第100話
召喚魔法は僧侶の魔法、つまりユキの魔法。そう思っていた時もありました。
自分が頑張って、それでも出来なかったからそうじゃないかなと考えるのはありだろうけど、頑張らずに人の話を鵜呑みにして何もしなかったのはいかんよ。いや、ナッシュ先生を責めているんじゃない。自分を責めてるんだよ。
この日から洞窟や夜、自宅の部屋で精霊を召喚するイメトレを再開したよ。呼び出すのは水の精霊さんです。ユキの話だと手伝ってもらうとか、助けてもらうというイメージを持って精霊が出てきたと言っていた。となると攻撃系の魔法なので戦闘中のサポートをしてもらうイメージを持った方が召喚しやすいのかもしれない。だからと言って戦闘中だけ鍛錬してそ例以外での鍛錬をサボる訳にはいかない。
水の精霊って日本のTVの天気予報かエアコンのCMなんかで見たことがある雫が顔になってるあれかな?いやここは日本じゃない、でも、だからと言って以前図書館でみた水浸しの人はないと思うんだよな。
召喚魔法の鍛錬はするが、そればかりしている訳にはいかない。俺たちはゴールドランクの冒険者として魔獣を倒し、魔石や部位を持ち帰るという仕事がある。
この日も朝にポロの街を出て3人で師匠の森に向かい、森の中でシルバーランクを倒して日が暮れると師匠の洞窟で夜を過ごす。翌日はゴールドランクを倒しながら森の奥に進んで第二拠点まで進んだ。いつものコースだ。
第二拠点の周辺で魔獣を倒して、日が暮れてから拠点に入った。今日はここで野営をし、明日はこの場で鍛錬をし、周辺の魔獣を倒しながら師匠の洞窟で野営、その翌日にポロに戻るというスケジュールだ。いつものパターンだ。そう、冒険者なんてランクに関係なく日々の仕事はたいていが同じパターンだ。たまに違う街に行ったりもするが自分のホームタウンにいる時はやることが決まっていてそれを淡々とこなしていく。
強くなりたいと思っている奴らだってやっていることは同じだ。お姉さん2人に言わせると仕事とはそう言うものらしい。
俺は単調な生活が嫌いじゃない。刺激的な生活といえば聞こえはいいけど、冒険者で刺激的な生活が何かといえば、強い敵を倒してレアアイテムや高い報酬をゲットすることだろう。悪いがごめんだよ。死にそうな目に遭うくらいなら毎日同じ事を繰り返して少ないけど確実にお金を稼ぐ方が性に合ってる。
とは言いながら最近は東の山奥の街に出向いているが、これも刺激的と言えばそう言えるのかもしれない。命の危険は感じないけど。
第二拠点では例によって3人がそれぞれ広い洞窟の中で自主練をする。カオリは魔法剣、ユキは浮遊魔法や召喚魔法で精霊を呼び出してはリターンさせている。地味な鍛錬だがこれが大事なんだよな。基本を忘れちゃダメだよ。
俺は浮いたり、移動したりした後で精霊を召喚する鍛錬をする。以前読んだ本でイメージの持ち方で呼び出して何をさせるかというのをイメージする方法があると書いてあったのを覚えているので水の精霊を呼び出して敵に水魔法を撃つところイメージしながら「シャワー」と言っているが何も起こらない。
「シャワーはないわよ」
「シャワーじゃ敵は倒れないわよ」
確かにシャワーで敵がぶっ倒れる未来は想像できないな。
「攻撃系の精霊だとしたらよ、普通の時、戦闘時以外で呼び出すのは難しいかもしれないわね」
召喚魔法については大先輩になるユキが言っている。いや、召喚魔法以外でもお姉さん2人は俺に色々と教えてくれているので2人とも大先輩だ。
「焦らずね。ユイチならできるわよ」
「応援しているよ」
「頑張ります」
頑張りますとは言ったものの、今のところ何とかなるんじゃないかと言った兆候は全く見られない。
森の中で魔獣を狩っている時も色々と呼んでみようとするんだけど何も起こらないんだよな。これは気長にやるしかない。よく考えたら浮遊魔法も習得するまで結構時間がかかったし。第二拠点と自宅の部屋の中で鍛錬を続けよう。
ポロの街に戻って2ヶ月が過ぎた。ユキは風の精霊のリーズを呼び出すことに成功してから今は呼び出せる3体を交互に呼び出しては親密度を上げる鍛錬をしている。そして俺はまだ一体の精霊も呼び出すことができていない。
こんな状態で山奥の街に行ってもいいものなのか。いい加減なことを言っちゃっていいんだろうか?
「問題ないわね。私たちが全て知ってる訳じゃない。あの街の人たちと一緒に鍛錬したらいいんじゃない?」
俺が2人に言うとカオリがいった。ユキもその通り、私たちは万能じゃないわよ。と言って続けた。
「教えるとか教えられる。そんな考え方じゃなくて、お互いが持っている知識や経験を共有しあうと考えた方がいいわよ。私たちだって知らない事がまだまだいっぱいある。知らないことを皆んなと共有することでいろんな知恵が出て解決法が見つかることだってあるのよ。今の召喚魔法の話についてもそう。ユイチが思っていることを皆と共有すればいいの。思ってるだけで言わないのは一番だめよ」
あの山奥の街の人たちからは先生と呼ばれているけど俺たちは教師でも何でもない。これから彼らから教わることもあるかもしれない。いや、きっとあるだろう。そう考えると随分と気が楽になったよ。
それからも俺たちはポロ所属の冒険者として活動をしながら少しずつ遠出の準備をする。槍も買ったし杖も買った。もちろん食料もしっかりと買い込んだ。
旅立ちの準備が整った翌朝、俺たちはポロの東門から外に出た。3ヶ月ぶりの山奥の街の訪問だ。