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第108話

 

 俺は風の精霊の召喚には成功したが、なかなか2体目の精霊の召喚ができない。自宅の部屋や洞窟で自分なりに頑張ってるつもりなんだけどな。


 ただ風の精霊のハルを召喚できた時も予兆はなくて突然足元から出てきたので、焦ってはいない。昔から楽観的というか何とかなるんじゃね?そう言う考えて方で生きてきている。ただ以前はそう思うだけで何もしなかったけど、こっちの世界に来てからはそう思いながらもちょっとは努力する様になったんだよ。俺にとっては大きな進歩だ。



 俺達の鍛錬場になっている森の奥の洞窟の近くにはゴールドランクがいる。通常の活動で師匠の洞窟経由で森の奥の鍛錬場に来た時に、鍛錬場の洞窟の前でハルを呼び出してゴールドランクの魔獣に風の魔法を撃たせてみた。


 俺の左肩に乗っているハルが小さなステッキを振ったと思ったらとんでもない威力の風魔法が飛び出した。俺の風の魔法よりもずっと威力が大きい。びっくりしたよ。ごっそりと敵の体力を削ってカオリが片手剣を一振りすると魔獣が倒れた。


「ハルすごいじゃん。ユイチよりも威力あるんじゃない?」


「ゴールドランクが吹き飛んでたわよ」


 ユキとカオリもハルの魔法の威力に驚いてたよ。


「ハル、すごいぞ」


 褒めてやると肩から浮いてその場で一回りするんだよ。滅茶苦茶可愛い。くるっと回ってからまた肩にちょこんと座ってくれる。


「ユイチの魔力が多いから精霊が撃つ魔法も威力も強いのかしら?」


 洞窟に戻ってからユキが言った。ハルは洞窟に戻った時点で帰している。


「召喚する人間の魔力と精霊の魔法に関係があるってこと?」


 その考えは無かったぞ。


「そうかな?って思っただけだけどね」


「それって検証が難しいわね」


 俺とユキのやりとりを聞いていたカオリが言ったがその通りだ。サンプル数が少なすぎるよ。


「親密度は関係ありそう?」


「それはあるかもね。ユイチは部屋でハルを呼び出しているんでしょ?」


「もちろん。毎日呼び出しているよ。幸い俺の魔力量が多いから結構長い時間呼び出している」


 俺が言うと魔力量より親密度かなぁと言う2人。俺もその2つのどちらかと聞かれたら親密度の方の気がする。


「ユキの精霊達も親密度が高いじゃない、最初の頃に比べて魔法の威力は増してるの?」


「考えたことが無かったわ。ちょっと呼び出してみる」


 そう言ってサクラを呼び出し、俺達に強化魔法をかけさせた。正直以前との違いが俺には分からない。


「以前よりも強くなってる?」


「俺はよく分からなかった」


 カオリに続いて俺が言った。


「私もそう感じた。明らかに強くなったという感じじゃないわよね」


「精霊魔法と強化魔法の違いかな。ユキ、リーズを呼び出してみて」


 カオリの言葉に分かったと言って今度はリーズを呼び出して素早さを上げる魔法をかけた。かけられたカオリが洞窟の中を走ってみる。その姿を見るに以前と変わらない気がする。しばらく洞窟の中を壁に沿って走っていたカオリが分かった!と言って走るのをやめた。


「効果時間が伸びてるわよ。サクラの強化魔法もおそらく効果時間が伸びてるのよ」


「そっちか」


 強化魔法、支援魔法はその効果時間が親密度に応じて伸びる。一方で精霊魔法は親密度に応じて威力を増す。今のところこの仮説が一番しっくりくる。


 その後サクラをもう一度呼び出して強化魔法の効果時間を測定してみたが明らかに最初の頃よりも時間が伸びているのが確認できた。


 もちろん、親密度以外の要因があるのかも知れないが、それを証明するにはさらに別の精霊を召喚しなければならない。


「ユイチ、引き続き頑張ってね。もちろん私も頑張るわよ」


「はい!わかりました」


 そう返事はしたものの、その後洞窟で色々やってみるが召喚魔法は上手くいかない。召喚魔法ばかりやってる訳にもいかないので、洞窟の中で浮き上がって移動したりと他の鍛錬もする。他の魔法の鍛錬をしてから再び精霊を召喚するイメージを思い浮かべるが上手くいかない。


 暗中模索の日々が続くよ。


 

 山奥の街から戻って4ヶ月ちょっとが過ぎた。ポロの街で冒険者として活動をしている俺達は当然ながら人がいる場所では新しい魔法は使っていない。ポロにいる時は自宅の部屋が鍛錬の場所だ。カオリはたまに庭で魔法剣の鍛錬をしているけどそれも片手剣を振るのではなく椅子に座りながら剣先に水や風を乗せている。これなら万が一見られても遠目からは分からない。


「一度南に行ってみない?」


 夕食の時にカオリが言った。南とは多くのゴールドランクの冒険者が向かっているエリアだ。


「南に行ってみるのはいいけど、ダンジョンはパス」


「私もダンジョンは考えてないのよ。高レベルの人が行っている南の森ってどんな場所かなって感じで行ってみないってこと」


 カオリとユキがそんな話をしてから俺に顔を向けた。


「俺はダンジョンを知らないんだけどさ、フロアがあって下や奥に進んで行くんじゃなかったっけ?2人ともそこはパスなの?」


 ギルドの資料室でダンジョンについて調べていたので一応の知識はある。ただ行きたいか?と聞かれたらもちろんノーだよ。外で普通に稼げるのにわざわざ強い敵がいるダンジョンにいく意味がわからない。宝箱?レアアイテム?そっちには全く興味がないんだよな。俺が行きたくないのは分かる、ただカオリとユキもパスと言っているのにびっくりしたよ。一度行ってみようかという話になるのかなと思っていたからさ。


 俺が言うと2人が顔を見合わせてユイチは知らないのか。なんて言ってきた。何の事?と聞くとユキが教えてくれた。


「ユイチが言う通り、ダンジョンってフロアを攻略して下に降りて、強い敵を倒して経験値やレアなアイテムを狙うのよ。それはいいんだけどさ、何層かごとにフロアの中に安全地帯ってのがあってね。攻略している人たちはそこで休んだり、夜を過ごしたりするのよ」


 それは分かるので頷く。ダンジョンは1日での攻略を前提としていないので何ヶ所かそういった安全地帯、安全エリアがあるってのは資料で見たぞ。


「当然ダンジョンの中にある安全地帯によっては複数のパーティが一緒に休んだり、夜を過ごすんだけどさ、そこで変な流れになっちゃうことがあるらしいのよ」


「は?」


 すっとぼけた声を出したが、声を出してからユキが言っている意味に気がついた。俺の顔を見ていたユキがわかったみたいねと言ってから続ける。


「複数の知り合いに聞いたのよ。全部の安全地帯がそうじゃないんだけど、流れでそうなる時があるんだって。それって嫌じゃない」


 そりゃ嫌だよ。


「キツイ戦闘、生死をかけた戦闘をして安全地帯に入ったことで気分がリラックスするらしいのよ。それだけだといいんだけど夜を狭いエリアで男女一緒に過ごすのよ。場所によったら乱交パーティみたいになるところもあるんだって」


 下層に降りるほどその傾向が強いらしい。下層では敵も強いので緊張しながらの攻略となる。そこで安全地帯に着いたことで安心するのと、同じ様に強い敵を倒してきた者同士の連帯感が変な方にいくことがあるそうだ。


「行きずりでそんなのするのは嫌だし、隣でしているのを見るのも嫌。だからダンジョンはパス」


 ん?時々この2人一緒に俺の部屋に来る時は、時に1人が俺達を見てた事がなかったっけ?と思ったけど口にはしない。


「だから南に行くっていっても森の中でゴールドランクを倒しに行くのよ。気分転換ね」


「そうそう。あれはユイチの部屋で思い切り楽しめるしね。ダンジョンの中でまでしたいとは思わないもの」


「それならいいんじゃないでしょうか」


 あれ。ね。そう言っていただけるとは、ありがたい話です。



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