第123話
休養日の翌日の夕刻、外での活動を終え、ポロの街に戻って俺が自宅で夕食を作っていると山奥の街の4人が家にやってきた。カオリとユキがリビングに案内してくる。俺は急遽材料を増やして料理を多めに作ることにした。追加4人前だが幸いに食材はたっぷりとある。俺がキッチンで料理を作っていてもリビングで話をしている声は聞こえてきていた。
どうやらここ数日は市内の商業区をウロウロし、半日は図書館にこもって資料を見ていたらしい。そのおかげで市内の様子やこの国のざっくりとした地図などが知識として得られたと言っている。
「食事ができました。みなさんもどうぞ」
テーブルの上に料理を並べているのを見た4人がびっくりした声を出した。カオリとユキが予備の椅子を持ってきた。
「凄く美味しそう」
「ユイチ先生がこれ作ったんですか?」
まだ先生と言ってる。癖になってるんだろうな。
「そうだよ。今日は俺が食事当番だからね」
「当番?」
カシュが言い、他の3人も俺を見た。横からカオリが補足してくれた。
「ポロの街にいるときは私たちは順番、交代で夕食を作ってるのよ。朝と昼は基本各自で、今日はユイチが夕食の当番だったってこと」
「ユイチが作る食事は美味しいわよ。きっと貴方たちも気に入ると思うわ」
ユキがハードルを上げてるぞ。食べて美味しくなくても不味いとは言えないよな。
食事が始めると皆美味しいと言ってくれる。4人ともフォークが進んでいるところをみると彼らの口に合っているのかも。安心したよ。
食事をしながら4人の話聞いた。街の中を歩いたり、図書館で資料を見た事でしっかりと知識を入れたらしい。とりあえず今日までは見学というかウインドウショッピングで、明日から少しずつ仕入れていく予定だそうだ。
「何軒か、武器屋と防具屋に顔を出しました。やっぱり売っている杖はこの街のは軽いですね」
「あと、杖にもいろんな種類があるのにびっくりです。私たちがマミナから仕入れている杖は魔力が増える効果の杖のみで、聞くとその1種類しか売っていないそうです」
それにはこっちがびっくりしたよ。この国だと杖は魔力が増える杖でも増える量によって値段が違うし、それ以外に魔法命中率が上がる杖も売ってる。もちろん、こっちの杖も値段によって数種類ある。値段が高くなると格上の魔獣に対してもレジスト率が減ると言われている。
一方で衣服についてはあまり差がないという話だ。これは防具もそうだし私服についてもハミーが聞いている値段とポロの店で見た服の値段はそう差がないと言っている。
ここにいる4人は山奥の街から外に出たことがない。なのでマミナの街とここポロの街のどっちが良いかは比較できないが、山奥の街に比べると物が豊富にあるので毎日街の中を歩いているのが楽しいと言っているよ。人口もポロの方がずっと多いから当然と言えば当然だ。楽しんでくれているのでなによりだよ。
「買う時は一緒に付いていってあげるわ」
カオリが言うと是非お願いしますと4人が言っている。具体的に何を買うつもりなのかとユキが聞いた。
「ローブ、杖、あとは槍部隊の人の防具をいくつか買ってきてくれと言われています」
いくつか買ってきてくれと言うのは単価が分からないから数を指定できないという理由らしい。確かに山奥の街でも魔法剣を覚えた50名はほぼ私服だったな。冒険者で言うところの前衛ジョブがいないのだから仕方ないっちゃないんだよ。
「それだったら私たちがいつも買っているお店に案内してあげる」
テーブルの上の料理は皆綺麗に食べてくれた。料理を作った甲斐があるよ。俺は皿を引いて代わりに新しいジュースをテーブルの上に置いた。
「それ以外は何か言われているの?」
「生活品ですね、農具、魔道具の灯り、大工用具等です」
今まではマミナに買い出しに行く最大の目的は肉や野菜といった食料品で、これらを購入するだけで木箱がいっぱいになっていた。俺たちが魔法を指導したことで収納量が増え、一度に仕入れる数量が増えたことと転移できるメンバーが増えたことで今までよりも仕入れが楽になるとは言え、あまり派手に購入して目立つことは避けたいという考えがあり様子を見ながら少しずつ購入量を増やしていく方針だそうだ。
そんな中、マミナ以外にポロという新しい仕入れ先となる可能性がある街に出向くにあたり長老や幹部からは食料の値段を調査すると同時にそれ以外の生活品の値段の調査及び購入を依頼されているのだと教えてくれた。
「目立たずに仕入れるということになれば仕入れ先が新たに増えるのはいいことだよね。でもこの街は身分証明書がないと自由に出入りができない。しょっちゅう城門で銀貨を支払って入っていると目をつけられやすくなるわね」
そう言ったユキが俺に顔を向けた。
「ユイチ、何かいいアイデアある?」
「向こうでもチラッと言ったけど、いずれこの街で冒険者になるという手もありだよね」
そう言うと場が沈黙した。もうちょっと詳しく説明しようとしたタイミングでカオリが先に言った。
「それもありだよね」
「うん、私もそれも将来の選択肢の1つかなと思ってた」
お姉さん達もそれを考えていたのかと思っているとカオリが4人に顔を向ける。
「これはサーラ長老には簡単に話をしてる。本格的にやるのならもう一度街の人にきちんと説明をして同意を貰う必要があるけど、今ユイチが言った冒険者になるのがこの街で暮らすには色々と便利なのよ」
どう言うことですか?と聞いてくるハミーにカオリが説明を始める。
「私たちがやってる冒険者は犯罪者でない限り誰でもなれるのよ。そして冒険者ギルドに登録した時点で身分証明書をもらえる。これがあると街の出入りが自由になる」
4人が理解できる様にかいつまんで説明をするカオリ。
「冒険者にはランクがあるの。最初がアイアンクラス、それからブロンズ、シルバー、ゴールド、最上級がプラチナ。5ランクあるんだけど、その中のアイアンとブロンズのランクの時はノルマがあるのよ。ノルマというのは冒険者ギルドが出すクエストを受けなければならない。一定期間クエストを受けないと冒険者の資格が剥奪される。当然身分証明書も役に立たなくなる」
「ノルマはシルバーランクに上がってもあるけど期間の縛りがなくなるの。つまりシルバーになれば半年に1回ギルドに顔を出す頻度でも資格の剥奪はないのよ」
とユキがフォローした。ここまではいい?とカオリが言って頷く4人。
「一方で、冒険者になってブロンズランクになったらジョブを決めないといけないの。私たちみたいに戦士、僧侶、精霊士とかね。そうなると山奥の街でも言ったけど、僧侶になった人は回復魔法系は強くなるけど精霊魔法の威力が落ちる。精霊士になれば逆になる。そして一度決めたジョブは変更ができないの。あなた達というか山奥の街の人がその腹をくくれるかどうか」
そこまで言ったところでハミーがいいですか?と質問してきた。
「えっと冒険者になった最初はアイアンランクですね?そこから活動の自由度が上がるシルバーランクまでどれくらいかかりますか?」
「ユイチ、どれくらいかかったっけ?」
「えっとね。俺の場合ソロでアイアンからブロンズまで半年、そこでカオリとユキとでパーティを組んでからは半年ちょっとでシルバーに昇格したはずだよ。最初から3人で活動していたら1年以内にはシルバーになれると思う。俺がブロンズに上がるのに半年かかったのは特別で普通はもっと短い期間で終わるよ」
俺は最初はランクを上げる気ゼロ、薬草取りでブロンズに上がったという過去がある。これは全く参考にならないだろう。普通ならアイアンランクなんて2、3ヶ月で終わりだよ。
「つまり、1年弱の間この街に腰を据えて冒険者として活動することで、シルバーランクになる。こっちの国ではシルバーランクになると一人前の冒険者という位置付け。もちろん時空魔法や召喚魔法は使えないわよ。普通の魔法だけで敵を倒して魔石を取り出して日々のお金を稼いでランクを上げていくの」