第116話
翌日から2週間、毎日同じメニューをこなす住民達。1ヶ月様子を見ようか、なんて話をしていたけど2週間経った時にもう少し強度を上げることにする。それくらい住民の時空魔法の習得の伸びが凄いんだよ。今までの鍛錬で分かっていたけど、俺たちの予想以上に全員が加速度的に伸びてくるんだよな。元々の素地が良いというか素質があるんだろう。
召喚魔法はハミー以外はまだ誰も精霊を召喚できないけど、転移魔法については今までよりも1Km距離を伸ばして4Kmにした。往復で8Kmになるけど、それも全員がクリアしてくるんだよ。ただ往復すると流石に魔力が減って十分な休養が必要になる。
これなら一度で5Kmの転移は問題ないだろう。1人5Km転移できればマミナの街への買い付けもメンバーの選択肢が増えるよ。そして移動の時間も短縮できるはずだ。
3週間後、100名の住民全員が5Kmの転移ができる様になった。転移後に魔力回復のための休憩は必要だけど、それは魔力量を増やす鍛錬を続けていれば解決できる。
「収納と転移、浮遊についてはもう大丈夫ね」
ユキが言っているが俺も同感だよ。見ている限り魔法の使い方を完全にマスターしているよ。無駄な力が入ってないのが俺でもわかる。
カオリが教えている槍チームとの合同での狩りも安心して見ていられるレベルになっていた。
午後は鍛錬がない。俺たちも昼食後は各自フリーで庭で精霊を呼び出したり、魔力量を増やす鍛錬をしたりするのが日課になっていた。
この日、俺たち3人は街の外に出た。精霊の魔法の威力や効果を確認するためだ。俺の精霊の魔法の威力の確認はもちろん、ユキの精霊の魔法の効果がどうなっているのかも確認するつもり。
外に出るとユキと俺がそれぞれ精霊を召喚した。リーズとハルは早速それぞれの肩にのり、サクラとローズは俺たちの周りをぴょんぴょんと跳ねながらついてくる。見てるだけで癒されるよ。
「レムは後で呼び出すつもりよ」
3体の召喚は魔力を食うのでやむなしかな。ちょっとレムが不憫な気もするが。
山裾でまずサクラが3人に強化魔法をかけ、それからリーズが素早さを上げる魔法をかけた。
「釣ってくるね」
そう言ったカオリが山の中に走っていったがバフがかかっているので動きが速い。彼女の姿が森の中に消えると俺は2体の精霊に話しかける。
「ローズ、魔獣が来て俺が魔法を撃てと言ったら撃つんだ。ハルは最初は撃たずに俺がいうまで待っていてくれるか?」
そういうと頭の上でジャンプするローズ。器用だな。ハルはステッキを持っている手を伸ばすとそのままぐるぐるとステッキを回した。うん、多分2体ともこれは分かったという仕草だ。と信じたい。最悪は俺達で倒せば良いと考えると気が楽だ。
山の中からカオリが走り出てきた。魔法の効果が残っているので出てくるスピードも速い。その後ろから1体の熊の魔獣が出てきた。
「ローズ、魔法!」
俺が言うと足元に降りていたローズが全身を震わせた。次の瞬間、突進してくる熊の前半分に魔法が命中し前足から顔まで凍らせる。
「すごいわ」「強烈よ」
お姉さん2人の声を聞いている俺。日が暮れてからの時間帯でよく聞く言葉だけど今回は精霊の魔法の話だ。
「ハル、魔法!」
肩に乗っているハルがステッキを振ると凍っている熊が風の勢いで背後にひっくり返った。
「絶命してるわよ」
「ハルもローズもすごい威力の魔法だね」
褒められたのか2体とも喜びを全身で表している。もちろん俺もだ。2体の精霊の魔法の威力は想像以上だった。
カオリがもう1体やろうと言って再び山に入っていった。ユキのサクラとリーズは戻しているが俺の2体は出したまま。2体目は大型のトロル。オークの上位版の獣人だ。今度はハルの風魔法、ローズの氷魔法と魔法を撃つ順序を逆にしても結果は同じだった。
「ユキの精霊は親密度が上がると効果時間が伸びる。ユイチの精霊は親密度が上がると魔法の威力が増す。こうかしら」
「そうじゃない?ハルの風魔法、最初奥の洞窟の壁に向けて撃った魔法よりも威力が強くなっているもの」
そう言ってから2人が俺にどう思う?と聞いてきた。
「2人が言ってる通りだと思う。魔法の威力が増しているのは間違いないね」
「人前では使えないけど十分な戦力ね」
うん、その通りだ。戦力としては大幅アップになる。ただ、いつでもどこでも召喚することができないという縛りがあるけど。
次はレムの能力を確認しようとユキがレムを呼び出した。今までの可愛いい小さな妖精と違ってゴツいしでかい。
ただレムは親密度が上がったことで敵対心のアップと腕力がアップしているのが確認できた。クマの魔獣を両手でぶん殴るんだぜ。カオリが全くタゲを取らないので好きに攻撃し放題だと喜んでるよ。俺は魔獣をぶん殴っているレムを見てこいつには絶対に逆らわないでいようと決めた。
俺たちはこの日7体の魔獣を倒し、死体を収納にいれて街に戻ってきた。魔石は俺たちの戦利品とし、死体はこの街に寄贈する。使い道があるからね。
山奥の街の家に戻ってシャワーを浴びると3人で街に繰り出した。今日は外のレストランで夕食を摂ろうと3人の間で決まった。
この街に長く住んでいると街の食料事情というか、物資調達状況も理解できるまでになっていた。俺たち余所者が月に数回外食する程度なら街に影響を与えない事を知っている。
通りを歩いていると道端で魔力量を増やす鍛錬をしている人を見かける。多くの人は俺たちが直接教えている人じゃなくて、一般の人たちだ。若い人から年配の人までが鍛錬をしていて、光の玉や水玉を作っては消すという鍛錬を繰り返している。そして歩いている俺達を見つけると皆挨拶してくる。
レストランに行く時も、そして帰る時も通りを歩いていると数名の住民から魔法はこんな感じで良いですか?とか、槍を突き出す時の足はこれで合っていますか?という質問が飛んでくる。
「それにしても本当に皆熱心よね」
「ユキに同感です」
「こうやって鍛錬をしてさ、住民の多くが転移できるとなったら、この街の人の中で街を出て外を見てみたいと言う人たちが出てくるかもしれないね。そうなったら長老達はどうするんだろう」
カオリが呟いた。
 




