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第101話


 山奥の街に着いた俺たちは早速住民の人たちの鍛錬を見るべくグランドに行った。正直びっくりしたよ。不在の間もしっかり毎日鍛錬を続けていたのだろう。グランドにいる全員が10往復の転移をしても魔力切れにならない。聞いたら収納も全員が最低でも7個、人によっては10個の木箱を収納できる様になっていた。


「私たちも見習わないとね」


 彼らの魔法を見ていると隣にいるユキが言った。明確な目的があり、それに向かって弛まずに鍛錬を続けると必ず達成できると言う見本の様な人たちが自分たちの目の前にいる。確かに見習うべき点は多いよ。


 10往復の転移ができる。単純に計算すると2Kmだ。ただこれで一気に2Kmの転移ができる様になったかというとそれはまた別の話になるんだよな。長い距離の転移は魔力を使う。単純に掛けたらいいってもんじゃない。でも全員1Kmは普通に転移できそうだ。それもすごいことだよ。


「すっかり槍の形、使い方を覚えているわ」


 離れた場所で槍の訓練を見ていたカオリが小走りにやってきた。


「あんた達がいない間、ここにいる150名だけではなく住民達は毎日鍛錬を続けていた。ここにいた150名の人たちが自分たちがあんた達から教わったことを他の住民達にもしっかりと伝えていたんじゃよ。おかげでここにいない住民達も老人と子供を退けるとほぼ全員が収納は5個以上、転移は7回できる様になり、槍を持つものはその形を覚えこんでおる。あんた達の指導方法が間違っていなかったということが証明された。魔力量を増やすという基礎訓練を続けた結果だね」


 そばにいたサーラさんが言った。


 彼らの成長ぶりを見て俺たちは指導方法を変更というか前倒しした方が良いだろうということになった。俺たちと言ってもカオリとユキが鍛錬を前倒ししようと言って俺も賛成したというのが実態だけど。


 山奥の街に着いて彼らの現状をチェックしたあとで、俺たちはサーラさんや他の幹部の人たちと本館の会議室で打ち合わせをする。


「あんた達が街を出る前に言っていた件、住民に聞いて意見がまとまった。魔法組を2つに分けて鍛錬してもらえるかの」


 住民に聞いたところ、戦闘に使う魔法を鍛えたいという住民と支援系の魔法を鍛えたいという住民に分かれたそうだ。


「魔獣を倒して街を豊かにしたいと考えている者もおれば、性格的にサポートする方があっているという者もいる。ここにいる3人もそうじゃ。私とカシュは精霊魔法を鍛えたい。一方でハミーは支援魔法を鍛えたい。ジョブという概念はないが、指導して貰えるのなら2組に分けてお願いしたい」


「分かりました。収納、転移、浮遊の魔法は皆さんが会得すべきなのでこれは今まで通り全員に指導します。召喚魔法については私たちもはっきり確証は得ていないのですが、支援系の魔法使いには支援系の精霊が、攻撃系の魔法使いには攻撃系の精霊が付くんじゃないかなと考えはじめているんです」


 ユキの話を黙って聞いていたサーラさん。話が終わると俺に顔を向けた。


「つまりユイチも今召喚魔法の鍛錬中なのかい?」


「そうです。人間にも支援魔法が好きな人もいれば、攻撃魔法が好きな人もいる。精霊についても好きとかではなく、適性があるんじゃないかというのが僕らの中で話し合った結論です」


「なるほど。いずれにしてもあんた達のやりたい様に教えてくれて構わない。ここにいる私たちはもちろん、住民達も皆あんた達を信用しているよ」


 そう言ってくれているが、信用されたことがない俺にはすごいプレッシャーだよ。


 自宅に戻って3人で話し合った結果、カオリが担当している槍を持っている住民はカオリを相手に模擬戦をして実戦の感覚を身につける鍛錬をすることになった。とは言っても先の尖った槍を使うと大怪我をするかもしれないので槍の先、穂先の部分に布を巻いて球状にする。これなら先端を突きつけられても問題ない。


 俺とユキは150名の魔法使いを、冒険者で言うところの僧侶と魔法使いに分けて鍛錬をすることにする。回復魔法や強化魔法等が好き、あるいは得意な人達はユキが指導し、精霊魔法が得意な人には俺が指導することにする。召喚魔法についてはこの次のステップだ。


 方針が決まったので打ち合わせは終わった。ここからは雑談タイムだ。俺たちはリビングのテーブルを囲んでジュースを飲みながら話をする。


「基礎の部分はほとんど出来ていると言えるわね」


 基礎が出来ていないと応用ができないぞ。中学か高校の先生がそう言っていた記憶がある。その時はその言葉を聞いて、ああ、そうなんだ。と分かってないのに分かった気でいたけど、この世界に来てからその言葉の意味を完全に理解したよ。


「でもね」


 そう言ったカオリが俺とユキを見る。


「間違えちゃいけないのは、この街の人たちが魔法を覚えるのに熱心なのは魔獣を倒す手段としての魔法じゃなくて自分たちが生活していくために必要だからよ。多くの人が転移できる様になればもっとたくさんの物資を調達することができる。ひょっとしたら今出向いている街以外の街にも行ける様になるかもしれない。槍の人が森の魔獣を倒せば、品物を調達するために必要な魔石を今まで以上に沢山取れる様になる。自分たちが将来に渡って生き続けるための手段ね」


 だから魔法や槍を教えるにしてもそこを忘れちゃダメだと言った。

 

 確かにこの街の人達は魔獣のランクを上げて金を稼ぐと言った冒険者の考え方はしていない。ソロで魔獣を倒して俺強いだろう、なんて事も考えていないだろう。街の外にいる魔獣を倒せる人が増えれば増えるほど沢山の魔石が手にはいり、それが現金になって欲しいものが沢山買える様になる。皆で協力しあってこの街を豊かにしようと考えているんだ。


 俺たちは偶然この街を見つけ、そしてこの街の歴史を知った。その上で長老からきちんと魔法を教えて欲しいと頼まれて自分たちが知っている範囲の知識を彼らに教えていている。


 俺たちの仕事は時空魔法や召喚魔法、そして魔法剣をこの街の人たちに教えることで、そこから先、覚えた魔法をどう使うのかはこの街の人が考える話だ。俺たちは今住んでいる国、ポロの街で新しく覚えた魔法を使う機会はない。この街に住んでいる人たちが新しい魔法をしっかりと身につけてくれれば、それは将来に渡って伝承されていくだろう。そしてその結果彼らの暮らしが今よりもよくなるかもしれない。


 新しい魔法がこの世界で伝承されていく。自分たちはその手助けをした。それで十分だよ。


 この街でしっかりと教えて彼らがそれらを身につけたら俺たちの仕事は終わりだ。ポロに戻って今まで通り冒険者として活動していけばいい。


 俺がそう言うとお姉さん二人が大きく頷いてくれた。


「ユイチの言う通りよ。だから教えられることはしっかりと教えましょう」


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