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迷宮編

よろぴこ

呪文譜(スクロール)が魔力を燃やして消え去った。

手にはもはや只の紙くずだけが残った。

いつもなら大切に仕舞うその紙くずを、乱雑に投げ捨てた。


目の前には燃え尽きた猿の魔物達。

その死体は焼け爛れてまともな形を留めてはいなかった。

これでは死体から素材や持ち物を持ち帰る事さえ出来ないだろう。


魔物の死体には最早興味はなかった。

無視して横を通りすぎる。


「…」


暫く歩いて、下へと降る階段に着いた。

昼間と違って、心の騒がしさは生まれず生温い空気の流れを頬で感じた。


蟲毒の地獄が釜口を開けて佇む。

冷めて歪んだ心が思考を頭から弾き出した。

一歩、一歩と階段に近づいていく。

階下の暗闇がその飲み込む冷たさで心から芯に残った熱を吸い取った。


一歩、階段に足を踏み込んで、止まった。

何か、音---?





その瞬間、足元が崩れ落ちた。

音に気付いた時には崩壊が足元に迫っていた。

波は矢もかくやという速さで足元を掬い、自分という存在には目もくれず過ぎ去っていった。


頭が最大限の警戒をしき、心が沸騰しようとして歪んだ壁に阻まれた。

足が宙を掻くーーー


「くそっーー」

咄嗟に出たのは小さい悪態だけだった。

すぐさま体は暗闇に放り込まれて、自由落下を余儀なくされた。


何が、何が起きて。

ーーいや、それよりも、どうする!


下は暗闇で距離は測れない。

そもそも、着地しようにもどこに、いつ。

全てが訳が分からない、分かれない。


視界全てが闇に覆われて直ぐに、劈く怪音が耳を鋭く突いた。


ケエェェェェェェェエェーーーーー!

鳴き声と空気を割く音ーー


抜刀。体は思考操作を放った。


エエエェエエエェェエェェエェェェーーーー


こちらに来る。

タイミングを計る。


                                    エエエエエエェェーーー


                       エエエエエエエーーー




             エエエエーーーー



声が少し長く聞こえる。視界の端に明るく火花が散ったのを見た。




               「ケエエエェエェェアアアアア!!!!」



来た!

右やや後ろ、声の方に剣を合わせるーーー


瞬間、自分を待ち受けたのは怪鳥の凶悪な嘴ではなく、

身を遍く焼く、炎だった。


「ギエアアアァァァァァアァァァア!!!」


身を焼き爛して、炎は直ぐに消え去った。

炎は手を焼き、腕を焼き、顔の半分を焼き、身体を焼いて沸騰させた。

焔いて冷えた皮膚がギチリと固まる。


正気が炙られて、逃げるように口から悲鳴が飛び出した。

痛い! 痛い!

「ガアァァァァアアアァァアァ!!!」


痛みで蒸発する思考とは裏腹にどこかにある余力が感覚を感じ取った。

耳の端に届く咆哮、怪音、絶叫。

そして最早反響する音は固く、自分が間もなく地面に激突させる事を脳裏に浮かばせた。


炙られて泡になった思考が忽然と冷えて活動しだす。

だが正気を戻した思考に、身体は一歩遅れて平静を取り戻し始めた。

落下し始めて幾十秒か。

最早生身の人間が御せる世界ではない。


混乱。

身体が冷静などと言い出す前にーー


衝撃。

何か冷たい物に触れた。


冷たい物は柔らかかった。

だが落下速度は変わらない。

身体は冷たい何かを割きつつそのまま落下を続けた。


落下する体と冷たい物が擦れた。

皮膚の表面が熱い。






ーーーーやがて体は冷たい何かに重力からの負債を預けたのか、動きを止めた。

ぴくぴく

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