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第127話

 ポロの街に戻ってから2ヶ月が過ぎた。

 俺たちは以前の活動のパターンを続けている。師匠の森とその奥の洞窟での2泊3日の遠出をし、それ以外の日は街の近くで身体を動かしながら魔獣を倒して魔石を取る。


 これが冒険者の日常ですよ。外に出て魔獣を倒して魔石や部位を持って帰ってお金をもらう。平たく言うと日雇い労働者だな。


 この世界の人は日雇い労働者なんて言葉を知らないだろうけどやってることはまさにそれだ。


 でも俺にはこの仕事が合っていると思う。他の仕事はしたことが無いけど。相手が人間じゃ無いと言うのがいいよ。相手は俺たちを見ると無言で襲ってくるだけで文句やクレームは言ってこない。カオリやユキも同じ事を言っている。


「CAの時は人間関係のストレスが多かったのよ」


「お客様ともそうだし、社内でも色々あったのよ。この世界だと魔獣相手だからストレスはないわね」


 だそうだ。CA時代の詳しい話を聞きたい気もするが、思い出したくない事もあるだろうから聞かない方がいいんだろうな。それくらいの分別は俺でもある。


 この日は朝から師匠の森に出向いている。この後奥の洞窟まで行ってそこで鍛錬をして野営する予定だ。師匠の洞窟にお参りをし、そのまま森の中を魔獣を倒して奥に進んでいく、転移の魔法で川を越えてまた魔獣を倒して夕刻に第二の洞窟に着いた。もうすっかりと慣れたルートだよ。


 ルートには慣れたけど、精霊の召喚はうまくいかないんだよな。これは俺だけじゃなくてユキも同じだ。なので洞窟で夕食を食べた後は俺とユキは召喚の練習というかイメージ作りの時間に充てる。カオリは魔力を増やす鍛錬をし、片手剣に魔法を付与させていた。見ている限りすっかり自分のものにしている。見事に剣刃に魔法が乗っているよ。


「カオリは完全にモノにしてるよね。それに以前よりも剣刃に乗ってる魔法が強く見える」


「ほんと?嬉しい」


「ユイチの言う通りね。私から見てもカオリの魔法剣、以前よりもずっと魔法が強く乗ってる」


 俺とユキに言われてカオリも嬉しそうだ。でも事実だよ。毎日しっかりと鍛錬していると少しずつ魔力が増えるのは間違いないからな。


 おっと、人のを見ていてばかりじゃダメだ、しっかり練習しないと。俺はハルとローズに続く精霊を呼び出すべく頭の中で火や雷をイメージする。ただ日本にいた時のイメージというか火といえば火の玉、雷といえば鬼が背中に太鼓を背負っている姿ばかりが浮かんでくるんだ。どう考えてもこの世界の精霊はこれじゃないと思うんだよ。他のイメージを想像しなければと思うんだけど、頭が硬いのかなかなか他のイメージが浮かばない。


 あーでもない、こーでもないと悩んでいると突然ユキの足元が光ってそこから真っ青な少女が現れた。


「出た!水の精霊さんよ」


「うそ!」

 魔法剣の鍛錬をしていたカオリがすぐにユキに近づいていく。俺もその後でユキのところに行った。彼女の足元には青い少女が立っている。背丈はどうだろう、風の精霊の肩くらいまでの高さかな、髪はおかっぱで全身が薄い水色をしている。


 一言で言えば、可愛い女の子だ。風の精霊とはまた違った可愛さがあるよ。


「この子は回復魔法を使えるのと、この子の魔力を少し私に分ける事ができるみたい」


「何それ?すごいじゃない」


「マジか」


 ユキの説明を聞いて俺とカオリが同時に声を出した。精霊が魔力を分けてくれるのならユキが精霊を召喚している時間も伸びるってことだよな。彼女によるとリーズと仲が良い精霊さん出てきてってお願いしたら登場したらしい。


「名前をつけないとね」


 ユキが言った。声に出して言わないが、ここにいる3人はネーミングセンスがない。


「水ならウォーターとかアクアとか」


 カオリが言ったがユキがイマイチだよねと言っている。俺も同意する。


「ユイチ、何かアイデアある?」


 ほら来た、振ってくるだろうなとは思ったけど急に出てきた精霊の名前のイメージなんてすぐには浮かばないよ。と思ったけどアクア?ん?


「アリスなんてどう?」


「どうしてアリスなの?」


 聞いてきたユキと同じ様に俺を見ているカオリの2人を見ながら言う。


「今カオリがアクアって言ったよね。それで健康飲料でそんな名前のがあったじゃない、アク⚪︎リ⚪︎ス。その中から3文字を取ってアリス」


「ユイチ冴えてるじゃん。アリスっていいんじゃない?」


 すぐにカオリが賛成してくれた。


「いいわね。女の子らしいし。じゃあアリスにしよう」


 そう言うと足元に立っている水の精霊の前にしゃがみ込んだユキが言った。


「水の精霊さん、あなたの名前はアリスよ」


 言われたアリスはその場で何度もジャンプする。その仕草もめちゃくちゃ可愛い。その後ユキがリーズとサクラ、そしてレムを呼び出した。俺はハルとローズを呼び出す。洞窟の中に6体の精霊が現れて賑やかになった。精霊達はレムの周りに集まると、その周りを走ったりレムの腕にぶら下がったりしている。レムはまるで保護者だよ。


 しばらくそうして呼び出した精霊を見ているとアリスがレムから離れてユキの元に行ったかと思うと、どこからかステッキを取り出してそれをユキの前で振った。


「今アリスが魔力をくれたわ」


「今のがそうなの?」


「うん。えっとね、感覚的にだけど私の総魔力量の20%分くらいをくれた」


「2割はすごいな」


 多分アリスはユキの魔力量が見えるのだろう。それにしても20%という事は、ユキの魔力量が今の2割増になるってことだよな、もちろんアリスを召喚しているという条件付きだけど。それでもすごい事だよ。


 その後も様子を見ていたけど魔力をくれるのは1度の召喚で1度だけの様だ。


 水の精霊アリス、当たり前だがこの子もできる精霊だ。


 翌日アリスを呼び出して洞窟の前で戦闘をしてみた。カオリがAランクの魔獣と対峙して傷をつけられるとすぐにアリスから回復魔法が飛んでいく。長期戦になった時には魔力も与えてくれるし十分に戦力になるよな。長期戦になる様な敵と戦闘するかどうかは知らんけど。


 それにしても時間はかかっているけど少しずつ精霊を召喚できている。今のところは光、土、風、氷、水の6種類だ。あとは火、雷、そして闇か。しかしだ、ユキと俺が同じ精霊を呼び出しても得意な魔法が違うので種類だけ揃えてもコンプリートとはならないんだよな。各自が全種類の精霊を呼び出さないといけないって事になるのかも。


 いまだに精霊が出てくるトリガーが分かっていない。ユキの話を聞いて俺もハルとローズと仲がいい精霊さん出てこいと念じたけど何も起こらなかった。ハルとローズに精霊の友達がいないんじゃなくて俺とユキとのトリガーが違っていると言う事だろう。見てる限りハルもローズも俺よりもずっと人当たりがいいもの。


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