第104話
最初に街の外に出た日から6日かけて15名のパーティが10組、150名全員が最低2回魔獣を倒し、その死体を台車に乗せて街に持ち帰ってきた。3日目からはカオリではなく槍組の2人が山に入って魔獣を見つけると石を投げて誘き寄せて倒す事にも成功する。魔石も20個以上手に入れることができた。全てゴールドランクの魔石だ。換金すれば結構な金額になるだろう。
自分たちで狩りができる位にまで成長した住民達。ただ長老のサーラさんはこういう時が一番事故が起こりやすいんだと住民を前にして言っている。
「いいかい?今が一番大事な時期なんだよ。槍を持って外で魔獣を倒せる様になった。魔法が強くなった。ひょっとしたら自分たちは以前よりも強くなったんじゃないか? そう思う時が一番事故が起こりやすいんだ。今まで通りに謙虚に鍛錬を続けないと取り返しがつかないことが起こるよ。起こってからだと遅いんだ。油断しちゃだめだよ」
ここの住民は皆真面目だ。皆長老の話を聞きながら大きく頷いている。
いや全くその通りだよ。冒険者をやってるから分かる。俺はチキンだからそんな事はないけど、同じ冒険者の中で、ランクが上がった仲間が、しばらくしたら死んじゃったっていう話は何度か聞いたことがある。自分が強くなったと勘違いして格上の魔獣に向かっていって逆にやられてしまったって話だ。
そんな話を聞くとチキンでよかったと思うよ。俺が自分から格上に挑戦するってあり得ない話だからな。カオリとユキも最初はその傾向があるのかなと心配だったけど、彼女達は自分の実力をしっかりと把握して敵を選んでいるってわかってからは安心したよ。
今は回復魔法が好きな人、精霊魔法が好きな人と分けているがジョブがない訳だから回復魔法が好きな人が精霊魔法を撃ってみてもよい訳で、そのあたりのやりくりというか鍛錬は住民達で決めてくださいとカオリが言っている。入れ替わったとしても15名ならゴールドランクを倒すのは問題ないだろう。
この山奥の街の人たちに魔法を教え、転移の距離も伸びた。浮遊もそれなりできる様になった。武器の使い方にも慣れてきた。となるとあと俺たちが教えるのは召喚魔法と魔法剣だ。それを教えたら俺たちのこの街での役割、仕事は終わる。あとはこの街の人たちが将来にわたってこの魔法を伝承し続けてくれればいい。俺もそう割り切れる様になった。
「街の人には言ってないけど、かなりのレベルまできてるわね」
「そうね。魔法も剣も最初の頃に比べたらずっとよくなってる。安心できるレベルよ」
自宅でユキとカオリが話をしているがその通りだよと頷いている俺。
街の人たちが自分達で魔獣を狩れるまで成長したのを確認した俺たちはいよいよ魔法剣と召喚魔法の指導に入ることにする。
この日朝の定例の訓練になっている転移を繰り返したあと、全員を集めてもらったところでカオリが言った。
「今日から魔法剣と召喚魔法の訓練に入ります。槍の50名には魔法剣の鍛錬を、魔法組の100名には召喚魔法の鍛錬をしてもらいます」
グランドで50名と100名に分かれると100名の魔法組を前にしてユキがサクラを呼びだし、続いてレムを呼び出し、そして最後に風の精霊のリーズを呼び出した。リーズはこの街では初登場だよ。全員が可愛い女の子の精霊に注目する。
「この精霊は風の精霊です。素早さをあげる補助魔法をかけてくれます。召喚魔法については正直私たちも今、正に鍛錬をしているところで召喚できる精霊は光と土と風の3種類だけです。火、雷、氷、水と言った精霊がいるのかどうかはまだ召喚できていないから分かりません。なので一番最初に呼び出すことに成功した光の精霊に絞って呼び出す鍛錬をしますね。ひょっとしたら私たちよりも皆さんの方が他の精霊の召喚に成功するかもしれません。一緒に鍛錬しましょう」
召喚魔法はイメージの持ち方が大事だという話から始まったユキの指導。俺は精霊を召喚できないので住民達と一緒でユキの話を聞いている。
脳内で抱っこしてあげると語りかけを続けた結果、光の精霊の召喚に成功し、土と風は助けて、手伝ってと念じると出てきましたよと言っているユキ。ただ他の語りかけでも召喚できるかもしれないので、自分なりにイメージを作ってくださいと言ったユキ。
100名の住民達は身体を動かしたり、しゃがんでみたりしているがそう簡単には召喚できない。
「私の個人的な感覚ですが、魔力を増やす鍛錬と同じで毎日念じることで少しずつ精霊への呼びかけが強くなって自分との親和が良くなるんじゃないかって思っています。なので何も起こらなくてもそこで諦めないで呼びかけを続けてください」
今言えるのはそれくらいだよな。精霊を召喚することは他の魔法の様に魔力を使ってという訳にはいかない。魔力量は呼び出している時間を長くする効果はあるけど、呼び出す時は魔力量よりもイメージと精霊との関係性だろう。
そう思って俺も毎日鍛錬をしているんだけど今のところ予兆はない。
召喚魔法よりも、カオリが担当している魔法剣、魔法槍の方が早く身につけられそうかもな。そう思ってカオリの方を見ると、彼女が持っている槍の剣先が赤く燃えているのが見えた。あっちは両手から生活魔法を出すイメージなのでイメージしやすいと思う。
俺の予想通り、魔法剣の鍛錬を始めた3日後には数名の住民が槍の先から水を垂らせることに成功する。水が乗せられるとあとは早い、火、雷と問題なく剣先に乗せられる様になった。ただ魔力量が多くないので魔法を剣先に乗せている時間は短い。
「それでいいんです。魔法剣はここ一番の時に使う様にしましょう。それとあとは毎日魔力量を増やす鍛錬を続けること。魔力量が少しでも増えれば、それだけ魔法剣を使える時間が長くなりますから」
槍に魔法を乗せる鍛錬はそれほど時間がかからずに皆習得するだろう。問題は召喚魔法なんだよな。住民の人たちは光の精霊を呼び出す鍛錬だが俺は水の精霊だ。
住民の人たちには普段の生活がある。なので鍛錬は午前中だけだ。午後は各自がそれぞれの仕事の合間に魔力を増やす鍛錬をしている。
俺たちも午後はフリーだ。3人で山に入ってゴールドランクを倒したり、庭で各自が鍛錬を続けていた。精霊の召喚は全然上手くいかない。やっぱり僧侶専用の魔法なのか?何て思ったりもしていたけど、そうじゃ無かったことが数日後、証明された。