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灰色髪の夕那 ~連載版~  作者: ひだまりのねこ


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8/8

最終話 ~伝説の始まり~


『速報です。九州阿蘇に建設中の超大型エネルギー変換施設ベテルギウスが完成し、本日運転を開始しました。これにより日本国全土が防空システム千里眼の効果範囲内となり、防衛体制はさらに強固なものとなります。また、これまで有料であった大阪以西地域の電気代に関しても、来月以降順次無料となります。詳しくはエネルギー庁もしくはお近くのAIにお尋ねください』



 ベテルギウス完成のニュースに国民は歓喜に沸く。


 電気代が無料になる事もそうだが、これで移動制限や行動制限が緩和されること、子どもたちが安心して外で遊べるようになることなど、ようやく不自由のない日常が戻ってくるのだという想いがあるのだ。


 そして国内の問題が一段落したことで、ようやく次の計画が動き出すことになる。


 それが―――――邦人救出計画


 全世界を巻き込んだ戦争が起こった時点で、海外に取り残された邦人は数百万人を超えていた。


 しかし、当時正式な軍を持っておらず、仮に持っていたとしても、自国の防衛に精一杯の状況で政府に出来ることはほとんど無く、大多数の邦人はそのまま現地に取り残されるしかなかった。


 世界中の空路、海路は寸断され、戻って来れたのは、運良く最後の航空便に搭乗できた人々や命懸けで隣国から船で脱出することが出来た人々のみ。救出作戦は分断されてしまった家族や友人たちはもちろん、全国民の悲願でもあったのだ。



「というわけで、夕那とエリマッキーには早速台湾へ向かってもらうことになったんだ」


 家族で食卓を囲みながら、朝日博士が申し訳なさそうに頭を下げる。


「わかったパカセ」『了解、博士』


 最初の目的地は台湾。


 距離が近いこと、邦人が多く取り残されていること、今後のシーレーン回復の拠点とする目的もある。


「日本の安定には周辺諸国の安定が不可欠だからね。まずは取り残されている邦人の救出と合わせて、南西アジア諸国およびオセアニア地域の安定化が最優先かな」


「そうね、思ったよりも事態は深刻みたいだから……」


 那都も表情を曇らせる。


『衛星で収拾したデータを解析した結果、百億に迫っていた世界人口は現在十億を切ってますからね。戦争の影響もあるけど、東南アジアとアメリカで起きた火山噴火による気温の低下、不作による影響の方がはるかに深刻。そして、そのことが治安の悪化に拍車をかけているという悪循環……早急に対応が必要だと判断するよ』


 那都の言葉を補足するように黒髪の美少女が状況を説明する。


「あの……誰?」


 思わず夕那がツッコミを入れる。あまりにも自然にそこに居たので気にはなりつつも触れていなかったのだが。


『嫌だなあ夕那、ボクだよ、アマテラスだよ』


 心外だというかのように大げさに嘆いてみせる黒髪のボクっ娘。

  

「……アマテラス!? もしかして身体もらったの?」

『その通り!!! 念願の身体を手に入れてハッピーだよ』


 飛行機のように両手を広げてクルクル飛び回るアマテラス。これまで肉体が無いことを嘆いていたので、余程嬉しいのだろう。  


『でもこんなところでのんきに飯食っていて大丈夫なのか?』


 アマテラスは国家人格AIとして、24時間日本全土の情報管理およびシステム運用をしている。エリマッキーが心配になるのも無理はない。


「ははは、大丈夫だよエリマッキー。アマテラスにも息抜きは必要だからね。ここだけの話、アマテラスは三つのAIが同時並行的に存在としているんだ。仕事をしているアマテラス、バックアップとして休眠しているアマテラス、そして息抜きをするアマテラス。同一人格でありながら、同時に別のことを出来るというわけだ。万一何かあったら大変だからね」

『そういうこと』


 朝日博士とアマテラスは自信満々に胸を張る。


「ほえ~、びっくり。でもいつの間にそんなものを作っていたの?」


 夕那が驚くのも無理はない。実際、夕暮博士夫妻は文字通り寝る間を無くしてまで優先課題への研究開発を進めていた。優先順位の低いアマテラスのボディを作っている暇など無かったはずなのだ。


「私が作ったのよ、夕那」


 あくびをしながら席に着く夕那そっくりの女の子。


「夕那さん!! もう動いて大丈夫なの?」

「おかげさまでね。もう大丈夫よ夕那」


 見た目も同じで名前も一緒なので紛らわしいことこの上ないが、彼女こそアンドロイド夕那のモデルでオリジナル。夕暮夫妻の娘、夕暮夕那。


 先日無事蘇生に成功したばかりで、絶対安静が必要だと言われていたのだが。


「アマテラスのボディは、元々九割方完成していたのよ。私が死んじゃってそのままになっていたのを仕上げただけだからすぐに終わったわ」


「ははは、元々戦闘用アンドロイドの設計は夕那の作ったプロトタイプをそのまま流用したものだからね」 


 夕暮夕那は紛れもない天才であった。両親の才を受け継ぎ凌駕するほどに。


『というわけで、台湾へは私も同行するからよろしくネ』


 まるで遠足にでも行くかのようにウキウキしているアマテラスだが、もちろん遊びに行くわけではない。


 現在の台湾は、全土が無法地帯と化しており、救出任務ともなればその危険度、難易度は跳ね上がる。


 単純な戦闘力だけならば、夕那とエリマッキーだけでも十二分にオーバースペックではあるが、今回のような任務となればやはり手数と選択肢は多い方が良い。そういう意味でもこのタイミングでアマテラスが間に合ったことの意味は計り知れない。彼女がいれば世界中のあらゆるシステムへ侵入、干渉が容易に可能となるうえ、リアルタイムで衛星そのものとリンクしている彼女は文字通り神の眼に等しいからだ。


 ちなみに、戦闘力でも夕那とアマテラスに性能の差はほとんど無い。


  

「アマテラス、台湾の件はともかく国際宇宙ステーションの方はどうするんだ? そろそろ限界が近いはずだよね?」


 二人の夕那に両側から挟まれている空野がたずねる。


 国際宇宙ステーションは、戦争が始まってからそのまま放置され、宇宙の塵となり果ててしまうところだったが、日本からの援助で何とか延命することが出来ていた。


 しかし、長期間に渡る宇宙滞在でステーションに残る人々の精神も限界に近付いている。


『ああ、その件なら交代要員を乗せた帰還用のロケットを来月打ち上げ予定だから、台湾から戻ってきたらになるかな。そのことは国際宇宙ステーション側にも連絡してあるから心配いらないよ』


 そういって空野の膝の上に座るアマテラス。


「あの……アマテラス? そこは君の席じゃないよね?」

『別に良いじゃないか、両手に花、膝に美人。まったく空野が羨ましいよ』


 悪びれる様子もなく猫のように大きく伸びをすると空野に全体重をかけるアマテラス。


「夕那~、アマテラスに何とか言ってやってくれよ」


「五分交代だよ、アマテラス」

「良いんじゃない? アマテラスは私の娘みたいなものだし~」


 困り果てる空野だが、夕那たちは気にする様子もない。


「ははは、空野くんは本当にAIにモテモテで羨ましいよ」

「あらあら若いって良いわね~」



 世界は荒廃し、国から一歩出ればそこには無法の死の大地が広がっている。


 

 夕那たちの活躍によって世界が再び平和を取り戻し、平和宣言がなされるのはそれから十年後のこと。


 世界はまだ知らない。このとき食卓を囲む彼らの笑顔と明るい笑い声が世界を救うことになるのだと。


『灰色髪の夕那』の伝説がここから始まってゆくことを。




◇◇◇



「――――って感じなんだけどどうかな?」


 小学生にして作家である夕暮夕里は書き終えた原稿を読んだ感想をたずねる。


『うんうん、悪くはない、内容は悪くはないんだが……』


「悪くはないけど?」


『なんでタイトルに夕那だけなんだあああ!? 私も相棒として頑張ったのに……』


 エリマッキーは不満気に叫ぶ。


「そう? じゃあエリマッキーはどんなのが良いのよ」

『だから私はマフラーだと何度言えば……そうだな……灰色の夕那と孤高のマフラーなんてどうだ?』

「うーん、ちょっと長いかな? じゃあ、夕那とエリマッキーとか?」


 ちょっと待て、私はマフラーだとエリマッキーが抗議の声を上げようとすると、二人の会話を聞いていたのか奥のキッチンから笑い声が聞こえてくる。


「あはは、諦めなよエリマッキー。だってどう考えても『灰色髪の夕那』の方がカッコイイじゃない。『夕那とエリマッキー』だとなんか童話みたいだし」


「あ、ママ。やっぱりそう思うよね? じゃあこれで決まり」


『あ、ちょとまて夕里、話せばわかる……ってもう居ないし』  


 落ち込むエリマッキー。


「まあまあ、良いじゃない、読めばエリマッキーがどれだけ有能で重要かわかるんだし」


 優しく撫でながら慰めるのは、夕里の母親で天才科学者の夕那博士。


『むう……そうかな?』

「そうよ」


「いや、エリマッキーはネタキャラ」


 冷たく言い放つのはアンドロイド夕那。


『うわああああ!?』

「もう、夕那ってばエリマッキーを苛めないの」

 

「ごめんねエリマッキー。ただの本気だから」

『そこは冗談だからっていう場面だろっ!?」

「あはは、これでも感謝しているんだよ? これあげるから機嫌直す」


『……これは?』

「手袋。エリマキと手袋はセットでしょう?」

『ありがとう夕那、最近手が冷たくて……ってマフラーが手袋するかっ!!』

「そう言うと思って、これが本命」

『ほほう!! これは見事な……もしや利尻産? って私に昆布は嫌がらせだろっ!?』


 以前、昆布と間違われて食べられてしまったトラウマがあるエリマッキー。


「うん、ママが今夜は鍋だってさ」


『嫌ああああああ!?』 


 

 また冬がやってくる。マフラーと闇鍋が恋しくなる冬が。


 家族が増えて一層賑やかになった食卓には、今日も明るい笑顔と笑い声が絶えることは無く、幸せいっぱいの日々がずっと続いてゆくのであった。



挿絵(By みてみん)

灰色髪の夕那の物語はここで一旦完結となります。

ここまで読んでくださった皆様には感謝の気持ちで一杯です。


今後もまた企画などで書く機会はあると思いますので、その時は夕那たちをよろしくお願いします。


そして、この物語が生まれるきっかけをくださった、ますこさまには心より御礼申し上げます。素晴らしい挿絵あっての作品です。文字でしかなかった夕那やエリマッキー、夕暮夫妻に出会えて作者としてこんなに嬉しいことはありません。本当にありがとうございました~(≧▽≦)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良いキャラでした、強キャラ、カッコイイ。 リアルタイムで把握してる部分の伏線、戦略を選択する意図が伝わる描写は欲しかった…混戦状態ではない状況で投入されるようだし、5話でエリマキが語るまで…
[良い点] 完結おめ [気になる点] 息抜きをするアマテラスw [一言] 三話が伏線だったとは!?
[良い点] 最後まで楽しく拝読しました。 国を守るための厳しい戦いやシステムの裏で、夕暮博士夫妻のもとでの、ほのぼのとしたやりとりの場面があるのも、よかったです。 エリマッキーが語った夕暮博士夫妻の秘…
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