第134話
次の日の午前中、グランドに出ると結構な人が集まっていた。槍を使う人が多いのは予想していたけど、魔法使いの人達も結構いる。
「ユキとユイチが来ているんだ。この機会に指導を受けたいと思う住民は多いんだよ」
集まっている人の多さにびっくりしているとそばにいた長老が教えてくれた。長老の挨拶が終わると早速3つのグループに分けて鍛錬だ。カオリは槍を持っている人たちに型を作らせては指導していく。「腕をもっと前に突き出して」、「腰がひけてますよ」とか言う声が俺のところまで聞こえてきた。
俺とユキが見ている人たち、魔法使いの人たちは転移や収納よりも回復魔法や精霊魔法の不安があるそうだ。見てみると確かに魔法をロスしているというか魔力がうまく手や杖の先に伝わっていない人がいる。
俺とユキは相談して杖を使わずに手だけで魔法を発動させた。威力は当然落ちるが見ているのはそこではなくて魔力の使い方だ。
俺が見ても分かる。力んでいるんだな。だから魔力の流れが少し悪くなっているんだ。
「皆さん力んでますね。以前よりも魔法の威力が強くなった。強くなったらもっと強く撃ちたい、強く撃てるんじゃないかと思って無意識のうちに力んでいるんです。結果的に魔力の流れが悪くなってます。体内にある魔力をうまく手の先に運べていません。どうしてだろうとさらに力んでしまう。皆さんの多くは今、そう言う状態です」
ユキの話をなるほどと頷きながら聞いている住民達。
「魔法の威力は忘れましょう。それよりもしっかりと魔法を発動、命中させる事に気持ちを集中して魔法を発動してください」
ここで俺たちは再び2つに分かれ、ユキはお互いに回復魔法や強化魔法を掛け合いさせ、俺はグランドの隅にある人形に向かって精霊魔法を撃ってもらう。
「しっかりと首、もしくは胸を狙って撃ってください。威力は気にしなくてもいいです。的に当てる事が大事です」
このやり方は自分たちがポロの洞窟でやっている訓練だ。ユキが先輩の冒険者から聞いた話で魔力の流れが悪くなると魔法命中の訓練をすればよいと聞いてきて以来、俺たちは定期的に魔法命中の訓練をしている。
「しばらく魔法命中の鍛錬を続けますね。威力は気にしなくても良いです」
「「はい!」」
皆礼儀正しいんだよな。
鍛錬の指導は午前中、午後になると俺たちは街の外に出た。精霊を呼び出して魔法を使う鍛錬だ。
魔力を使うので召喚したり戻したりの繰り返しになるけど、それでもポロの郊外の洞窟よりは思い切り魔法が使える。周りを気にしなくても良いってのは本当にいいよ。
街を出たところでハルとローズを呼び出した。ユキはサクラとリーズを呼び出している。ハルはすぐに俺の左の肩に乗ってきた。完全に彼女の指定席になっているよ。雪うさぎのローズは俺の周りをぐるぐる回りながら俺と一緒に歩いていた。踏みつけないかとこっちが気を使うよ。リーズはハルと同じ様にユキの肩に乗っていて、サクラはユキの隣を駆けていた。アリスとレムは今はお休みの時間だ。
森の近くになると俺の周りを回っていたローズが俺の足元に止まって体を寄せてきた。抱えて頭の上に乗せてやる。
「今からカオリが敵を引っ張ってくる。ハルもローズも遠慮なく魔法を撃っていいぞ」
俺が言うと肩に乗っているハルは手に持った小さなステッキを指揮者の様に降り、頭の上ではローズが尻尾を振ったのだろう。後頭部がくすぐったくなった。
サクラがカオリに強化魔法をかけた後で、リーズがバフをかけた。
「連れてくるわよ」
そう言ってカオリが森に消えた。カオリが消えると頭の上に乗っていたローズが地面に降りた。言わなくても分かっているんだな。
しばらくすると森の中からカオリが走ってきた。
「2体よ!」
「ハルは前のを、ローズは後ろのだ」
ランクAの獣人が2体前後に並んでやってきた。森から出てきたタイミングでハルとローズがほぼ同時に魔法を撃った。どちらの魔法も顔に命中し、魔獣が後ろにひっくり返った。そこにカオリが2度剣を振って絶命させる。
「ほとんど死んでたわ。魔法の威力が増してるわね」
魔獣から魔石を取り出して戻ってきたカオリが言った。
「確かに。ハルもローズも魔法の威力が増してるよ」
「普段の鍛錬のおかげね。次は私がやるわ」
ユキが言うとサクラとリーズがカオリに魔法をかけると2体の妖精を戻し、代わりにレムとアリスを呼び出した。アリスが早速ユキに魔力を分け与えた。釣ってくるわよ。そう言ったカオリがまた森の中に消えた。
「ハルとローズは今度は見ているだけだぞ」
俺が言うとハルはステッキを振って分かったという仕草をし、ローズは尻尾を振ってから俺の頭の上に乗ってきた。
カオリは今度は1体だけ釣ってきた。獣人が森から出てくるとレムが待ってましたとばかりに獣人を殴り始めた。迫力があるよ。
カオリの片手剣の刃から炎が出た。魔法剣だ。洞窟の鍛錬では見ているけど、本格的に魔獣に使うのを見るのは2回目だよ。でも威力が前に見た時と全然違う。カオリが魔法剣を振ると獣人に大きな傷をつける。大きな叫び声をあげている獣人、そいつを殴るレムと炎の魔法剣を振り回すカオリ。カオリが3回ほど剣を振るうと獣人が絶命して倒れた。
「魔法剣、すごいな」
「本当ね」
俺とユキが感心していると魔石を取り出したカオリが近づいてきた。
「自分でも想像以上だったわ。魔力量が増えているのが実感できるわね」
「それはもちろんあるけど、魔法剣に馴染んできたのもあるんじゃない。見てたら均一な炎が剣の刃先に立っていたわよ」
ユキはそこまで見ていたのか。すごいな。おれは燃えている剣をただ格好いなと思いながら見ているだけだったよ。
魔力量は間違いなく増えている。なので威力もそうだし、今なら連続で3体くらいまでは魔法剣を使いっぱなしでいけそうだと当人も言っている。鍛錬の賜物だね。
その後も精霊を交代で呼び出し、何度かに一度はカオリが魔法剣を使って森の中にいる魔獣を倒した俺たちは結構な数の魔石を手に入れたところで街に戻ってきた。
ここでは思い切り精霊さんの魔法や魔法剣が使えるからいい鍛錬になるんだよ。