ゲームの悪役令嬢に転生した私はなんとか処刑を回避する
「・・・ここは?私さっきまで何してたんだっけ?」
私は普通の学校に通う高校二年生の佐藤 茉莉「さとう まり」。16歳。友達もそれなりにいて、ちょっとオタクな趣味を持つだけの幸せな人生を送っていたはずだが、
「いたっ!」
頭が痛い。思わず頭を触ろうとすると自分が何かを握っていることに気づいた。
「これは包丁?・・血がついてる!それに・・・」
思わず包丁を落としてしまう。私の目の前には明らかに男性の死体があった。
「え?うそ・・」
これはマルべス?いや、そんなはずはない。夢なのか?いや明らかに現実だ。私のかすれるような息使い、鳴りやまない心臓。それに手についた血の匂い。すべてが現実だと私に突き付けてくる。
ここはどこだ?あたりを見回すと西洋風の長机と食器が置かれている。時計を見ると深夜3時を示していた。マルべスに目をやると、マルべスは背中から血を流して倒れている。背中を一突きされたみたいだ。
「わたしじゃない!わたしじゃ!・・」
そうだ。私ではないのだ。それは私が第二皇女フレンダではなく佐藤 茉莉だ、ということではない。この目の前の男を殺した犯人が私ではないのだ。
私はマルベスを殺した真犯人を知っている。なぜならここは私がやっていたゲームの「異世界恋愛シュミレーションゲーム~ドキドキ王子様~」の世界だからだ。自分の髪を見ると綺麗な銀髪が目に入った。
「私本当にフレンダになってるの?」
フレンダはいつもヒロインのエミリアをいじめる悪い女だ。銀髪で顔はそこそこ綺麗なのだが、妹のエミリアは金髪で顔が整っており、絶世の美女とまで言われている。そのためエミリアの可愛さに嫉妬し、何かにつけてはエミリアをいびっている。エミリアに料理対決を申し込んでズルして勝ったりもした。
「ゲームだと料理対決のときのフレンダまじで強かったんだよねー」
フレンダが処刑されてからズルをしていた証拠が見つかったはず。皆がそんなフレンダの事を悪役令嬢と呼んでいた。
そしてヒロインのエミリアはある男に悪事を吹き込まれる。その男はアイクという貴族の男だ。エミリアがアイクを好きになるルートに入ると、アイクは敵対関係にある別の貴族のマルベスを殺害するためにエミリアを使う。
「そう考えると黒幕はアイクかもしれないな」
そしてエミリアに俺の事が好きならマルベスを殺してほしいとお願いする。最初はエミリアも拒んでいたが、いつも自分をいじめてくるフレンダに罪を擦り付けることを提案すると渋々了承した。
そしてマルベスを殺しフレンダに罪を擦り付けた後は二人で永遠の愛を誓うという物語だ。なんとも胸糞の悪い話だ。エミリアは結局自分の幸せしか考えていないのだ。
「結局似たもの姉妹かもしれない」
ここで重要なのは私が罪をなすりつけられた場面だ。フレンダは目が覚めると手には血のついた包丁と目の前の男の死体を見て思わず叫んでしまう。この悲鳴を聞いたメイドが他の者を呼んで、私は捕らえられる。私は必死に弁明するも、笑っているエミリアの目の前で処刑されてしまうのだ。
だが逆に言えば、私が叫ぶまでは人が来ないということだ。おそらく私が寝ているところを誰かに見つかると、だれかが睡眠薬を飲ませたとばれるので人払いをしているだろう。
だから私には考える時間がある。どうにかして私が犯人ではないという証拠を見つけなければ。
「あっ。そう言えばマルベスがどうやって殺されたかを思いださなければ」
たしか、まず私に睡眠薬を飲ませた後、食事場の長机の下に隠す。次にエミリアがマルベスを呼び出した後、隙をついて背中を一突き、その後眠らせていた私を座らせて、包丁を持たせて事件現場の完成だ。
うーん。アリバイを証明できればいいけど現行犯だからなー。それは無理だよなー。やっぱり証拠がないと。
「しかしどうしよう現代のように指紋鑑定とかはないしなー」
あったとしても私の指紋がべったりとついているか。落とした包丁をもう一度拾い上げる。これはたぶん料理人の包丁だな。人を背中から刺して殺すにはナイフでは無理だからな。
「ん?なんか力が入らないな。こんなにフレンダって非力だっけ?」
持つだけで精一杯だ。こんな状態なら人を刺すことなんてとても・・
「そうか!これだ!鑑定!」
私は鑑定の魔法を使って包丁を調べてみた。フレンダは魔法が得意で様々な魔法を使うことができる。
「・・あれ?おかしいな魔法が発動しない」
私の意識が佐藤茉莉だからか?まあ、鑑定できる人は王宮に一人はいるよな。
私は改めて包丁を見つめる。この私を犯人にした凶器が唯一の証拠なんて皮肉なものだ。私は包丁を持ってその場に座り込んだ。
「よし!ここからが勝負だ」
私は空気を思いっきり吸った。
「きゃあああああーーーー!!」
私の悲鳴を聞いたメイドのバレッタが駆けつけてくる。
「・・何事ですか?きゃあーーー。だれか!だれかー!」
その場にぞろぞろと人が集まってくる。そして私は拘束され王のもとに連れていかれた。
今私は両腕を後ろでに拘束されている。そして隣には兵士がおり私の首を落とすのを今か今かと待ち望んでいる。眼前には王様であるお父様、お母さま、そして妹であるエミリアがいた。周囲には大臣やメイド、執事たちが事の顛末を見守っている。
「ふー。残念だよ。フレンダの悪い噂は度々耳にしていたがまさか殺人までしてしまうとは」
お父様がため息まじりに私を見つめる。
「ですがお父様。私はやっておりません。それに動機がありません」
私は毅然とした態度でお父様に伝える。すると横からエミリアが割り込んできた。
「動機ならあるわ。お姉さまはマルベスの事が好きだったかもしれないけど、マルベスは私の事が好きだったみたいね。それに嫉妬したお姉さまが殺したんでしょう?」
それで殺すのならエミリアの方ではないか?でも動機としては十分かも。
「さあ!お父様。早くこの殺人犯を処刑しましょう!」
エミリアは嬉しそうにお父様に提案する。ゲームでやっていたころはフレンダを殺すことにあまり抵抗はなかったが実際殺される立場になるとエミリアガチでうざいな。現代に戻ったらエミリアが死ぬエンドを10回やろう。
「うむ。そうじゃな。何か言い残すことはあるか?」
来た!ゲームでは「私は犯人ではありません信じてください」が最後の言葉だったが今回は違う!何千何万と繰り返されてきたフレンダの処刑を私が止めるんだ!だって私が死ぬかもだし。
「お父様!私は犯人ではありません!本当の真犯人を私は知っています!」
私はなるべく訴えかけるようにお父様に言った。
「うるさい!今更何をいっても無駄よ!お父様すぐに処刑を!」
エミリアがすぐさま私を殺そうとする。だが、
「分かったその真犯人とやらを言ってみよ。何をいっても無駄なら構わんよな、エミリア」
お父様は冷静にエミリアを言いくるめてくれた。ありがとうお父様!好き!
「まず真犯人はそこのエミリアです」
私はなるべく平静を保ってそう言った。
「え?」「あのエミリア様が?」「嘘よ」
城内がざわついた。エミリアは慌てて私に反論してくる。
「何適当なこと言ってんのよ!私な訳ないじゃない!それなら証拠だしなさいよ!」
来た!逆転のチャンス!
「証拠ならあります。だれか凶器の包丁を持ってきてください!」
「だれか持ってこい」
お父様が命令してくれた。そしてメイドの一人が包丁を持ってきた。私の目の前に包丁が置かれる。あとはこの包丁を鑑定してくれる人がいれば。
「どなたかこの包丁を鑑定してくれませんか?」
私は周囲の人間に呼びかける。おそらく王宮勤めの鑑定士がいたはずだが。
「はい。鑑定なら私ができます」
そうそうこの男だ。老人でいかにも人の好さそうな男。私を不憫に思い名乗り出てくれたのだろう。
「まずこの包丁の所有者を教えてください」
「はい。えっと、料理長のダイナさんですね」
「そうですか。ダイナさん。その包丁、昨日だれか借りに来ませんでしたか?たとえばエミリアとか」
ダイナは一瞬動揺を見せたがすぐに平静を取り戻した。
「・・・いいえ。包丁はいつも調理場に置いているので、私は何も知りません」
ああ。やはりだめか。徹底的に調べればすぐにぼろがでるはずなのに。じゃあ次だ。
「次にその包丁を扱うのに必要な料理スキルのランクを教えてください」
調理道具を扱うには料理スキルが要求される。王宮の包丁は少なくともD~Bランクの料理スキルが必要だ。
「えっと、この包丁はCランクですね」
つまりその包丁はCランク以上の料理スキルを持つ人間しか使えないということだ。
「じゃあ私の料理スキルを見てください」
「はい。・・・え?Eランクです!」
鑑定士が驚いた様子でいった。城内がざわついている。
「え?じゃあフレンダ様には不可能ってこと?」
「ああ。スキルが足りないと包丁を持つだけで精一杯だ」
「じゃあ真犯人はエミリア様?」
するとエミリアが取り乱しながら私に言った。
「な?!嘘よ!だって以前料理対決したときには少なくともBランク以上の包丁を使っていたはずよ!じゃあないと私が料理で負けるわけないじゃない!」
たしかに普通ではそうだ。
「ごめんなさいエミリア。実はあの時はズルしてたの。私は「料理スキルを3上げる指輪」をつけていたのよ。つまり私の料理スキルは元々Eランクなの」
「っつ!でもマルベスを殺したときにもそれをつけてたかもしれないでしょ!」
「無理よ。今その指輪は私の机の引き出しに入っているわ。私は事件現場からすぐにこの王の間へ連れてこられたから自分の部屋に帰る暇なんてないわ」
「・・でも!・・」
エミリアが必至に言い訳を探している。
「・・そうだわ!それだとあなたが殺せないというだけで私が殺した証拠なんてないでしょ!そうよね!」
そうなんだよね。でもなんとか言いくるめるしかない。
「この王宮内で料理スキルがB以上かつ貴族のマルベスを深夜に呼び出せる人物なんてそうそういないとおもうけど」
「うるさいわね!だからって私とは限らないでしょ!」
「そういえば一番初めに駆けつけてきたメイドのバレッタ。どうしてあんな時間に食事場の外にいたのかしら。もしかしてエミリアに命令されて食事場を見張っていたとか」
「知らないわ!たまたまそこにいただけでしょ!」
「昨日私に飲ませた睡眠薬入りの紅茶、もう処分した?それにマルベスを刺したときに着ていた返り血の着いた服も。エミリアの部屋を調べたら証拠はでてきそうね?それとも料理長のダイナとメイドのバレッタを拷問してもらおうかしら。それでもいい?」
「っつ!・・・」
エミリアは私を睨みつけながら黙ってしまった。まあ証拠はそのうち見つかるだろう。ひとまず処刑は乗り切ったかな。黙って聞いていたお父様が口を開いた。
「エミリア・・・。大臣は料理長のダイナとメイドのバレッタから事情を聞け。それとメイドはエミリアの部屋に不審なものがないか調べろ。そしてフレンダの拘束を解け」
そして私の拘束は解かれた。ふー。ひとまず安心だ。しばらくしてエミリアの部屋から血のついたドレスが見つかった。ベットの下に隠していたらしい。エミリアもまさか自分がここまで追いつめられるとは思ってなかったのだろう。
料理長のダイナとメイドのバレッタもエミリアとの関与を認めた。エミリアがこれからどうなるのかはお父様次第だろう。たいして興味はない。
「ふーー。やった。乗り切った。でもここからどうなるんだ、いたっ!」
突然ひどい頭痛に襲われた。やばい・・意識が・・・
「・・・いたっ!ここは?」
元の世界に戻ってこれたのか?そういえばこのゲームの世界に来る前は何してたんだっけ?私は今制服で路地裏を歩いているらしい。
「ていうか冷た!」
私は雨が降っているというのに傘もささずに歩いていたらしい。もー絶対変な目で見られてたよ。ふと横を見るとガラスに映った私の姿が見えた。
「もうびしょ濡れじゃん。・・ってあれ?私の顔ちがくない?!え?!うそ!」
私はスマホを取り出してカメラで自分の顔を確認する。そこに映っていたのは全くの別人だった。
「だれこの人?もしかしてまた?・・いたっ!」
頭痛がしたと思ったらこれまでの記憶が蘇ってきた。
「そうだ昨日私は・・・人を殺したんだった」
私には付き合っている男がいた。本当に愛していた。でも彼は私の事など愛してはいなかったのだ。彼には別に本命の女性がいて私はただのスペアだった。
そして昨日自宅で口論になってそのまま・・。
それで私は願ったのだ。このままでは捕まってしまう。誰でもいいから助けて!その後頭痛がしてそのまま意識を失ったんだ。
「・・っ!その後、私の体にはフレンダが入ってきて・・」
私たちは入れ替わったのだ。そして私と入れ替わったフレンダは目の前の死体を見てこう言った。
「わたしじゃない!わたしじゃ!・・」
残念だけどたしかに殺したのはフレンダではないが、犯人は自分なのだ。
その後死体をどうにかしようとしたフレンダは家に魔法で火をつけ、魔法で顔を変えてあてもなくさまよっていたというわけだ。
「まあでも結果的にはお互い助かったからいいよね」
私はにやりと笑った。
「もしかして魔法を使えたりして。・・・鑑定」
試しに自分を鑑定してみると、目の前にステータス画面のようなものが出てきた。
「佐藤 茉莉 さとう まり 16歳 学生 スキルなし 今までに殺した人数 1人」
「今までに殺した人数って。ふふっ。・・そうだ!この鑑定を使って探偵になろう!」
こうして一人の女子高生が新たな人生を歩み始めた。
評価してもらったら嬉しいです