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第三話 ~やっぱり冬は鍋よね~


「博士、はいこれ新潟土産の笹団子」


 無表情で土産を差し出す夕那。


「お帰り夕那。やだなあ、博士じゃなくてパパって呼びなさいといつも言ってるだろう?」


 夕那を出迎えたのは、彼女を生み出した天才科学者の夕暮朝日(ゆうぐれあさひ)博士。


「…………パカセ」


「えええ!? なにそれっ!? なんでパパとハカセを混ぜたのっ!? そんなにパパって呼ぶの嫌っ!?」 


「うん」

 

「……それにしても笹団子かあ。懐かしいな……ありがとう夕那」


『さすが博士、メンタルコントロールも一流だな』


 夕那の巻いているマフラーが博士にツッコミを入れる。


「エリマッキーもお帰り。私は天才だからね。ダメージを受ける前に回避するのは当然のことさ」


『その割には膝から下が生まれたての小鹿のようにガクガク震えているようだが? あとエリマッキーはやめてくれ。私は誇り高きマフラーだ』


 空気を読まず無慈悲な追撃をするエリマッキー。


 

「お帰り~夕那ちゃん、エリマッキーちゃん。今夜はお鍋よ」


 ペタペタとゆるゆるのスリッパで駆け付けたのは博士の研究パートナーで妻の夕暮那都(ゆうぐれなつ)博士。


「きゃあっ!?」


 何もないところで躓いて転びそうになる那都を夕那が素早く受け止める。


「大丈夫? ママ」


「ありがとう~夕那ちゃん。おかげで助かったわ~」


「……くっ、なんでママは良くてパパは駄目なんだ……?」


『博士、膝から下が震えているぞ』


 エリマッキー、もうやめてあげて。博士のライフはゼロよ。などと言ってくれるものはこの場にはいない。


「そ、それよりも那都、ほら、夕那がお土産の笹団子を買ってきてくれたぞ」


「まあ~懐かしいわ~。笹団子って新婚旅行で新潟行った時以来じゃない?」


「そうだな……あの頃の君は天使のように可愛かった。もちろん今は女神のように美しいけれども」


「あら~ダーリン、そんなに褒めても鍋しかないわよ~。ふふ、さあお腹が空いてるでしょう? みんなで食べましょうか」


挿絵(By みてみん)




 ぐつぐつぐつ……暗闇に鍋が煮え立つ音が響く。


「ねえママ……なぜ灯りを消しているの? ご丁寧に私の暗視機能までOFFにして」


「なぜって、冬は闇鍋だからよ~」


 夕那は搭載された超高性能のAIを駆使するも、そんな情報はどこにもない。普通の鍋が食べてみたいと切に思うが、楽しそうな両親の姿を見ると言い出せなかったりする。


 夕那は戦闘用アンドロイドではあるが、心優しい女の子なのだ。



「那都の闇鍋は最高だぞ、夕那。何しろ何が入っているかわからないからね」


「あははダーリンったら、何が入っているかわかったら闇鍋じゃないでしょ~」


「そりゃそうだな、あはははは」


 夕那は食べる前から嫌な予感しかしていないが、それでもお腹は空いている。構造上食べなくても死ぬことはないのだが、ご丁寧に食欲は搭載されているからだ。


 それは人間の気持ちや苦しみを理解させるためにあえてそうしたのだと天才である夕暮博士は説明しているけれども、実際のところは単なるこだわり、趣味である。



「ママ……なんだかスープ変な味がする」


「ああ、失敗した薬品をリサイクルしているから~。味はともかく体には良いはずよ~」


 身体に悪くても良いから、味を良くしてほしかったと夕那は思う。


 せめてもの救いは、真っ暗で何も見えないことだろう。その絵の具をごちゃまぜにしたようなスープを見てしまったら、とても口に入れることなど出来ない。


「おおっ!! これは闇鍋定番の革靴キター!!」


 嬉しそうに叫ぶ夕暮博士に夕那の心は急速に冷めてゆく。人間の心はムツカシイネ……思わずカタコトになってしまうのも仕方がないこと。


「ん? なんだろうこれ……ずいぶんと長い。でも噛み締めるとスープがジュワっと染み出てきて……とっても……不味い」


 食感は悪くないのだが、いかんせんスープが残念過ぎる。


挿絵(By みてみん)



「……パカセ、ママ、これあげる。味はともかくわりと行ける方」


 夕那も頑張って途中まで食べたが、とても食べきれない。


「どれどれ……うん、なるほど、食感は悪くないね……んん? なんかさっきよりスープが甘くなってないか?」


「あら、なんだか油揚げみたいな食感ね~。甘いのは笹団子を追加投入したからじゃない?」


 なんだと……!? 夕那は絶望する。食後に口直しの笹団子があるから耐えられていたのに……。


 激マズのスープは、笹団子の甘さと草っぽさが加わって、絶妙に不味くなっている。まさに天才的な不味さ、略して天マズ。夕那のAIは現実逃避で暴走気味である。



「あれ? そういえば、なんか静かだと思っていたら、エリマッキーは?」


「あら、本当ね? 夕那ちゃん、エリマッキーちゃんはどこ行ったの~?」


「ん? エリマッキーならここにいるけど」



 反応が無いことを不思議に思った夕暮博士が明かりをつける。 




「……夕那、それマフラーちゃう、昆布や」


 思わずエセ関西弁でツッコむ博士。


「あら~? じゃあ昆布だと思って鍋に入れたのは……」


「エリマッキーだね。道理でスープが不味いと思ったんだ」


 ちゃんと昆布で出汁が取れていたら……そう思うと沸々と怒りが込み上げてくる夕那。



「大丈夫よ~、今からでも遅くないわ~。その昆布でおうどんでも作るわね~」



 上質な昆布出汁のうどんは絶品であった。那都は料理も天才なのだ。



 エリマッキーはどうなったかって?


 ご心配なく。翌日ちゃんと排出されて再会出来たから。


 良かったね、エリマッキー(良くない)

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― 新着の感想 ―
[一言] パカセのビジュアルイメージに激しい既視感を覚えるのは何故だろう。(笑) 他人事とは思えない。パカセにはどうあっても幸せになってもらいたい。いや、十分幸せそうだが。(たとえ震えていても)
[気になる点] エリマッキー食べられても、復活出来るんだ?凄い機能だ
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