婚礼の儀式
ウルフガードのお城の中にある礼拝堂に、城の方々やテオ様、その隣にはテオ様やディアス様にどことなく似ているテオ様のご子息、オーウェン様やその奥様、可愛らしい子供たちが並んでいる。
ローラさんや侍女の方々に介添えをしてもらいながら礼拝堂に敷かれた赤い絨毯の上に一歩足を踏み出した。
緊張しながらディアス様の元へと歩く。
ディアス様は綺麗に髪をオールバックに整えていて、形のよい額や眉の形がよく分かった。
ディアス様の前にはフェリオ君が立っていて、その頭にちょこんとニクスが乗っているのが可愛らしく、思わず笑いそうになってしまった。
緊張がほぐれて、足取りが軽くなる。
こんなに多くの人が、あたたかく私を見ていてくれる。
ディアス様の元に来ることができて、よかった。
「美しいな、リジェ」
「うん。とっても綺麗」
ディアス様に手をとっていただく。ディアス様も白い婚礼着を着ていて、ニクスの羽根と同じ色をした赤いマントが華やかだった。
私のドレスもグレイシードさんの渾身の力作だそうで、体のラインに沿ったデザインで、スカートが魚の尾鰭のように広がっている。
海にすむといわれている美しい幻獣、人魚をイメージしたのだという。
歩くたびに鱗のようにあしわられているビーズが、不可思議で美しい色合いに輝いた。
フェリオ君は袖や裾の長い神官のような服を着ている。
フェリオ君が手にしている祭礼用の杖の先には、大きなベルがついていた。
「リジェット、ディアス。両名の婚礼の儀式をはじめます。病めるときも健やかなるときも、嵐の日も晴れの日も。手を取り合い支え合い、ウルフガードの地を守っていくことを誓いますか?」
雨上がりの空のように透き通るような声が、礼拝堂に響いた。
私はディアス様と並んでフェリオ君のその声を、静かに聞いている。
「あぁ。ディアス・ウルフガードはリジェットを妻として、生涯この地と俺の大切な家族を守り抜くと誓う」
「私も、ディアス様を生涯愛し、ウルフガードのために尽くしていくことを誓います」
ディアス様は私の手を取る。
礼拝堂のステンドグラスから降り注ぐ光が、ディアス様の金の髪を輝かせた。
美しい、軍神。
神話の英雄のような姿に、私はみとれた。
その心根も、お姿も、美しく雄々しく、清廉だ。
「お二人の婚姻を、フェリオ・ウルフガードの名の元に見届けさせていただきました。末永い幸せを、祈らせて頂きます」
フェリオ君が、微笑む。
ニクスが嬉しそうに、ぱたぱたと翼を羽ばたかせた。
ニクスが羽ばたくと、礼拝堂の天井から祝福のように赤い羽根の形をした光が、礼拝堂の中に降り注いだ。
皆が手を広げてそれを受け止める。肩に、手に、髪に触れると、粒子は弾けるようにして消えていった。
「リジェットは、ウルフガードに幸運と安寧をもたらす、海から来た女神だ。俺とリジェットの婚姻は、ウルフガードの地にさらなる発展をもたらすだろう」
光の雨の中で、ディアス様は私の手を取って皆に向き直る。
「ウルフガードの地に眠る多くの英霊よ、我らに、祝福を!」
ディアス様の声が響き渡り、拍手と祝福の声が礼拝堂を満たした。
私の手を引き寄せたディアス様は、きつく私を抱きしめる。
「愛している、リジェ。穏やかで、心優しい君を、これからは俺が守る」
鳴り止まない拍手の中、私はディアス様の胸の中で目を閉じた。
私もあなたを守りたい。
誰よりも強く、そしてきっと、誰よりも強くあらねばならないと己を律し続けている、孤独なあなたを守りたい。
ウルフガードの王の傍に侍ることができる幸せに、感謝を。
――あなたを、愛しています。
そう、心の中でそっと囁いた。
婚礼の儀式のあとに、賑やかな食事会が開かれた。
街中がお祭り騒ぎだと、グレイシードさんが嬉しそうに言っていた。
「夜には花火もあがるから、是非見て欲しいわ! あたしのデザインなの、きっと素敵よ!」
私は花火を見たことがないけれど、それは夜空に浮かぶ花のようなものなのだそうだ。
ディアス様が楽隊の方々と共に楽器を演奏して、私はフェリオ君と手を繋いで踊った。
フェリオ君の病気は、ニクスの奇跡のお陰か、すっかり落ち着いていた。
心臓の中央に穴があいているのだと、医師が言っていた。
けれど今は、その穴がとても小さくなっているらしい。
再生の力が、その穴も傷とみなして、治してくれたのかもしれない。
テオ様やオーウェン様と改めて挨拶を交わし、家族として受け入れて頂いた。
アリエスが申し訳なかったと再び謝罪をされたり、ディアス様の昔の武勇伝を聞いたり、瞬く間に時間が過ぎていった。
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