第133話
次の日、本館に顔を出すとそこにはサーラ長老、ハミー、カシュの3人が俺たちを待っていた。
「2度目のポロの街の訪問でも世話になった様で礼を言わせてもらう」
「今回はほとんどお手伝いしてませんよ、ハミーさん達が自分で動いていましたから」
カオリはそう言ってから今回この街に来た目的について話をした。ポロの街の周辺ではなかなか召喚魔法の鍛錬が出来ないのでこの街でしばらく集中的に鍛錬をしたいのだと言うと長老以下3人は好きなだけ滞在して鍛錬してくれて構わないと言ってくれた。多分大丈夫だろうとは思っていたけど、直接聞くと安心する俺。
「その合間に指導もしてくれると助かるのじゃが。特に槍を使う連中の動きを見てくれんかの?彼らは師匠がいないので自分たちがうまくできているのかどうか自信がないと言っておるんだよ」
予想通り槍部隊の人たちは困ってるみたいだ。ここはカオリの出番だよ。
「私たちもそうじゃないかなと思ってたんですよ。魔法と違って武器は私たちが紹介するまで使っていなかった訳ですから」
長老達と話し合った結果、明日から午前中槍を使う人たちを相手にカオリが指導をすることになった。そうは言ってもカオリだけというのはなんだか申し訳ないので、俺たちも魔法を見ることになった。ただこれは強制参加ではなくて、希望者を対象にして魔法を見て、必要があれば指導する。
「午後はあんた達の好きにしてくれて構わないよ。外に出ようが、街に出ようが好きにしてくれていい。この街の人たちはあんた達が来たのを知っている。何も気を使うことはないからね」
その後サーラ長老に聞くと、多くの住民が転移魔法を会得し、その距離も伸びたことから、最近では東の山から山裾に降りると森を抜けたところから一気にマミナの街の中の自分たちの拠点の庭に飛んでいるそうだ。庭には東屋の様な屋根付きの建物を建てて周囲から見えない様にし、夜間に転移をしているという。
見つからないか心配になるけど、彼らが大丈夫だと言っているので大丈夫なんだろうな。そこら辺のノウハウは蓄積されているんだろう。何も知らない俺が口を出す話じゃない。お姉さん二人も黙っているところを見ると恐らく自分と同じ考えなのだろうな。
「そう言えば、長老もケット・シーの精霊の召喚に成功したと聞きました」
話が途切れたタイミングでカオリが言った。それを聞いた長老がニコッとしたよ。
「その通りじゃ。いやもう嬉しくての」
そりゃそうだろう。長老が召喚できないとなったら色々とまずいんじゃないのか?長老という立場というか、メンツもあるだろうし。元々メンツがない俺は全く気にしないけど、立場がある人は大変だよ。
聞いたらトルという名前をつけたそうだ。亡くなった旦那さんの名前の一部らしいが、そう聞くと元の旦那さんの名前は何だったんだろうとすごく気になる。
「長老は精霊魔法が得意でしたよね。それで召喚した精霊はハミーさんが召喚した精霊と同じですか?」
俺がしょうもない事を考えている間にユキが質問していた。
「同じだね。ハミーと確認したが精霊ができることは2体とも全く同じだった」
「なるほど」
ポロの街でハミーから聞いていた通りだった。いや、ハミーの話を疑っていた訳じゃないんだけど、一応確認はしないと。でも本当に嬉しそうな表情をしているよ。その気持ちはよくわかる。俺も先にユキが精霊の召喚に成功して、その後しばらく呼び出せない間は焦っていたもの。
明日からよろしく頼むと言う長老の言葉を聞いた俺たちは本館を後にした。仮の自宅に戻ると3人でリビングに集まる。
「カオリは槍の型の確認と指導よね」
「そうね。あなた達はどうするつもりなの?」
「ユイチ、アイデアある?」
カオリが言ってユキが聞いてきた。
「とりあえずは鍛錬を見るしかないと思うんだよ。その中で気づいた点は言う。聞かれた質問には答える。ただ召喚魔法については聞かれても困るよね」
俺が言うとお姉さん二人からしっかり考えているんだねと褒められたよ。俺だってちょっとは考えるんだよ。本当にちょっとだけだけど。
「冗談はともかく、ユイチの言う通りなのよね。転移や浮遊、精霊、回復の魔法については指導というかアドバイスはできるけど、召喚するイメージは人それぞれ違うからね」
「彼らだって精霊を召喚する難しさは知っているでしょう。聞かれて答えられることは答える。できないことはできない。当たり前の話なんだけどさ」
出来ないことをできるぞ。とは教えられない。そして、自分が出来ていないのにやれとも言えない。カオリが言う通り当たり前の話だ。俺たちが無理に背伸びをする必要はないよな。それと多分召喚魔法以外の魔法についてはほとんど教えることがない様な気がしている。なんせ真面目に鍛錬をする人たちだから、魔力量が増えるのが一番大事で、そこはクリアしている。となるとあとは魔法を沢山使う、魔法に慣れるだけなんだよな。
この街では周囲を気にせずに精霊を召喚できる。ビクビクしなくてもいいんだよ。打ち合わせが終わると俺たちは街に繰り出した。街の様子というか品物や食事が増えているのかどうかを見て回ろうということだ。
まず俺たちが気がついたのは人の服装、特に女性の服装がカラフルになっていた。
「恐らく収納の量が増えているからだと思うのよ。今までは食料品を中心に買い付けしていて、他の物を収納する余裕がなかったんじゃないかな」
「なるほど」
収納が増えたことで食料は勿論、日用品も沢山買える様になったのか。女性が服装に興味があるのは万国共通なんだな。でもそのおかげで街が以前よりも賑やかに見える。住民が俺たちを見ると挨拶をしてくるのは以前と同じだけど、着ている服が違うだけでこうも華やかに見えるんだとびっくりしたよ。
日用品の店にも顔を出したが、確かに以前よりも品数が増えている。
「仕入れの量が増えたんですよ。だから種類も増えました」
「よかったですね」
「これも先生方のおかげです。ありがとうございます」
「どういたしまして」
その後も街を一回りして家に戻ってきた。
「暮らしぶりが良くなっているわね」
「それに皆の表情が明るいよ」
ユキが言って俺が続いた。
「私たちが教えた事がこの街の人の役に立っていると分かっただけで、今回この街にきた甲斐があったわ」
うん、カオリの言う通りだよ。