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第10話


 翌日、2人は普段着や下着などの日用品を買いたいと言うので金貨1枚を2人の当座の資金として貸した。男と違って女性は色々と物入りなんだろう。夕方に帰ってきた2人は最低限の生活に必要なものを手にいれることができたとご満悦だった。


 その翌日、宿の食堂で朝食を食べた俺たち3人はギルドに顔を出した。どう見ても2人の方が戦闘能力は高そうで俺が何かを手伝うという必要はないと思ったのだが手続きの仕方をどうするのかと聞かれたら勝手にやってくれとは言えない。


 何より2人には大人にしてもらったという大きな恩がある。


 ギルドに入った2人は物珍しそうに中を見ていた。その姿をロビーにいた他の冒険者達が見ている。そりゃそうだろう。2人とも美人だし当然だ。


「これが公園清掃、こっちが薬草取り。アイアンランクだからやれるのは限られているけどね。2人なら薬草取りでいいんじゃない?報酬だってこっちの方が高いし」


「そうね。じゃあこれにしましょう。ユイチも受けるんでしょ?」


 当然ですよ。俺の最大の収入源だもの。

 受付からはパーティは組みますかと聞かれたがそれはカオリさんが断っていた。パーティはいつでも組める。まずはソロでやってみたいということだ。薬草取りだからわざわざパーティを組む必要はないとも言える。


「相手が人間じゃないっていいわよね」


「本当。気持ちがすごく楽よね」


 草原で薬草を採りながらそんな話をしている2人。昼過ぎには3人分の袋がいっぱいになってポロの街に戻ってきた。報酬を受け取って感激している2人。


「こうやって報酬を得るのね」


「ユイチに借りているお金も返さないと」


「お金はいつでもいいですよ」


 冒険者として3日も活動するとすっかり慣れたみたいだ。そのタイミングで3人でパーティを組むことになった。というか彼女達は最初からそのつもりだった様だ。


「当然でしょ?この世界に3人しかいない日本人だからね」


「ユイチも問題ないでしょ?私たちは仲間なんだよ。ギルドのシステムが分かった今、3人でパーティを組むのは当然ね」


 そう言われると断れない。この世界では地味に生きようと思っていたのがその思いが崩れつつあるのを感じている自分がいる。でも2人とも美人だし優しいしと自分で自分を納得させた。まぁ実際に彼女たちと一緒にいてつまらないとか居心地が悪いとは全く感じない。これは俺にとってすごく大事なことだ。


 パーティを組んで楽になったことが1つだけあった。それは全て2人に任せておけばいいってことだ。今日は何をしようかとか悩む必要がない。と言ってもやることは薬草取りだけなんだけどな。


 カオリとユキ(さん付けで呼んでいたらパーティを組んだし、呼び捨てでいいと言われた)は急速にこちらの世界に溶け込んできている。前の世界がよっぽど酷かった反動なのか、こちらは毎日が楽しくて仕方がないらしい。


「街は安全だし品物もいっぱい売ってるし食事も美味しい。何より自由なのよ」


「本当にそう。ユイチは知らないけど前の世界は本当に酷かったんだから」


 2人が言うには戦闘要員として午前中は訓練をし、午後はフリーだったがフリーと言っても街の中にある一角で半軟禁状態で、市内に出るにも兵士が同行し、その市内もいつも暗い雰囲気だったらしい。


「大っぴらに人を傷つけられるって喜んでいる人もいたけど私たちには無理だった。住んでいる部屋がたまたまユキと同じ部屋だったけど毎晩泣いていたの」


「それで野外での訓練があるって聞いてこのチャンスを逃したら次はないって話をしていたのよ。思い切って逃げてきてよかったわ」


 そんな話を聞かされたらあとは2人でお好きにどうぞ。なんて言えないよ。2人ともこちらの世界を楽しんでくれているようで何より。それにしても俺はあっちの世界に残らなくて本当によかった。聞いている限り、俺なら戦場に駆り出されたらあっという間に死んでいただろう。


 薬草取りをしながらこのポロの街に慣れた2人。冒険者としても生活のリズムもできた様だ。薬草取りを1週間ほど続けた日の朝、ギルドに向かいながらカオリが言った。


「そろそろ魔獣退治といきましょう」


 彼女の一言で俺たちは薬草取りを続けながら魔獣退治をすることになった。もちろん俺に拒否権はない。お姉さん2人に付いていくだけ。パーティだからクエスト用紙は1枚でいい。だいたいカオリが窓口と話をする。自然と彼女がリーダー格になっていた。クエストを受けた彼女が待っていた俺たちのところに戻ってくると言った。


「ユキ、相手は私たちが飛ばされた時に相手をしたウサギよ。一角ウサギって言うらしいの」


「ああ、あれね。ユイチもいるし問題ないんじゃない。行きましょう」


 お姉さん2人に続いてギルドを出るとそのまま門から街の外に出た。一角ウサギは師匠の洞窟がある森にもいるが別の森の方が街から近く、数が多いということで街を出ると師匠の山とは違う方向に歩いていく。


 当然だが、俺は魔獣の相手をしたことがない。ただこのお二人なら問題ないんだろうと後をついていると街を出てから30分程で森が見えてきた。どうやらこの森の中にいるらしい。


 森の中に入ると早速一角ウサギを見つける。向こうもこちらを見つけて角を突き出して突進してきた。カオリがすれ違い様に片手剣を一閃、その後でユキが魔法を撃つとウサギは絶命した。


「弱いね」


 そう言いながら持っている短剣でウサギを切り裂いて魔石を取り出すカオリ。いい根性してるな。と同時にこの2人に逆らったら俺もウサギの様にあっさりと切られるんじゃないかと一瞬ビビってしまう。


「小さな魔石だけどこれがお金になるんだよね」


 魔石を取り出したカオリが俺を見て言った。俺はそうだよと言いながら手から水魔法を出してどうぞとカオリに手を洗わせる。


「ありがとう。ユイチって優しいのね」


 手を洗いながらカオリが言った。


「そうか?手が汚いと思ったからさ、それに俺は今何もしてなかっただろう?これくらいはさせてよ」


 その後も2人でウサギを倒し、俺は水魔法で手を綺麗にするということを何度か繰り返していると、


「今度はユイチがやってみて。魔法使いなんでしょ?」


「俺?」


「あの水魔法が使えるのならできるわよ」


 カオリとユキからそそのかされて、私が引っ張ってくると森の奥からカオリが一角ウサギをこちらに引っ張ってきた。ええいままよと雷の魔法を撃つと魔法が顔に命中してウサギが爆発した。


 やっちまった。加減が分からずに撃っちゃったよ。あれじゃあ魔石も取り出せない。

 

 がっくりしていると、


「今の何?凄い魔法じゃない」


「私の魔法よりずっと凄いわよ。ユイチって凄腕の魔法使いだったの?」


 落ち込んでいる俺に2人が話かけてきた。


「まさか。無能って言われたんだよ?今のはたまたま急所に魔法が当たったからじゃない?それより魔石が取れなくて申し訳ない」


「そんなのいいって。また倒せばいいだけだから。それよりもユイチがそこまで魔法が使えるのなら明日からターゲットを変えた方がいいわね」


 不穏な会話をしている2人。相手を変える必要あるの?安全に狩れる一角ウサギでいいんじゃない? と思うがチキンなので声に出して言えない。


 この日は夕刻まで森の中でウサギ退治をして魔石を集めて街に戻ってギルドで精算をした。なんと1日で銀貨50枚になった。日本円で5万円相当ですよ!凄いよ!3人分とは言え、この世界にきてこれだけ稼いだのは初めてだよ。お金をもらった時は俺もウサギ退治をしてよかったと思った。


 精算を終えるとテーブルで報酬の分配だ。女性2人は銀貨15枚ずつを取り、俺が20枚になった。5枚分が借金返済分らしい。


 1人なら絶対に魔獣退治なんかしなかったが、お姉さん2人と一緒にやればなんとかなるんだ。それに報酬がずっと多いのも魅力的ではある。明日も頑張るわよと言っている2人に俺も頷いていた。いや頷かざるを得ない雰囲気だ。


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