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第106話

 山の上を西に転移し、山から降りると森を抜け、草原を歩いた俺たちは、数ヶ月ぶりにポロの街に戻ってきた。自宅に戻ってシャワーを浴びた俺たちは今、リビングでぼうっとしている。放心状態とも言う。


「色々あったけど、やっと戻ってきたって感じよね」


「なんか放心状態」


「俺も」


 ここ1年程怒涛の展開というか予想外の展開というか、東には何があるのかな?と軽い、興味本意で始まった探検が思いもよらない展開になってしまった。


 ただ山奥の街ではやるべきことはやり切ったという充実感がある。これは3人に共通した認識だ。彼らはもう大丈夫だろう。俺たちは俺たちで伝承できないと思っていた魔法を伝えることができた。


 これからは今まで通りポロの冒険者として活動をする。色々とあったけど俺はこの世界では目立たずに生きていきたいというのは変わらないんだよ。



 ポロに戻って1週間、ようやく以前のペースに戻ってきた、というか以前のペースに身体が慣れた。俺たち冒険者は長期で地元を離れる事が多い。なのでしばらく街にいなくても何の問題もない。カオリとユキは知り合いから久しぶり、どうしたの?って聞かれたらしいが、俺には誰も話しかけてこない。最初からいないのと同じだからだろう。その環境にも慣れているから問題ないぞ。友達を作る努力を放棄しているのは自分自身だからな。



 師匠の洞窟にお参りをし、そのまま奥の鍛錬場で鍛錬をしてそこで夜を過ごし、森にいるゴールドランクを倒して再び師匠の洞窟で2泊目、そして3日目にポロの街に戻ってきた。俺はまだ精霊を召喚できていない。鍛錬はしてるんだけど上手くいかない。


 精算を済ませて屋台で串焼きを買って自宅に戻ってくると交代でシャワーを浴びてから夕食だ。


「ようやく身体が以前のペースを思い出したみたい」


「私も」


 串焼きにかぶりついている2人が言った。俺もその通りなので食べながら頷いていた。食事が終わるとリビングで飲み会だ。明日は休養日になっているのでちょっと深酒しても大丈夫だよ。


 簡単なおつまみと酒をソファのテーブルにおいて飲み会が始まった。カオリもユキもポロの自宅で飲むのが一番落ち着くなんて言ってるよ。シャワーを浴びて着替えたたので2人とも部屋着のワンピースだ。俺はシャツにズボンに着替えている。数少ない私服だよ。


「山奥の街の家も住みやすかったけどさ、やっぱり他人の家という感覚が抜けないのよ」


 乾杯をしてお酒を飲み始めるとカオリが言った。その感覚は分かる。傷をつけちゃいけないとか思っちゃうんだよな。いや、ポロの自宅だと無茶してもいいってことじゃないんだけど、気を使うんだよ。


「自宅はやっぱり落ち着くわよね」


 そう言ったユキが俺に顔を向けてユイチもそう思わない?と聞いてきた。


「もちろん。あの家も悪くなかったけど自宅がやっぱり一番落ち着くよ」


「そうなのよね、こうやってお酒飲んでもどこかで緊張してるんだよね、自宅なら全然緊張しないんだけど」


 リラックスするという点では自宅に勝るものはないだろうな。テーブルの上のお酒のボトルはいつの間にか2本目になっていた。大学生になって酒を飲み始めてから自分は結構飲めるんだと自覚したんだけど、目の前にいるお姉さん2人はとにかく飲む。


「ユイチも精霊を召喚できるといいわね」


「明日から頑張るよ」


「頑張るのはいいけどさ、無理しちゃダメだよ」


「そうそう、いつまでって決まってる訳じゃないんだしさ、ゆっくりやろうよ」


 この2人は酔っていてもこうして気を使ってくれるんだよな。ユキの言う通りでいつまでにやらなければならないと期限が決まってる訳じゃない。でもだからと言って会得できなくてもいいと言うのとは違うよな。


 この世界に来てそういう考え方ができる様になったよ。


「ユイチ、お酒が減ってないわよ」


「いや、結構飲んでるよ」


「何言ってるのよ、私たちに比べたら全然じゃない。心配しなくても今日はユイチの部屋に押しかけないから。今日は飲む日よ。さあ飲んで」


「はい」


 返事はしたものの、今日部屋に押しかけてくるとは思ってないよ。元々飲む日は来てないじゃないの。と思うがご機嫌の2人を前にして水を指すことは言わない。


 翌朝、目が覚めるとリビングの絨毯の上だった。横を見るとカオリも絨毯の上で寝ているし、ユキはソファに背中を預けて座ったまま寝ている。完全に無防備な姿で寝ている。2人のこの姿を見るのも久しぶりだよ。


 久しぶりの自宅で気を使う事なく飲んだんだ。彼女達にはもうしばらくゆっくりと休んでいてもらおう。俺はゆっくりと起き上がるとシャワーを浴びるべく浴室に足を向けた。


 シャワーを浴びて来てもお姉さん2人はまだ寝ていた。俺は冷蔵庫から冷たい果実汁を取り出してパンと一緒に朝食を食べているとようやく目が覚めたみたいでもぞもぞと起き上がってきた。


「結構飲んじゃった」


「ユイチは早起きしたのね」


「少し前に起きたところだよ。朝ごはん食べる?」


 そう言うと2人とも食べると言う。ジュースを2つグラスに入れてパンをテーブルの上に置くとまず一気にジュースを半分ほど飲む2人。すぐに継ぎ足したよ。


「家だと本当にリラックスできるんだよね」


 ジュースを飲んで落ち着いたのか、カオリがパンを口に運んでから言った。


「カオリの言う通り。深酒してもユイチなら安心だし」


「俺も気がついたらもう朝だったよ」


「なんだ、何もしてくれなかったの?つまんない」


 カオリが言っているが、これが本気かどうかいまだに分からないんだよ。そう思っていると続けて彼女が言った。


「でも酔ってるよりシラフの方が楽しめるわよね。ユイチ、今日は私と一緒に寝よ」


「はい! 分かりました」


 午前中に今夜の予約が入りました!


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