その一:貴族なんてろくなもんじゃない
貴族なんてろくなもんじゃない――――。
私は貴族の末子でもあり、騎士でもある。聞こえはいいが、ようは厄介払いだ。
騎士という称号を持つ者には、領地の外へ出る仕事を命じやすい。しかも貴族一家の長には、隊の人数を決める権限もある。もちろん、今回も私は一人旅。そして私に、一騎当千の力はない。
つまり私は実の父親に「我が娘よ。できることなら、一人で死んでくれないだろうか」と思われているのと同じなわけで…………。
「う…………」
頭が痛い。身体が動かな……ああ、縛られているのか。周囲の様子は……ふむ、洞窟らしき場所に篝火ですか。
はぁ……盗賊コースにご当選しちゃったっぽいですね私。魔物コースとどっちがマシだっただろう。
ともあれ…………
父はきっと、このあたりが攫われやすい地域だとわかっていたからこそ私を、派遣したのでしょう。派遣の理由はなんだっけ……ああ、そうだ。マンドラゴラの自生地探しだ。ありもしない植物を探す旅でしたね。
「目が覚めたか」
体格のいい男と女剣士……二人とも、見るからに戦い慣れていそうだ。私の身なりからして、貴族の娘であることはバレているはず。となると、身代金か、それとも、父の政敵が裏にいるか。まあ、どちらにせよ無事ではすまないだろう。
良かったですねお父様。あなたの狙い通り私は、貴族としての様々な権利を得る十五歳を迎える前に殺されるようですよ。
「俺はゴルド盗賊団の長、ゴルド」
聞いたことのない盗賊団だな。立ち上げたばかりか、遠くの地から流れてきたのか。それとも、何か目的があって急造されたか。
「それと、こっちの女はカウィーソだ。一応、副団長を務めてもらっている」
カウィーソ? どこかで聞いたことがある気が…………。
うげ! こいつ、抉り魔カウィーソじゃねぇか! 褐色の肌に赤髪赤眼。間違いない……絶対抉り魔カウィーソだよぉ!
「おいカウィーソ、挨拶くらいしろ」
「…………こんばんは」
どうかお気遣いなく! 十六歳の頃にどこぞの不良集団のメンバー全員の眼球を生きたまま抉ったとかいう危ない女に挨拶されるとか、怖すぎるから! 今何歳か知らないけど、十六って今の私の二個上の時の話でしょう? イカレすぎてるよ!
「君は、タキプレウス・トリデンタトゥス・トリオプス・カンクリフォルミスだな」
「え、ええ。その通りですが」
ゴルドさん、本人ですら命名ルールのわからん長い名前をよく噛まずに言えましたね。いや、感心してる場合じゃない! カウィーソのいる組織なんて絶対やばいから!
「タキちゃんと、呼んでいいか?」
「ええ、もちろんですとも! では、私はゴルドさんと呼ばせていただきますねぇ!」
やばいやばいやばいやばい。機嫌を損ねたら殺される。いつか殺される覚悟はできてたけど、生きたまま目を抉られるのは嫌だよぉ……。
「カウィーソ、斬れ」
「ちょっと待っ――うわあああっ! あれ?」
斬られた……のは私を縛っていた縄。え、逃がしてくれるってこと?
いやいやいやいやいや、そんなことないよね! 絶対これ、一瞬希望を与えてから殺しを楽しむパターンだよね! あーもう! 拷問好きそうな人たちに殺されるのは嫌だよぉ!
「ここまでの無礼を謝罪する! すまないタキちゃん!」
「?」
え? なんでゴルドさん土下座してんの。そしてその横で突っ立ったままのカウィーソさんが怖いのなんの!
「そしてさらなる無礼を赦してほしい!」
は?
え?
は?
なんで土下座二連発? そんなに罪悪感あるってこと? なら殺さなくてもいいんじゃないかなぁ!
「タキちゃん! 我々ゴルド盗賊団の長になってくれないか!」
うーん……ごめんね。ゴルドさんが私に何を求めているのか、さっぱりわかんないんだけど。ずっと黙って立ってるカウィーソさんもめっちゃ怖いしさぁ!
「長になってくれないか!」
だから意味わかんないってばぁ!




