その二:エルフは焼くもの
二、三度聞き直してみたのですが…………
どうやら盗賊団の長になってほしいという話は、本気の本気のお話のようです。ぜっんぜん意味わかんないですけどねぇ!
「あれが、ゴルド盗賊団のメンバーだ」
私が拘束されていた洞窟の出口は崖の上にあり、その下では盗賊団のメンバーたちが武器の手入れをしたり、料理をしたりと、わりとおだやかそうな時間を過ごしていた。
「ああ……もしかして。ゴルドさんがほしいのって、領民権です?」
盗賊団のみなさんの姿を見た時に、私は理解した。なぜ、ゴルドさんが私に長になってくれと言ったのかを。
「そうだ、彼らを権利種にしてやってほしい。貴族なら、できるだろう」
「できますけど、明後日までは無理ですよ。十五歳にならないと、貴族権がないので」
貴族には、領民を持つ権利がある――――。
それだけ聞くとごく普通の話のように聞こえるが、そうではない。
領民として認められていない人間や亜人種は権利種ではない。権利種でない生物はみな、動物である。つまり、野生動物として狩ってもよし、家畜として飼育してもよし…………。
そして、貴族は全て王家の所有物。領民を持つ権利とは、絶対王に力を集中させるためだけにつくられた悪法なのである。
「見ての通りゴルド盗賊団は俺とカウィーソ以外は、全員エルフだ」
端正な顔立ちに白い肌。絹糸よりも美しい金の髪に、自然の発する音を慈しむためにつくられたかのような長い耳。エルフはこの圧倒的な美しさがゆえに狙われ、そして、やらかしてしまった。人間様の愛玩動物となることを拒んでしまったのだ。
「ゴルドさん、私も貴族ですよ。あなたたちに酷いことをするかもしれない」
「すまないが、君のことは調べさせてもらった。だからこそ頼んでいる」
「だからこそ?」
「君ならば、権利無き者たちの気持ちがわかるだろうと……な」
「私が魔女の子だから……ですか」
「そうだ」
私は……父が、四人の姉の母とは違う女に産ませた子。
表向きの物語だけを語るならば――――父が、黒魔術に身を捧げた悪しき存在である魔女に騙されてつくらされた子どもである。
「利害の一致ということですね」
もちろん、真実は違う。父ははじめから母を魔女だとわかったうえで犯した。ただ、顔が好みであったという理由で。そして、保身のために幽閉し、贖罪と称してなぶり殺しにしたのだ。
「利用するような真似をして、すまない」
「かまいません。どうせ私、一人だったら殺されていましたから」
魔女は後天的なもの。つまり、娘である私は魔女ではない。魔女に騙されたにもかかわらず私を娘と認め騎士の称号まで与えた父は、慈愛の心を持つ者として王から高く評価された。
「だが……俺たちといても、君は殺されるだろう」
「でしょうね。私がエルフを領民にすれば、王家は私を反逆貴族と定め、罰するはずです。あってはならないですからね、貴族がエルフと手を組むなど」
貴族は永遠の権利である――――。
身分のはく奪という概念をなくすことで、王は自身の信奉者で国を固めた。短期決戦を得意とする戦闘国家の生み出した、異常なまでの中央集権構造。王の意にそぐわぬ者は反逆貴族とされ、ほぼ確実に殺される。そして、恐怖で支配された身内が殺された者の貴族権を継ぐのである。
「エルフは、特に嫌われているからな。だが、約束する。我々は一人とて奴隷にはならぬ。最後の一人まで、戦い抜くと」
「決死の戦いを率いろというわけですね」
「そうだ。そうすれば、君の父上に対する復讐にもなるだろう。家からエルフと組んで反乱した者が出たとなれば、今まで通りにはいかないはずだ」
「ゴルドさん、あなた、そうとうな策士ですね」
「すまない」
ゴルドさんは、私に対して本気で申し訳ないと思っているのだろう。だが、それ以上に…………ゴルドさんにはエルフたちのために戦わねばならぬ理由があるのだろう。まあ、無理に聞き出そうとは思わないけれど。
「大丈夫です。正直、願ってもないことです。私の母を苦しめたあの父が、あの家が、私のせいで永遠に賠償金を払わされ続けるであろうことになるのは、とてもいい気味ですよ」
「君の運命を利用した俺を、許してくれとは言わん。俺は、悪党に成り下がろうともエルフたちに誇りを与えてやりたいのだ」
「誇り高き種族であるエルフが、駆除されて死ぬ。それは受け入れがたいことだと思います」
「そうだ。だが、領民となり権利種とすれば、軍は駆除ではなく戦として動かねばならない。戦は正式に記録され、歴史に刻まれる」
私が彼らを領民と認めて権利種となれば、戦を駆除であるとごまかすことはほぼ不可能。そんなことをすれば、微妙な関係にある近隣諸国との信頼関係が一気に崩れる。
「でしょうね。しかしゴルドさん。あなた、盗賊団なのに法をよく知っていますね。ああ、すみません見下しているわけではありません。私より、詳しそうなので」
まあ、私はまともな教育受けさせてもらっていませんからね。得意なことは、火起こしとか、食べられるきのこを見分けるとか……そんなことばかりだし……。
「俺も少し、過去にはいろいろあってな」
どうやらゴルドさんは、かなりの切れ者のようだ。まあ、誇り高き自殺願望者でもあるけれど。
「まあ、貴族である私を長とするのはエルフの誇りを守るうえでは良い案だと思います。それに、ゴルドさん、あなたは私の誇りも守ろうとしている」
「すまないが、それは結果論だ。君の境遇が、俺たちにとって都合の良いものであったというだけだ」
「たとえ結果論だとしても、私の身の上を知ったうえで選んだのであれば…………まあ、難しい話はよしましょう。ゴルドさんはきっと、苦悩したはずでしょう。私には、あなたが冷血な人間だとは思えませんから」
「そうか、ありがとう」
私は、十五歳になる前に不慮の事故で死ぬと思っていた。だが、現実は違った。ギリギリのところで神は私に、死ぬ意味を与えてくれた。それも、あの父に……あの家に……爪痕を残せる形で。
上々だ……。
私の人生はようやく上等なものとなる。母に誇れる死に際を、この世界に残してやる。




