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鋼のメンタル令嬢は嫁いびりに動じない【短編】

作者: 十井 風

何も考えずにサクッと読めるようなものを意識して書いてみました(・∀・)

暇つぶしになれば幸いです(✿^‿^)

 ライラック・ノイスとアッシュ・オルデンブルクの結婚は、大恋愛の末のものであった。

 仲睦まじい彼らには、どんな出来事も障壁にならないだろうと思われていた。そんなある年の秋。


 王国と隣に位置する小国が戦争を始めたのだった。医師であるアッシュは、兵の救護活動を命じられ戦地に行くことになる。


「アッシュ君、いつでも良いから手紙書いて送ってね」

 馬車に乗り込もうとする夫を目に涙を浮かべて見送るライラック。薄い紫色の髪には、夫が贈ってくれた一輪の花飾りが咲いている。桃色の瞳は大粒の雫が浮かんでいた。

「うん、離れていてもリラの事をずっと愛しているよ」

 灰色の髪に輝くような黄金色の瞳を揺らしながら、アッシュは愛する妻を抱き締める。仲睦まじい夫婦を引き裂く戦の憎たらしさを口にはせず、ただ二人はお互いの体温を確かめ合っていた。


 彼らが結婚に至るまでの話をしよう。


 ライラックとアッシュが出会ったのは、王国でも有数の学び舎『王立メルスイェナ学院』である。

 ノイス伯爵家の娘であるライラックは、兄と弟に囲まれたせいか、女性でありながら裁縫といった家事や勉学よりも剣の腕を磨くことを得意とした。王立メルスイェナ学院では、ほとんどの令嬢が家庭科に入学するのに対し、ライラックは貴族の令息や騎士の子どもがいる剣術科に進学する。もちろん、母親の強い反対もあったが、ライラックには剣の才能があり、このまま腐らせておくには勿体ないと思った父が説得してくれたおかげで入学する事が出来た。


 ライラック以外はみな男であったが、紅一点でありながらも実技においては令息達よりも優秀な成績を収めていた。また、生まれ持った怪力を活かし、拳で語り合う事も出来たおかげで、女でありながら剣を扱えるライラックを目障りに思った輩たちをちぎっては投げていた。

 男であっても歯が立たない程の強さを持つライラックを学生たちは畏怖の念を込めて『剣拳姫』と呼ぶ。


 実技は得意でも座学はからっきしだったライラックは、時折授業を抜ける事があった。

 アッシュと出会ったその日も座学が嫌で授業を抜け出していた時である。


 剣術科の不良たちに囲まれ、お金を出すよう脅されていたアッシュをライラックが見つけ、その腕っ節で彼を助けたのであった。

 医術科のアッシュは侯爵家の令息なので幼少期より剣術を習っていたが、人に危害を加える事をひどく嫌がっていたので不良たちに絡まれた時も、どうしようと慌てるしか出来なかった。


 困ったアッシュの目の前に颯爽と現れた薄紫の髪を持つ乙女が、自分よりも体格のいい男たちを次々に投げ飛ばす様は、アッシュにとっては女神に見えたのである。


 頼りがいのある背中に一目ぼれをしてしまったアッシュは、その日から自分の女神を守れる男になれるようライラックに剣の指導を願い出た。

 ライラックは剣を教える事も大好きだったので快く引き受ける。二人はそうして交流を深めていき、いつしかライラックもアッシュに惹かれるようになり、交際が始まった。


 学院を卒業して結婚したのは、お互いが二十歳になった時である。

 そして、彼らが結婚して三年後――戦争が始まったのだ。



 別れを惜しむ彼らに話は戻る。

 涙ながら必ず帰って来ると約束し、アッシュは馬車へ乗り込み、戦地へと向かった。残されたライラックに出来る事は、オルデンブルク侯爵夫人として領地を守ること。

アッシュが帰って来る時までこの地を守ろうと決心したライラックに、アッシュの母であるマグノリアから手紙が届いた。



『アッシュが戦地に赴いたので、息子が帰って来るまでわたくしも屋敷に滞在します』


 かくしてライラックと義母マグノリアの同居が始まったのである――。




 マグノリアがやって来たのは、ライラックが手紙を受け取った三日後の事である。

「お義母さま、遠路はるばるお越しいただきありがとうございます」

 出迎えたライラックを見るなり鼻でせせら笑うマグノリア。御年四十一を迎えるが、彼女の美貌は衰えを知らない。


「わたくしが住んでいた頃より全然掃除が出来ていないのではなくて? ほら、こことか埃が溜まっているわよ」

 到着早々、荷物を片手に螺旋階段の手すり部分を指で拭き取り、ほんの少しだけ灰色になった指の腹をライラックへと見せる。


 掃除はライラックの指示で使用人達が行うのだが、埃というものは毎日綺麗に掃除をしてもどこからともなく飛んでくる。マグノリアを迎え入れるにあたって、屋敷全体と彼女が使う部屋を入念に掃除したのだが、気に入らないらしい。


「申し訳ございません、お義母さま」

 頭を下げるライラックにマグノリアは冷たい視線をやる。

「後でちゃんと掃除しておいてくださいね」

 言いながら手に持っていた荷物を侍女に預け、自分の部屋へと向かう。ライラックとアッシュが住んでいるこの屋敷は、マグノリアと亡き元当主が住んでいた。構造も頭に入っているのだろうが、今の主であるライラックの案内なしに勝手に入って進んでいく。


 使用人達はマグノリアの態度と彼女らに流れる不穏な空気を察して気まずそうにしていたが、当のライラックはけろりとしていた。

「お義母さま、あたしが案内いたしますからお待ちください!」

 スカートの裾を持ち上げ、マグノリアを追いかけに行く。

ライラックが後ろで落ち込んでいるものだと思っていたらしいマグノリア。振り返って満面の笑みを浮かべ追いかけてくるライラックを見て、ぎょっとした表情を浮かべた。


 *


 マグノリアを部屋に通した後、バルコニーで今日の予定を再確認していたライラックに義母がドレスを数着持って訪ねてきた。

「お義母さま、どうされました?」

「このドレス、ほつれているから貴女が直してちょうだい」

「あたし裁縫すごく苦手なので侍女にやってもらっても?」

 ライラックの返答にマグノリアは蔑んだような笑みを浮かべて、彼女を見た。

「まぁ、貴族の娘で侯爵夫人でありながら裁縫が苦手ですって。よく我が家に嫁ごうと思ったものね。令嬢にとって裁縫は必須の技術なのに」

「針よりも剣を持っていたものですので……」


 苦笑を浮かべ、気まずそうにするライラック。実母からもさんざん言われていた事だったが、どうも裁縫は苦手であった。というより、裁縫を始めとする家事すべてが苦手なのである。

アッシュは彼女の性格を分かったうえで結婚したし、使用人も夫人の性格は分かっているので彼女の足りない部分は補ってくれた。

代わりに衛兵に剣術指導をするのがライラックの役目である。


 得手不得手を活かし、今のオルデンブルク侯爵家は回っているのだが、マグノリアにとっては許せないようであった。


「だからわたくしは裁縫も出来ない娘と結婚など許したくなかったのです!」

「でも、今は家族じゃないですか、お義母さま」

「貴女にお義母さまと呼ばれる筋合いはありません。気安く呼ばないでちょうだい! この田舎娘が!」


 マグノリアは怒鳴るようにして言うと、手に持っていた衣服をライラックに投げつけ部屋を出て行く。


「奥様、大丈夫ですか? 大奥様はああいっておりましたが、私どもは奥様が嫁いでくださって嬉しいですよ」

 その場にいた使用人達が、ぽかんとしているライラックを慰める。

 しかし、彼女は全く気にしていないように満面の笑みを浮かべた。


「大丈夫よ、あたしの実家は確かに田舎だし。きっとお義母さまもアッシュが戦地に行って不安だと思う。一緒に過ごしていくうちにきっと仲良くなれるわ」

「でも、あんな言い方されて傷つきませんか?」

「ううん、ちょっとの事で落ち込んでいたら訪れていた運気を取り逃がしちゃうぞってお父さまが言っていたの。だからあたしは落ち込まない」

 ライラックの桃色の瞳に覚悟の光が宿る。

「絶対、お義母さまを更生させるわ」




 朝からマグノリアの怒声が屋敷に響く。

「ちょっと、ライラックさん! 掃除しておいてって昨日言ったわよね? それなのにこれはどういう事かしら。埃が残っているじゃない」

 マグノリアは、昨日触れていた螺旋階段の手すり部分を指でなぞって見せる。使用人達が見ている前でライラックを怒鳴る彼女の表情は、声音とは違って優越感に浸った喜びを浮かべていた。


「さっさと掃除しておいてちょうだい」

 言いながら踵を返そうとするマグノリアの腕をライラックが引き留める。

「お義母さま、一緒にやりましょう! はい、これお持ちになって」

 彼女が渡したのは掃除用具。使用人達が持っているものと同じである。

 自分も同じものを持ってライラックは片腕をマグノリアに差し出した。


「わ、わたくしがやるわけがないでしょう!! 馬鹿な事を言わないで」

「そんな事言ってないでやりますよ~」

 マグノリアは手を振りほどこうとするが、恐ろしいほどびくともしない。細い腕になぜこんなに力があるのかと恐ろしくなるほどだ。暴れれば暴れるほど、骨の軋む音がするのでマグノリアは大人しく掃除をする事にした。


「ライラック様……凄い……」

 どこからか使用人のそんな声がした気がする。



 *


「ちょっと昨日言っていたドレス直していないじゃない!」

 バルコニーにいたライラックを見つけ、マグノリアは昨日投げつけた衣服を見せつける。どの衣服も昨日の状態のまま、自室に戻されていたのだ。

「お義母さま、一緒に直しましょう。あたし、裁縫苦手だから教えてくれませんか?」

「ば、馬鹿な事を。花嫁修業は実家でやるものです。わたくしが教える義理はありません」

「でも、一緒にやればきっと早いですし。ね?」

 笑顔を浮かべながらライラックはマグノリアに腕を伸ばす。マグノリアはひぃっと声をあげ、青ざめる。掴まれたら最後、逃げ出せないと分かっているからだ。マグノリアは大人しくライラックに裁縫を教える事にした。


「ここをこうして糸をこうします」

「わあ、魔法みたい。凄い、お義母さま」

 無邪気に感動するライラックに、マグノリアは鼻を鳴らす。

「裁縫は出来て当然です。というより、昨日も言いましたが、わたくしをお義母さまと呼ばないでちょうだい」

「じゃあ、マグノリアちゃん?」

「ちゃ……この年の女性を“ちゃん”を付けて呼ぶんじゃありません」

「アッシュ君のお母さんって毎回呼ぶと口が疲れますよ。略してアッシュママにしますか?」

「わたくしの事、馬鹿になさっているわよね?」


 険しい表情を浮かべて問い詰めるマグノリアと対照的にけらけらと笑うライラック。彼女達の様子を見て使用人達はひっそりと『仲良くなってる?』と思うのであった。


 *


「それにしてもライラックさん、調度品を選らんのだのは貴女かしら。趣味が悪いのではなくて? 田舎だとお洒落というものに疎いのかしら」

 マグノリアの厳しい言葉が響くのは、夕食の時間である。

 食事をする部屋の調度品が気に入らないらしく、部屋を見回しながら言う。

「お義母さん、家具はアッシュ君の趣味ですよ。趣味が悪いだのという苦情はアッシュ君へどうぞ。あと、今は戦争中だから家具の入れ替えは出来ませんよ。こんな時に領主が贅沢していては、領民に示しがつきませんからね」

「うっ……それもそうだわ。ところで、子どもはいつ生まれるの?」

 次なる追及の種を探し当てたマグノリアに、ライラックは初めて険しい顔を浮かべた。


「子どもは自然の流れに身を任せるしかないですよ。アッシュ君が“子の誕生は奇跡の連続だ”って。お義母さまも身に染みて分かっている事でしょう。生命に関しては何人たりともとやかく言う権利はありません」

 はっきりと自分の意見を告げるライラックの言葉を聞きながら、マグノリアは自分の心に棲んでいた悪魔がぼろぼろに崩れていくような感覚を覚える。

 己の行いを振り返って『自分は一体何をやっていたのだろう』と猛烈に恥ずかしくなった。


「ごめんなさい、ライラックさん。貴女の言う通りだわ」

 屋敷に来て初めて謝るマグノリアの姿に驚いたのは使用人だった。

 ライラックはいつも通りの笑顔を浮かべて食事を続けるよう彼女に言った。




 マグノリアの生家は、昔に王国に吸収されてしまった神聖国の末裔である。

 宮中伯という爵位を持っていたものの、形だけの貴族であり領地は持たないため、暮らしぶりは領民と変わらなかった。


 オルデンブルク侯爵とはお互いの一目惚れで結婚まで至る。愛し合った幸せな結婚になるはずだったが、侯爵の母が二人の結婚に猛反対したのだった。

 侯爵もマグノリアもどうにか結婚したいという強い意志を持っていたので、説得を続け、最終的には渋々了承というような形で終わった。


 同居は嫌だったのだが、身体が悪い姑を心配した夫の不安を取り除いてあげたいという気持ちでオルデンブルク家に入ったのである。一緒に暮らしていけばいつか分かってくれることを信じて。


 しかし、姑はマグノリアを嫌ったままだった。

 外国人で爵位も低い女と結婚してもオルデンブルク侯爵家にとって、何の利益もないと罵倒される日々。家事は使用人ではなく、マグノリア自身にさせたり、気に食わなければ食事を投げられたりする事もあった。

 侯爵がいない時を見計らって体罰を受ける事も。姑は鬼のような人だった。


 夫が姑を諌めてくれたり、間に入ってくれたりしたが、態度は変わらなかった。それでもマグノリアは夫を愛していたので、同居を続けていた。

 姑からのいじめは彼女が亡くなるまで続いたのである。


 姑が亡くなり、心労が減ったおかげかマグノリアは健康を取り戻し、子宝に恵まれた。長男アッシュの誕生である。その後、長女を出産。

彼女が亡くなってからは、夫と死別するまで幸せに暮らしていた。


 十一年前に夫を亡くし、ライラックが嫁いでくるまで彼女が一生懸命家を切り盛りしていたのだ。


 いつかやってくるアッシュの妻には、姑と同じ態度を取らないようにしたいと思っていたのに。気がつけば同じ轍を踏んでいた。憎たらしかった、大嫌いだった姑と全く同じ生き物になってしまっている。

 マグノリアは自室で、昔姑にいじめられて一人泣いていた寝台を見て、なんて愚かだったのだろうと思う。


 自分の過去を清算して未来を見つめなければ。


 ライラックの態度に目が覚めたマグノリアは、人が変わったようになる。


 一緒に服を繕ったり、お茶をしたり、領地を見て回り戦時中でも領民が出来るだけいつも通りの生活が出来るようにライラックに助言をしたり。

 嫁と姑の同居は軌道に乗り始めていた。




 巷で貴族相手に詐欺が多発しているらしい、と使用人達の間で噂は広まっていた。戦時中なのに酷い事をすると口々にみなは言う。うちには来て欲しくないよね、とも。どこか他人事であった噂は、オルデンブルク侯爵家に事件が訪れるまでは、みんな気にしていなかった。


「作物の収穫量と戦況を見て税を変動させるのはどうでしょう?」

「そうねぇ、参考までに去年はどのくらいの量だったのかしら」

 ライラックとマグノリアが領地経営について話し合っている。

 控えめに扉がノックされ、ライラックの許可が出た後、ゆっくりと開いた。


「お取込み中、大変申し訳ございません。来客の方がいらしているのですが……」

「どなた?」

「“テテテ教”と名乗る二人組でして」

 聞き覚えがない。アッシュの知り合いでも、ライラックの知り合いでもない。もちろん、マグノリアの知り合いでもなかった。


 二人は顔を見合わせた後、怪訝そうに首を傾げ、使用人に帰ってもらうよう伝えるが、困った顔で首を振った。

「それが会ってくれるまで帰らないと言い張っておりまして。どうしましょう、衛兵に捕らえてもらいますか?」

 なんとも面倒くさそうな匂いがする。ライラックは義母と顔を合わせ頷くと、客人を通すよう言った。


 その後、二人が客室に入ると、既に来客は通されている。

 客間に通された二人組は何とも胡散臭そうであった。丸い玉をたくさん繋げた首飾りや腕輪、頭にもつけている。全ての玉に『テ』の文字が入っているから不気味であった。


「お会いできて光栄でございます、オルデンブルク侯爵夫人」

 二人組はライラック達の姿を見ると、急いで立ち上がり頭を下げる。

「用件をすぐに言ってちょうだい」

 ライラックの冷たい言葉に怯むことなく、二人組は持参してきたらしい布に包まれた大きな荷物を机に置く。男が一人で抱えられるかというくらいの大きさであった。

 男は丁寧に、慎重に布を外す。するりと静かに布が落ち、中にあった壺が出てきた。重量感のある大きな壺だ。


「今は戦時中でこれからどうなるか未来を考えると不安ではないですか? この国がどうなるか分からない恐怖。俺達……いや、私どもはそんな皆様をお救いすべくテテテ様の教えを広めている者です。この壺はテテテ様のご加護があるものでして、毎日壺に水を入れて祈れば来世は必ず幸せになるという代物です。壺自体もかなり価値のある骨董品なのですよ。通常、五百万のところを今は百万にしてお売りさせていただいておりまして……」


 両手を重ね擦り合わせながら話す男。

「もう結構です。壺は買いませんのでお帰りください」

 話を遮るようにしてライラックは言う。若い夫人に言われたのが気に食わないのか、二人組は鼻で笑った。

「人生経験の浅い若奥様では、壺の価値は分かりませんかね」

「最後の警告です、今すぐ出て行きなさい」

 ライラックは強く言ったが、二人組は言う事を聞かない。マグノリアは険しい表情を浮かべ、微動だせず彼らを見ていた。


「ご婦人は壺の価値がお判りになるでしょう?」

 二人組はライラックを無視してマグノリアへと標的を移す。

 しかし、マグノリアは彼らを鼻で笑い、蔑んだ目を向けた。

「この子は若いですが、わたくしの息子の妻です。立派な侯爵夫人なのですよ。貴方達の態度は夫人に対するものではない、彼女を馬鹿にすればわたくしが許しませんよ」

 ぎらりと鋭く光る眼に、二人組は怯んだのか体を硬直させる。


「手足でも首でも刎ねて差し上げましょうか。それに、骨董品集めが趣味のわたくしの前でよく壺が骨董品だなどと嘘がつけたものですね。お前たちが持ってきた壺は最近、作られた無名のものです。大量生産しているものですよね? それが百万の価値などわたくし達を馬鹿にするのも大概になさい」

 隣にいたライラックがいつの間にか真剣を取り出していた。

「お義母さま、あたしはいつでも首を刎ねる準備が出来ていますよ」

「よろしいわ。では、お前達に選んでもらいましょう。今、この子に首を刎ねられるか、衛兵を連れてくるか、どちらがいい?」


 全く笑っていない女人二人を前に、男たちは震えながら、

「衛兵を連れてきてください」

 と言った。


 その後、すぐにやってきた衛兵に二人組は捕らえられ連れて行かれた。

「お義母さまに危害が及ばなくて本当に良かったです」

 にこやかに真剣を直すライラックに、マグノリアは微笑む。

「貴女こそ危ない真似をするんじゃありませんよ。怪我したらどうするのです。わたくしを心配させないでちょうだい、貴女も大事な娘なのですから」



 *


 事件が起きて数か月後。戦争が終結した。

 戦地からアッシュが戻って来る。ライラックとマグノリアは、一緒に屋敷の前で彼が乗った馬車の到着を今か今かと待っていた。


 太陽が沈みかける頃、ようやく馬のいななきと共に屋敷に向かってくる馬車が見える。ライラックは待ちきれず、馬車の方へと駆け出した。

 慌てて御者が馬を止め、背後を振り返り、中に乗っているアッシュへと何かを話すと、勢いよく扉が開いた。中から転がり落ちるようにしてアッシュが出てくると、走って来る最愛の妻を抱き締めた。


 涙を流し、再会を喜ぶ夫婦に後からやって来たマグノリアが声をかける。

「アッシュ、貴方とても素敵な方を妻にしたのね。絶対に幸せにするのよ」


 穏やかな笑みを浮かべる母を見たアッシュは、涙と鼻水を流しながら「はい」と頷いた。


 それから若夫婦は子宝に恵まれ、義母とも良好な関係を築き、貴族社会の中で最も仲が良い家族として有名になるのは、また次のお話――。



最後までお読みいただき、ありがとうございましたm(_ _)m

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災害級に暑いので皆様、熱中症にはお気をつけくださいね!

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[良い点] 適度に強いお嫁さん。 自分を省みることのできるお姑さん。 現実の嫁姑問題にメデタシメデタシはありえない気はしますが、キレイにメデタシメデタシとなっていて読む側は安心します。
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