その七:人間向けの飯
その日の夕食は、リューズライトさんが腕によりをかけたとても豪華なものであった。
「人間向けの飯は久しぶりだな。なんかいいことでもあったのかあいつ。エルフの癖に気が使えるなんてよ」
「おいカウィーソ。そういう言い方は良くないぞ」
「うるせぇよゴルド。てめぇもあの団子食えねぇくせによ」
わざわざ人間の好みに合わせた料理を作ってくれたとのことで、私とゴルドさんとカウィーソさんの三人で食卓を囲むこととなったのである。
「ゴルドさん、ここは平和です。戦うのではなく、別の道はないのでしょうか」
人間だけで話をするなら、今しかない。エルフさんたちはきっと、和睦であるとか、逃げるとか……そういう提案は嫌がるだろうから。
「それについては、カウィーソから聞いてくれ」
「カウィーソさん、教えてくれますか」
カウィーソさんはナイフに突き刺して齧っていた肉を置いて、私のほうを見た。
「私は娼館の生まれでな。今でも、情報が入ってくるんだ」
娼館……父も姉も、よく遊びに行っていましたね。
「俺たちはこの土地に、自治権を獲得できるはずだった。手続きも進んでいてな」
「おいゴルド。私に説明させるんじゃなかったのか?」
「よくわからんところでキレるなカウィーソ。まぁいい、続きはおまえが話してくれ」
ゴルドさんは困り顔で、酒をもらってくると言い残し席を立つ。カウィーソさんと二人きりになるのは、これで二度目だ。
「カウィーソさん……は、ここが襲われるという情報を手に入れたのですね」
「いい勘してるな、そのとおりだ」
「どうも」
「ある貴族が私の実家に遊びに来た時に、こう語ったそうだ。エルフのような蛮族は、ただ滅ぼすだけでは足りない。一度、希望が通ると思わせてから奪ってやるくらいでちょうどいいのだと」
「ひどい……話ですね。とても貴族が外で言う言葉とは思えません」
「タキちゃんは知らねぇかもしれないが、娼館での話は外に出さないことがマナーだからな。言ってないことと同じなんだよ」
「そういうものなのですね」
「特に、貴族御用達の娼館はな」
それだけの圧力をかけている……ということだろう。
「あの……カウィーソさんはなぜ自由に行動できるのでしょうか」
「私は娼婦じゃなく、できちまった子どもだからな。普通は、そのまま店で働くか殺されるかだが、ひっそり隠して十になるまで育ててもらったんだよ。皮肉な話さ、貴族が金落としすぎたせいで、私みたいな人間ができちまったんだからよ」
カウィーソさんの存在は、貴族にとっては危険……それを知られていないということは、カウィーソさんのいた娼館は反貴族思想を持っているのだろう。
「あの……。貴族がゴルド盗賊団を潰すつもりなら、まずは逃げる……ということはできないのでしょうか。カウィーソさんたちが説得すればエルフのみなさんも……」
「タキちゃん。話の続きは食い終わってからにしよう」
「いえ、今聞かせてください!」
あれ、なんかムキになっちゃった…………。
「わかった。ただひとつ約束しろ。私の話を聞いても、飯は食え」
「もちろんです、凄くおいしいですから」
リューズライトさんが私たちのために作ってくれた料理を、残すわけがない。
「そうか。なら、言う。私たちを殺す気満々のお貴族様の名前は、マルディリア・レス・ドラゴ。あの、くそやべぇドラゴ家の長女だ」
一瞬、目の前が暗くなる。たしかに……食欲に影響する話だ……。
「あの人なら……やりますね」
ドラゴは……私が名乗らせてもらえなかった、私の家の名前だから。
「タキちゃん、力を抜きな。そんなに強く奥歯を噛んだら血の味が飯に混ざっちまうよ」
「はい……」
深呼吸をして、肉にかぶりつく。まぶしてある香草の味が癖になる、とても美味しい肉料理に。
「もう一つだけ、言っておく。タキちゃんがいるって情報をゴルドに教えたのは私だ。あと、前も話したが寝てる頭をぶん殴ったのも私だぞ。ゴルドは加減ができねぇからよ、気絶させるつもりでも殺しちまうんだよ」
「ぶっ……あはは、なんですかそれ」
「おい、今の話どこに笑いどころがあった?」
ほんと、変な人たちだ。私を利用して無茶苦茶なことやろうとしているのに、一生懸命気を使ってくれるのだから。




