その八:泉と肌
カウィーソさんが夕食を終えた私を、洞窟の奥にある泉へと案内してくれる。私が最初囚われていた場所の手前にある、分かれ道の先にある泉へ。
「うわぁ」
「綺麗だろう」
泉が底から青く輝いているのは、綺羅石と綺羅砂と呼ばれる鉱物の影響。どちらも同じものだが、粒の大きさにより名前が違うらしい。
「これは、貴族に見つかったら大変なことになりそうですね」
「根こそぎ奪われるだろうな。さて、体を洗おう。ここの砂は角がないから、裸足で大丈夫だ」
するりと服を脱ぐカウィーソさんの体を、泉の光が照らす……ちょっと待って! 一緒に入るの?
「なんだ、恥ずかしいのか」
「いや……その。まあ、えっと」
泉の青い光と洞窟の暗闇が作る影が、カウィーソさんの体をより立体的に見せる。
「まあ、私にはタキちゃんによく似た恋人がいたと話してしまったからな。警戒されるのも無理はない」
「…………さすがに、そこまで自意識過剰じゃないから大丈夫です」
実はだいぶ意識してますけどね! でもまぁ、カウィーソさんは私のことはなんとも思っていないようだし…………うん、まぁ、なんでもいいです! 脱げばいいんでしょう!
「意外と潔く脱いだな」
「大した裸じゃないですけどね」
当たり前だ。まだ、子どもなのだから。
「私の体より、傷痕が多いのだな」
「でも別に、戦ってついた傷じゃないので……あ、すみませんリアクションとりづらい話を」
「人は、戦闘の傷を名誉の負傷だとか言う。だが私は誰かを傷つけようとしてつけ返された傷よりも……タキちゃんの耐え続けた傷のほうが立派だと思う。ああ、嘘は言っていないぞ。本当の気持ちだ」
父からの教育、或いは父に命じられた者による教育によりついた傷痕が…………立派?
「うっ……うう」
だめだ。泣くな私……。
「気にせず泣くといい。私たちが出るまで、泉には近づくなと伝えてある」
「カウィーソさん、私っ……」
「タキちゃんは、よくがんばった。よくがんばったよ」
「違うんです。私より辛い思いをしている人たちを率いるのに、こんなことで泣きたくない。だから、泣けてしまうんです」
悔しいなぁ。私は、弱すぎる。
「私の情報では、マルディリアがここを攻めるまでには時間がある」
「いろいろ、自分たちに都合よい理由をつくるための手続きをしているのでしょう」
今はエルフをどう狩るかが問われる時代だ。あくまで、貴族側から見た時代の話だけれど。
「ともかく、時間はあるのだから、静かに過ごすといい。みなも、それを望んでいる」
「死ぬ前の、安らぎですか」
みな……エルフのみんなが、私の静かな日々を望んでくれているということかな。
「そうだ。それを大切にしてほしい。だが……」
カウィーソさんが、言葉に詰まる。
「どう、したんですか」
「タキちゃんを利用する計画を主導した私が……言えたことではないが、死にたくないのであれば今からでも――」
「嫌です。私もみなと一緒に、カウィーソさんたちと一緒に戦います。それに私たちはもう、引けないところまできているじゃないですか」
「ああ、そうだな。この話はここまでにしよう。そうだ、今夜は一緒に眠らないか?」
「えっ……」
さすがにそれは……。
「手を出すつもりなどない。私では嫌かもしれないが、タキちゃんは死ぬまでに誰かのぬくもりとともに眠る安心を知るべきだ」
「えっと……」
「さて、その前に水を浴びよう。二人して、いつまでも裸で泉のほとりに突っ立っているのは少々恥ずかしい」
「カウィーソさんにも恥ずかしいという感情があるんですね……」
「いい冗談だ。そういう冗談が、もっと言えるようになるといいな」
つま先から入った青く光る泉の水は冷たく、この後、誰かのぬくもりを感じながら眠る必要性を感じさせた。




