第138話
翌日から2日かけて残りの東、西、そして南の地区を探索した。簡単に言うと、どのエリアもそれほど大差なかったが、あえて言えば高級店と呼ばれるランクの店やレストランは北エリアに集中している。これは北エリアから住宅街を抜けると領主が住んでいるエリアがあるからだという結論になった。要は北エリアは金持ちのエリアだってことだ。
「明日からは各エリアももう少し詳しく見てみるとしてさ、今までの3日間、マミナの街を歩いてみた感じを言い合わない?」
いつもの通り3人で話をする時の司会というか進行役はカオリだ。彼女は話がそれると戻してくれるし、かと言って固い話ばかりをするわけじゃない。本当に適任だよ。
俺たちは今宿のレストランにいる。レストランの食事の値段はポロと同じレベル。味は悪くない。幸いにレストランは空いていて周りに聞かれることもない。皆外で食事をするのかな。ちなみに俺たちは皆魚がメインの料理を頼んだ。ポロでは魚料理は高いんだよ。
「治安はいいよね。目つきの悪い人を見なかった」
「そうそう。ポロ並みかそれ以上よ」
「レンネルだと昼間から変な目つきをした人がいたものね」
男の視線には敏感なお姉さんが言っているが俺も治安の良い街だなという印象を持った。定期的に領主所属の騎士、兵士が街を巡回しているからだろう。俺が言うと確かにそれはあるという二人。
「でもそれ以外に街の雰囲気ってあるじゃない。歩いている人たちの表情とかさ。兵士が巡回してても緊張している感じじゃないでしょ?普段通りの生活をしているよ」
そう言われてみればそうだ。3名ほどの兵士が固まって巡回しているがそれを見ている住民達の雰囲気が変わらないんだよな。これは自慢になっちゃうけど俺たちゴールドランクの冒険者は周辺の気配、空気を読む能力が高い。これは森や山の中で魔獣を探している間に周囲の空気を読む能力が勝手に身につくんだ。気配を読めないと突然木の間や岩陰から魔獣が飛び出してきた時の対応が遅れ、それで大怪我をしたり、最悪は命まで落としてしまう。
兵士を見て空気が変わったとしたら俺たち3人の中の誰かが気が付いただろう。3人全員が気づく事もありえる。というかそっちだろうな。3人皆同時に気が付くだろう。だってゴールドランクだもの。
今日1日で市内のあちこちで巡回している兵士たちを見たが、その場に緊張が走って空気が変わったことはなかった。兵士の巡回が街に溶け込んでいるんだ。
治安が良いのは確認できた。
「市場で売られているのも結構揃ってたわよ。品数も多い。食料品はポロと比べると肉は高め、魚は安めだなって思った」
市場は街の東エリアに結構大きいのがある。中を見たけど野菜、肉、魚が売られていた。俺がポロの街で買い出しをしている市場よりも広くてびっくりしたよ。品数も多く、値段もリーズナブルだ。
「肉はポロと同じ鹿の肉だね。魚は海のだよね。サンロケで見た魚がいたわよ。海鮮の値段はどうだろう。サンロケ並み?ポロよりは安いよ」
カオリもユキもしっかり見ている。
「市場以外で気がついたことはあった?」
カオリが言った。ここは俺も何か言わないと。
「ハンターだっけ?彼らが外で使うであろう武器屋や防具屋が南エリアにそれぞれ2軒、合計で4軒しかなかったね。少なくない?」
俺が言うとそうそうとお姉さん二人が言った。
「ハンターの数が少ないのか、それとも他に理由があるのか。それにさ、武器屋も防具屋もそう大きくないよね。中は見てないけど品数も多くなさそう」
「ユイチは店の数が少ないのはどう思う?」
「うん、まずハンターの数が少ないんだろうと思った。街の中でもほとんど見なかったし。あと思ったのはあの装備や武器で魔獣を倒しているとなると、俺たちみたいなパーティ単位の行動じゃなくて大勢で倒しているんじゃないかなって。数の力で倒すのなら装備は最低限でも何とかなるでしょう?」
「なるほどね。すごいね、ユイチ」
カオリが感心した声を出した。
「本当よ。私はハンターと聞いてもさ、最初からポロと同じで5名程のパーティ単位で行動していると思い込んでた」
ユキもそう言ってくれた。お姉さん二人に褒められると嬉しいぞ。
「でもよく考えたらユイチの考えた事が正解じゃないかな。というのはさ、」
カオリが言った。俺とユキがカオリに顔を向けると話始めた。
「何名かは分からないけどさ、集団で倒すのならジョブとか関係ないでしょ?一番最初に山奥の街に言った時もあの街の人たちが言ってたじゃない、大勢で一斉に魔法を唱えているって。つまりこの国の人にとって魔獣を狩るスタイルは集団で攻撃するのよ。山奥の街の人も過去からこのアルキダの国でやっている狩りのスタイルを代々継承していたのよ」
確かに街の人、カシュかホートンのおっちゃんがそう言っていた記憶がある。
「そう考えると防具や武器にお金をかけないのも理解できるの。それと同時に山奥の街の人のご先祖様がこの国で迫害されたのも分かる。皆魔法に対する知識というか認識が低いのよ。そんな中で転移だ浮遊だという魔法が出たら国とってはとてつもない脅威よ」
俺たちの様な冒険者、つまり魔法のレベルがそこそこ高い連中がいるレアリコ王国の中ですら、転移だ浮遊だという魔法が知れたらとんでもないことになるとナッシュ先生が言っていた。魔法について後進国であるアルキダ国の人にとったら脅威も脅威、大脅威と感じただろう。
「明日は気になった店に入ってみようか」
「そうだね」
「そうしましょう」




