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第15話


 最初にこの世界に来て和田師匠が彫った木片の文字を読んだ時はこの世界で目立たない様に地味に生きて行こう。そう決めたが日本人女性2人と知り合って一緒に活動を初めてから少しずつ最初の考えから変わってきたと感じている自分がいる。

 

 女性2人に引っ張られているのは間違いないがそれでもポロの街に来た時よりは気持ちも少し強く持てる様になった。カオリとユキは前向きな考えをする人たちだ。今まで自分の数少ない、いやほとんどいなかった友人と呼べる人たちには前向き志向の人はいなかったので最初は戸惑っていたけど、1年近く一緒に活動をしていると色々と感化されてくる。でもこれは悪いことじゃないのだろう。


 方向性は決まったがすぐにポロの街を出ていくわけじゃない。なんと言っても俺たちはまだブロンズランクだ。



 休日明けからまた3人で活動をする。一時はガツガツと敵を倒していたが最近はそこまでガツガツしなくなっていた。女性2人に言わせるとシルバーランクを目指すけど急がない。この世界を楽しみながら強くなりましょうということらしい。


 強くなるというのは置いておいてガツガツしないというのは俺も賛成だ。ガツガツしなくても十分に余裕のある生活を送ることができる。


 最近はずっとトロルを相手にしているがもうすっかり慣れたものだ。普通は慣れてくると作業感が出てくるものらしいが俺は単調な作業が続くのは何も問題ない。作業の様に倒してお金をもらえるのならそれが一番だよ。リスクは取りたくない。冒険者のリスクといえば怪我や死だからな。そんなのは御免被りたい。


 カオリとユキは活動の合間にもう一人の盾ジョブが出来るメンバーを探し続けているが上手くいってない様だ。


「いい人は大抵パーティを組んでいるのよね」


「余っている人はパーティを組んでいない理由があるしね」


 3人で食事をしている時にそんな話をしている2人。元々あと1人の人選についてはお姉さん方に任せている身としてはフォークを口に運びながら彼女達の話を聞くだけだ。


「ユイチは誰かこれって人いる?」

 

 カオリが話を振ってきた。条件反射で首を左右に振る。俺が誰か知ってる訳がない。まして女性だよ?無理だよ。友人なんてこのポロの街、いやこの世界では目の前にいる女性CAさん2人以外誰もいない。自慢にも何にもならないが。


「そっか、まぁのんびり探しましょう」


「そうね。焦ることないしね」



 活動が休日のこの日、俺は一人でポロ市内の図書館に足を向けた。スマホもネットもない世界で知識を得る為には同業者に情報を聞くのが一番早いだろう。ただ悲しいことに俺には聞く相手がいない。


 図書館にある本は最新の情報ではない。ではないが他に情報の入手手段がない俺にとっては有効なツールだ。特に今回調べようとしているのは魔法についてなので図書館の本でも問題ないだろう。魔法の仕様がそう頻繁に変わるとは思えないし。


 図書館は今日もガラガラだった。IDカードを見せて中に入った俺は棚から魔法に関する書籍をいくつか手に取ると机に座る。持ってきた本は横に積み上げた。精霊魔法や回復魔法などの魔法は有名でどういう訳かこの世界に飛ばされた俺もイメージするだけで発動できるが全ての魔法が本当にイメージだけで発動できるのか。逆に発動しない魔法があるんじゃないか、その場合にはどうやったら発動できるのか。ひょっとして他にもまだ自分が知らない魔法があったりして?といった事を調べるのが目的だ。


 幸いに俺は時間はたっぷりとある。友達もいない、物欲が高い訳でもない。食べ物に拘りはない。他にもあるだろうがこれ以上考えると自分が惨めになりそうだから考えるのをやめた。


 魔法関連の書物の中に記載されている魔法は当然ながら今多くの魔法使いが使える魔法ばかりだ。その威力を高めるにはどうすればよいか、魔力量を増やすにはどういう鍛錬が良いかと言った説明が書かれている本が多い。


 何冊目かの本に目を通して、無いのかなと思って次の本を手に取って読み始めるとまさしくこの本が自分が探していた本だった。


 『時空魔法とは』


 そんな書き出しで本が始まっていた。


 時空魔法とは空間に干渉する魔法で具体的には収納魔法、重力魔法、そして転移魔法があると書いてある。どの魔法も初めて聞く名前だが名前からどんな効果があるのかが推測できる。


 それで取得のためにはどうしたらいいんだろう?そのまま続けて本を読む。


 時空魔法も基本はイメージを具現化することでできる魔法らしい。ただ空間に干渉するということで相当魔力量がないと難しいということが書いてある。


 空間に干渉する?イメージ? 俺は本から目を離すと顔を上げて図書館の天井を見ながら考える。火の魔法、水の魔法はイメージがしやすい。それは火も水も実際に見ることができるからだ。


 俺の目の前には天井が見えているが俺と天井の間には空間がある。これに干渉することで時空魔法が発動できるという。干渉するって具体的にどうすりゃいいんだ?天井を向いたまま両手を伸ばして空間を掴んでみる。右手、左手だけでもやってみる。


 当たり前だが何も変わらない。顔を天井から下ろした時に図書館の司書の女性と目があってしまった。驚いたというか変なものを見る目で俺の方を見ている。あの人は何をやってるんだろう?頭がおかしい人?そう思われていそうだ。確かに椅子に座りながら手を伸ばして天井に向かってグーやパーを何度もやってる男を見ると頭がおかしいと思われても仕方がない。逆の立場なら俺だって変な奴とは関わりたくない、あのおかしい人、早くここから出て行ってくれないかなと思うだろう。


 とりあえずグーやパーの訓練は自分のアパートの部屋でやることにして先に本を読もう。


 時空魔法と呼ばれる魔法には収納、移動、重力があると書いてあったが読んでいくとそれぞれについてより詳しい説明があった。


 収納魔法は文字通り空間に干渉してそこにアイテムを収納することであり理論的にはそこは空間が捩れているので中では時間が停止しており、その中に入れた食料や水は腐らない。ただ生き物についてはその空間では生きてはいけないだろうと言うことだ。


 生き物を入れられないのは問題無いだろう。それよりも中に入れている食料が腐らないのは魅力的だ。そしてその収納できる広さについては魔力量に比例するらしい。


 移動魔法は文字通り魔法で瞬間移動する事だが魔法がイメージを具現化するという行為であることから行ったことがない場所への転移はできない。当然といえば当然だよな。そして転移、移動できる距離はこれまた魔力量に比例すると書いてある。ただしどう言う訳か、移動魔法は時空魔法の収納魔法を覚えないといくらイメージしても発動しないらしい。空間に干渉する収納魔法を習得することが次の魔法トリガーになっているのかな。


 重力魔法は空間にある重力を魔法で調整することでこれによって浮遊したりあるいは敵に重力をかけることで動きを鈍らせたりすることができる魔法だ。これまた魔力量と関係していて浮遊、飛行できる距離や高さ、重力をかける敵との距離については魔力量に左右される。


 ここまで読んでふと思った。


 この本を書いた人はこの時空魔法を使いこなせていたのだろうか?

 本の著者名を見てみると王都魔法学院編纂としか書いていない。いろんな人から聞いたことを纏めてある本だ。実際に時空魔法を使っていた人から聞いたのか、あるいは伝聞だけで書いたのかがわからない。ひょっとしたら噂話や伝聞を集めたのかもしれない。


 それでも構わない。無駄骨に終わるかもしれないが今の俺はこの時空魔法を覚えてみたいと強く思っていた。こんなにやる気を出すのは生まれてから初めてじゃないか。うん、間違いない。物心ついて初めてやる気になっている自分がいる。これもそれもお姉さん2人におんぶにだっこという今の寄生状態の中で何か貢献したいと思っているからなのだが。理由はどうあれやる気が出た自分を褒めてやりたい。


 訝しげな顔をする司書のお姉さんに会釈をして図書館を出てアパートに戻った俺は部屋で時空魔法の中のまずは収納魔法の習得の訓練を始めた。


 ここなら周りの目を気にせずにグーでもチョキでもパーでもできるぞ。


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