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ときめきざかりの妻たちへ  作者: まんまるムーン
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 朋美は沙也加との約束の時間より少し早くホテルに着いた。


 沙也加と会った後、横田と彼のスタッフたちとの打ち合わせをここでする予定だった。


 朋美はロビーのソファに座って関係資料に目を通していた。


「朋美!」

沙也加は時間通りに表れた。


「久しぶりね!」

朋美は笑顔を向けた。


「…絵梨…」

ふと見ると、沙也加の後ろに絵梨が立っていた。


「…あ…あの…」

絵梨は明らかに動揺していた。


「ここじゃなんだから、喫茶店に行かない?」

すかさず沙也加は言った。


 そして三人でホテル内の喫茶に向かった。


 沙也加は店内を見して、少し奥まって視線を遮られそうな席を見つけた。


「あそこにしましょ!」

三人は奥の席へ向かった。


 朋美が席に着くや否や、絵梨は朋美の前へ歩み出て、床にひざまずいた。


「ちょっと! 何してるの?」

朋美は絵梨の突然の行動に慌てた。


 水を持って来たウェイトレスは三人のただならぬ様子に一瞬驚き、邪魔しないよう、素早く水とおしぼりを置き、一礼して去って行った。


 朋美は席を立って絵梨を立ち上がらせようとした。


 しかし絵梨は頑として動こうとしなかった。


 朋美は沙也加の方を振り返った。


 沙也加は何も言わず目を瞑って首を振った。



「…朋美…ごめんなさい!」

絵梨は土下座したまま朋美に言った。


「何? 何で絵梨が私に謝ってるの?」

朋美は全く理解できない。


 絵梨の肩は小刻みに震えていた。


 泣いているようだった。


「許してなんて言わない。私の事…軽蔑して!」

絵梨は顔を上げて朋美を見た。


 絵梨の顔は真っ青で、今にも倒れそうなほど弱々しく見えた。


 そんな絵梨が目にいっぱい涙を溜めて朋美を見つめている。


「いったいどうしたの?」

朋美は絵梨に聞いた。




「…私のお腹の中に…青山さんの子供がいるの…」



 絵梨は震えながら朋美に伝えた。




 朋美は目の前が真っ白になった。


 突然後ろから頭を殴られたような衝撃を受けた。


「ごめんなさい! 謝って許してもらえることじゃないのは分かってる。本当にごめんなさい!」

絵梨は何度も言った。


 しかし朋美には絵梨の声が全く耳に入ってこなかった。


「…朋美。」

沙也加が朋美を抱きしめた。


 朋美はされるがままに茫然とその場に立ち尽くした。





 絵梨は妊娠の事を和也に伝えていないし伝えるつもりも無い。


 既に和也とは別れた。


 そして今後も子供の事を伝えるつもりは無いし、認知も希望していない。


 子供は絵梨が一人で育てる。


 もう和也と朋美の前に表れない。


 今住んでいるマンションも引き払う。


 経済的な事も一切要求しない。





 絵梨はずっと泣いていて、とても話せる状態では無かったので、沙也加が絵梨の考えを朋美に話した。


 朋美は沙也加の話をじっと聞いていた。


 自分の事なのに、何故か誰かが遠くで世間話でもしているような感じがしていた。


 話し終えると、絵梨が消え入りそうな声で呟いた。


「だから…産ませて欲しいの。許されない事は分かってる…。私の事はいくらでも恨んで欲しい。生涯…罪を背負っていくわ…。だけど…この年になって授かったこの命は…天涯孤独の私にとって、神様からのプレゼントだと…そう思うの。」


 朋美は絵梨の顔を見た。


 美しいなと思った。


 子供を授かった女は…こんなにも神々しくなるのね…。


 そう思うと、心の底から絵梨に対して憎しみが湧いてきた。


 絵梨と和也が愛し合っている姿が頭の中に無遠慮に入り込んでくる。


 朋美は絵梨をぶち回してやりたい衝動にかられた。


 無意識に手をギュっと握りしめた。


 朋美は大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。


 そして目を瞑って妄想を振り払うように頭を振った。


 朋美は立ち上がるとジャケットとカバンを手に取り、その場を立ち去ろうとした。


「…朋美…」

沙也加が声をかけると、朋美は立ち止まった。


 そして振り返り絵梨を睨んだ。


「…あなたは…いつも私の大事な物ばかり奪っていくのね…」


 そう言い残すと朋美は去って行った。




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