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ときめきざかりの妻たちへ  作者: まんまるムーン
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 朋美は久しぶりに実家のある駅に降り立った。微妙に近く、微妙に遠いせいか、気が向いたらいつでも行ける距離というのは逆に行くことが少なくなってしまう。


―ここは変わらないわね…。


 昔と同じ風景に安心した。


 駅の近くのケーキ屋は、よく学校帰りに4人で訪れた。


 イートインスペースでギャアギャア騒ぎながら、よくケーキを食べたものだ。今考えると、うるさい女子高生がしょっちゅう来て、店の人はさぞかし迷惑だっただろう…。


 思い出に耽っていると、朋美の前に一台の車が止まった。


「朋美ちゃん! 帰って来たの?」


 慶介君だった。


 朋美が幼い頃からずっと慕ってきた二つ上の葛城慶介。


 朋美の朋美の初恋の相手であり、絵梨の元彼氏だった人。


 慶介君の事を想うと、ずっと心が痛かった。


 会うのもこわかったくらいだった。


― 日にち薬って、本当なのね…。


 朋美は慶介と対面しても、心に何も波立つものが無いのを感じていた。


「慶介君! 久しぶり! こっちに戻ってたの?」


「あぁ、何年か前からこっちに拠点移して仕事してるんだ。」


「そうだったんだぁ~!」


 朋美は慶介の車で沙也加の家まで送ってもらう事になった。






「…慶介君も、もう二人の子供のパパなのね。早いなぁ…。でもまさかこっちに戻って来てるなんて思わなかった。」


「弁護士試験に受かった後は、ずっと向こうの事務所で働いていたんだけど、独立しようって決めた時、向こうはなんせ弁護士の人数多いだろ? だから競争が激しくて大変なんだよ。で、地方に移住しようと思った時、やっぱり土地勘のあるとこの方がいいと思ってこっちに決めたって訳なんだ。子育てもしやすいしね。」


「そっか~。なんか…凄いね! ちゃんと大人してるんだね。」

朋美はしみじみと言った。


「朋美ちゃんだって、ちゃんと大人してるじゃない!」


「私は…全然よ…。仕事は有難い事に順調だけど…離婚するしね、ハハハ…。」


「えっ! そうなのっ? …ごめん…。」

慶介はとっさに謝った。


「いいのよ~! 慶介君が謝ることじゃないでしょ!」

朋美は笑った。


「あのさ…俺…ずっと朋美ちゃんに謝りたかったんだ…。」

慶介は呟いた。


「俺…全然気づかなくって…朋美ちゃんがずっと俺の事想っていてくれたこと…。そして絵梨ちゃんの事で朋美ちゃんと絵梨ちゃんまで仲たがいさせてしまって…。ほんとに…ごめんな…。」


「そんな昔の事…いいのよ!」


「俺さ…絵梨ちゃんと付き合って無いんだ…。」


「え?」


「あの時、しばらく絵梨ちゃんはまともな状態じゃなくて、俺、ずっとそばにいたんだけど…結局フラれた。」


「…そうだったの? そんな事…何も聞いてない。」


「絵梨ちゃんもきっと俺の事好きでいてくれたんだと思う。だから俺…何度も諦めずに言ったよ…でも結局拒絶された。あの子は…俺より朋美ちゃんの方が好きなんだって…言ってた…。」

慶介は朋美に微笑んだ。


「…知らなかった。」

朋美はポツリと呟いた。そして窓の外をボーっと眺めた。







「ここでいいの?」

慶介は朋美に聞いた。


 そこは沙也加の家にはまだ少し距離がある川沿いの道だった。


「うん。昔を懐かしみながら歩いてみたいから。」


「そっか。今度時間ある時、うちにも遊びに来いよ! 嫁さんと子供たち紹介するからさ!」

慶介はクシャっと笑った。


「そうね! 妹として、兄嫁をチェックしないとねっ!」

朋美は上目遣いで言った。


「おいおい、お手柔らかに頼むよ!」

慶介は笑った。


 朋美が車を降りると、慶介は窓を開けて朋美に手を振った。


 朋美も笑顔で慶介に手を振った。そして慶介は去って行った。


―慶介君…昔のままの慶介君だ! フフフ


 朋美は心が温かくなった。









 朋美は川沿いの道を歩いた。


 ここに住んでいた頃、いつも通っていた道だった。




 “ちょっと聞いて! モッコたらさ、鼻水が止まらないって、おっきなティッシュケースを丸ごとごと持ってきてんのよ!”


 沙也加が朋美と絵梨に言った。



 “いいでしょ! 鼻垂らしてるよりマシじゃない!”


 モッコは沙也加にムキになって言った。



 “そうよ! 身だしなみは大事だもん! …でも普通はポケットティッシュだよね…。


 絵梨は一応モッコを庇おうとしてみた…。



 “寒くなってきたからね~。そりゃ鼻水もでるわ…。あぁ…なんだか寒気がしてきた…。あのさ、みんなでいつものとこ行かない?”


 朋美は寒さで強張る顔をクシャクシャにしながらみんなに笑いかけた。



 “賛成!”


 “行く!”


 “私もそれ思ってた!”


 “そろそろクリスマスブレンドのアップルティーが出る頃よね~!”


 “私はモンブラン食べる!”


 “あんたはスイートポテトも食べるでしょ!”


 “私はマロンパフェにしようかなぁ~。”


 “寒っ! 絶対、それ風邪ひくから!”


 箸が転がっても可笑しい女子高生たちは、夕暮れの帰り道を楽しそうに歩いていた。







 

 フフフ…


 朋美が思い出に浸っていると、向こうによく知っている姿を見かけた。


―あれは…


 その女性はベンチに座って遠くを眺めていた。


―ただ座っているだけなのに…憎たらしいくらい綺麗ね…


 朋美はフッと笑った。



「昔からかくれんぼは得意じゃなかったよね!」

朋美はそう言って隣に座った。


「朋美!」

絵梨は驚いて振り向いた。





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