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第135話



 出発は昼過ぎだった。彼らの転移の距離から逆算して、この時間に出ると夕方、日が暮れる前に最後の山の上に着く。そこで日が暮れるのを待ってから山から降りて一気に街の中の拠点に飛ぶ。そんな行程だそうだ。


 俺たちは一度東の山の端までは行っているけど、今回は彼らの拠点、一軒家に飛ぶ必要があるので往路は彼らについていくことになっている。


 今回山奥の住民でマミナに向かうのはカシュ、アクス、クチャ、それとオスナの男性4人だ。過去は5人で出向いていたが、転移の距離、収納の量が増えたので4名でも以前よりずっと多くの物資を持ち帰れる。マミナにいくことができる人が多くなったこともあり、ローテーションも1ヶ月から3週間に短縮したそうだ。


「2件目の拠点となる家を探そうかという話も出ています。目立たないというのが一番なので急いでいません。いい物件がなければ買わないという選択肢ももちろんあります」


 初日の山の上での野営の時にカシュがそう言った。目立たないということを知った上での2軒目を探すかもしれないと聞いて、カオリとユキがわかってるのならいいんじゃないかなとテントの中で言っていた。もちろん直接彼らに言うつもりはない。街の人の将来は街の人が決めるべきだしね。そのやり方に口を挟むつもりはないよ。


 転移の距離が伸びたおかげで、以前は4日かかっていた移動時間が今は3日と1日短縮されている。俺たちは彼らが次の目標を教えてくれるとそこに飛んで、また次の目標の指示を待って飛ぶことを繰り返しているが、一緒に転移をしていると彼らの距離が伸び、魔力量も増えているのがわかるよ。4名が交代で転移をしているが皆魔力に余裕がありそうだ。


 3日目の夕刻、最後の山の上に到着した俺たち7人。俺たちが見ている先には日が沈む前のマミナの街が見えている。


「暗くなるまでここで時間を調整します」


 俺たちは少し隠れた場所に腰を下ろした。もちろんここでテントを張るなんてバカなことはしないよ。岩にもたれて水分を補給し、軽食を口に運ぶ。


「今は他の人たちが家にいるんだよね?」


「そうです。彼らは私たちが着いたらそのまま夜の内に家から森に飛んでそれから山を転移して自分たちの街に戻ります」


「一軒家って住宅が固まっているエリアにあるの?」


 カオリとユキが次々と質問をする。俺はオークの串焼きを食べながらやりとりを聞いている。俺が聞かなくてもお姉さん二人に任せておけば何も問題がない。


「住宅が固まっているエリアの端にあります。街の中心部からは少し離れるんですが、その代わりに人の往来が少ないんですよ。近くに大きな墓地があるので夜も周りから見られる可能性は低いんです」


 墓の近くと聞いてびっくり。どっちかと言うとそっち系、お化けだホラーといった類は苦手なんだよな。ただお姉さん二人は平気みたいだ。


「そうなんだ。それだと見つかるリスクは低いよね」


 そうカオリが言っている。ユキも平然としているし、根性据わってるよ。いや俺が臆病者なんだろうな。


「そろそろ行きましょう」


 どっぷりと日が暮れた。山の上から見るとマミナの城壁の中とその北にある村の灯りが見えるだけでそれ以外には灯りは全くない。


 山裾まで飛んで森の中を歩いていくが、確かに魔獣の気配がしない。それでも一応周囲を警戒しつつ歩いて森の外に出た。見る限り周囲に何かがいる気配はない。


 ここからは俺たちは目標を知らないので4人の肩に手を置いた。次の瞬間、俺たちはどこかの庭にいた。確かに柱と屋根だけの建物の中だ。


「着きました。こちらです」


 小声で言うカシュについて裏の窓を2回、間隔を開けて今度は3回叩くと女性のシルエットが近づいてきて窓を開けた。


 全員がさっと動いて家の中に入った。出迎えたのは4名の女性だった。全員魔法の鍛錬の時に見たことがある。カオリ、ユキ、俺と中に入ったが4人は俺たちを見て挨拶をしてくれた。


「先生、こんばんは」


「こんばんは、先生」


「こんばんは。お邪魔しますね」


 ここにいる住民が魔法の鍛錬を受けた人たちなのでユキが代表して言った。見る限りそれなりに広い家だ。庭も広かった。でも庭の塀の向こう側は墓地なんだよな。今はそれは考えない様にしよう。


 入った部屋はキッチンだった。大きな窓から直接庭に出られる様になっている。隣が広いリビングでそちらに移動した。広いと言っても4人の女性と4人の男性、それに俺たち3人で11名になると結構狭い。皆が揃うとカシュが4人の女性に事情を話す。それを聞いて納得した表情になる4人の女性。


「ところで、リンダ達はもう買い付けは終わってるのかい?」


「昨日か今日に来るだろうと思っていたので済ませています」


 全員が頷いた。収納にしっかり入っているのだろう。引き継ぎをする事項もないと言うことを確認したカシュ。


「じゃあ交代だ。ご苦労さん」


「じゃあこれで。先生、失礼します」


「「先生、失礼します」」


 俺たちに挨拶をして庭に出た4人はその東屋に入ると、そこで消えた。


「いつもこんな感じなんです?」


 思わず聞いちゃったよ。


「そうなんです。夜の暗い間に交代しますし、買い付けは終わってると確認できました。引き継ぐべき事項もない。となるとこれ以上確認することはありませんから」


 何というかシステマチックに動くんだよな。世間話の一つでもするのかと思ったらあっさりしてる。流石にカオリとユキも驚いた顔をしているよ。


「以前からこんな感じなんです?」


 カオリが聞いた。


「そうですね。以前はこの街に来られる人が限られていました。それでもこのやり方でした。できるだけ街にいる人数を少なくすること、騒がないことが見つかりにくいという判断です」


 長い間にマニュアルみたいなのが出来上がってるんだ。


「私たち3人は今夜はここにお世話になりますけど、明日から宿に泊まりますね」


「分かりました。山奥の戻る時は先生達だけで戻られるんですよね」


 カオリがそうだと答えると、この家に挨拶に来る必要はないので好きな時に戻ってください。といわれた。俺たちも明日この家を出たらここに来るつもりはない。人の目につかない場所に借りている家を訪れるのはリスクが大きいよ。


 この家は2階に4部屋あるので俺たちはこのリビングで仮眠することにした。以前5名で来ていた時は交代で1名がリビングで寝ていたそうだ。


 おやすみなさいと彼らが2階に上がると、俺たち3人もリビングのソファに座った。


「とりあえず今日は寝ましょう」


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