その四:ちょっとお花吐いてくる
その夜、私の歓迎の宴がゴルド盗賊団のメンバー約半数により行なわれた。残りのメンバーは、警戒態勢をとったまま………それほど気の抜けない日々を、今までずっと送ってきたということなのだろう。
「タキちゃんって魔法使えるぅ?」
べろべろに酔っ払ったエルフが私に絡む。エルフってもっと凛としてるイメージだったけど……案外、気さくなんですね。
「魔法は、一個だけしか……」
「あはは、人間は魔法下手だもんね。私はねぇ、二十個くらいつかえるよぉ。あ、やっぱり百個使えるぅ! あははは、タキちゃんって魔法使えるぅ?」
話がループしてる。そーとー飲んでますねこれ……。
「私は、一個だけしか使えないです」
「あはは、人間は魔法下手だもんねぇ! 私はねぇ、うっ! 吐きそう。ごめん、ちょっとお花吐いてくる」
私が使える唯一の魔法は、母が死ぬ前にこっそり教えてくれたもの。母が、唯一残してくれたもの。
それ以外は、何も残っていない。
服も、住んでいた牢屋も、骨すらも…………。
「お母さん……」
今でも思い出す。魔法を教えてくれたあの日「絶対、私に使ったらだめだよ」と言った、母の顔を。
「しけたつらしてんな。食事が口に合わないか」
声をかけてくれたカウィーソさんが手にしているのは、生焼けの肉。もう少し火を通した方がよさそうだけど…………カウィーソさん内臓強そうだし大丈夫かな。
「どれも美味しいです。とくにこの、緑色のお団子」
この、苦い団子はエルフの間では定番の料理らしい。
「よくそれ食えるな……私は未だに食えんぞ。健康にはいいらしいけどな」
「たしかに、健康に良さそうな味してますもんね」
正直、めちゃくちゃ癖のある味だけど私は好き。
「……………………なあ、タキちゃん」
「なんですか?」
今、妙に間があったけど…………なんか厄介な話が来る前ブレかな?
「宴会、少し抜け出さないか? 二人で話したい」
抉り魔カウィーソと二人きりは、ちょっと怖いかな……。でもまぁ、断るのも怖いし、従うしかないか。
「わかりました」
「じゃあ、抜け出そう」
篝火が映ったカウィーソさんの瞳は、昼間見た時よりもより赤く見えた。
少し歩いた先には、流れの緩やかな川があり星空が映り込んで揺らめいていた。
「タキちゃんってさ、私の昔の恋人にすげぇ似てんだよ」
「ふへっ?」
いきなりぶっこんできましたね……カウィーソさん。
「淡い水色の髪と瞳。それに水切りが下手な子でさ」
カウィーソさんが拾って投げた小石は、パン、パン、パン、パンと水面を跳ね、向こう岸へと届く。
「私、水切り下手なこと話しましたっけ」
「いや、そういう顔してるなって」
どういう顔ですかそれ……。
「な? やっぱり下手だろ?」
悔しくて小石を投げてみたけれど…………一度も跳ねずに沈んでしまいましたとさ……はぁ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
無言の時間。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
恋人に似てるとか言われたせいで、間が持たない……カウィーソさん、なにか話してくれません?
「タキちゃんさ、私が抉り魔って呼ばれてること知ってるだろ」
うわ! めっちゃリアクションとりづらい話題来た!
「知ってます……けど。でも、ただの噂ですよね? カウィーソさん見かけによらず優しそうだし――」
「それ、真実だよ」
「そ、そうですか」
うわぁ。真実ですか。私、見かけによらずとか言っちゃったよ。
「私の恋人……いや、元恋人が攫われて見られたくない姿を見られた。だから、九人とも、見えなくしてやったんだ」
「うーん……えっと」
九人ってことは、十八個目を抉ったってことですよねぇ……。見えなくしてやったってことは、生きたまま抉ったって噂も本当ってことですよねぇ……。
「やべぇだろ、私」
「えっと……えっと」
自分で自分のことやばいって言う人は案外やばくない説…………当てはまらないですね。
「あ。悪い。タキちゃんも私らに攫われたんだよな。やべぇことしてごめん」
そうそう! そうでしたねぇ!
「ま……まぁ、別に酷いことされてないからいいですよ」
「そっか、ならよかった。一応、できるだけ嫌な思いをさせないよう寝てるところを狙ったんだ」
お気遣いどうも。
「寝てる時、頭殴りました?」
「ああ。そのあたり上手にぶん殴るとしばらく起きねぇんだよ」
こっわ……。
「ま……その話はそのくらいで。でも。なんというか、カウィーソさんたちのおかげであの家と決別できる理由ができて嬉しいくらいではありますよ。頭はまだちょっと痛いけど」
きっと、これが私の本音なのだろう。
「タキちゃんは自分の家が嫌いか?」
「私は、お母さんが残した呪詛みたいなものだって、ずっと言われながら育ってきたんで。だから、私の名前には家の名前が一つも入っていないんですよ。厄除けとして、子に、家と関係がない名をつける。これも、貴族の権利らしいですよ。はは、変な権利過ぎて笑っちゃいますよね」
私の名前、タキプレウス・トリデンタトゥス・トリオプス・カンクリフォルミス。ここに、一族との関連性はない。
「タキちゃんは人を殺したことあるか?」
カウィーソさん、会話がつながってないですよ。お酒は飲んでいないようですが……素面でこれって、余計に絡みづらい…………。
「これが、ないんですねー。騎士なのに、人殺し経験はゼロです」
そんな私が盗賊団を率いようとしていることを、百戦錬磨であろうカウィーソさんはどう思っているんだろう。
「時々思うんだ。あの子が死んだのは、あいつらのせいではなく、私の復讐が独りよがりなものだったからだと」
「それ、恋人さんの話ですか」
「タキちゃんは、私たちと一緒に死ぬかもしれないんだぞ。怖くないか?」
カウィーソさんは、また、つながらない話で応えた。
「約束は、守るつもりです」
死の実感がわかないのは私が甘ちゃんだからなのか、それとも、今までいつ死んでもおかしくない日々を送ってきたからか……………………どちらにせよ、私の人生はあと少しで終わる。
でもそれは、悪くない終わり方でしょう?




