美人2人に両腕に抱きつかれたままだよ、思わずにやけてしまうが許してほしい。滅多にない事なんだからさ。


「多分だけど今の転移で2Km以上は飛んでるわね。ユイチすごいじゃない」


 そう言ってユキが腕をギュッと抱きしめてくれる。 


「本当よ、これってすごい魔法よ。それとやっぱりユイチの魔力量は凄く多いわね」


 お姉さん達から高評価いただきました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ