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―ったくココのヤツ…俺をバカにしやがって!
浩太はモッコが自分の事を見下していると思い、怒りがふつふつと湧き出た。
―あなたの一方的な勘違いじゃないの…って、何言ってんだ! あの時、ユナ先生はハッキリと言った。次、付き合うならこの俺だって!
浩太はユナの事を思い出した。すると心が温かくなって、妻へ対する怒りも少し治まってきた。
駅に着くと、そのままユナの住む弥生が丘駅に向かった。
勢い余って出てきてしまったものの、まだ正式にユナと付き合っている訳でもないし、家に押しかけるのも失礼だ。
とりあえず、今晩泊まるところを確保しなくてはいけない。
浩太は駅前のビジネスホテルにチェックインした。
荷物を部屋に置くと、浩太はユナのマンションまで歩いて行った。
ユナがいるとは思ってもいなかったが、ユナの存在を感じたかった。
その時、後ろからユナの声が聞こえた。
「ユナ先生…」
浩太はこんな偶然に出会えるものなのかと、ユナと自分のただならぬ縁を感じて振り返った。
そこには嬉しそうに笑っているユナがいた。
その瞬間、浩太の顔は青ざめた。
ユナの横にはユナと同年代の背の高いイケメンがいたのだ。
―誰だ…コイツは…。元カレじゃないぞ…。
「あ! パパさん!」
ユナは浩太に気付いて駆け寄ってきた。
「…や…やあ…。」
浩太はぎこちなく手を挙げて挨拶した。
「どうしたんですか? こんなとこで?」
ユナはニコニコして聞いた。
「…いや…その…」
―ユナ先生…俺と付き合うって…そう言ったんじゃなかったの? その男は誰なんだ?
浩太は答えに困った。
「…ユナ! 誰?」
イケメンはユナ先生に聞いた。
「あぁ、蒼汰兄ちゃん、ほら、こないだ話したでしょ? 私の教え子たちのパパさんだよ! すっごくお世話になったんだよ! アイツの件で。」
ユナはイケメンにそう話した。
―…兄ちゃん? なんだぁ~! 焦ったぁ~! ユナ先生のお兄さんかぁ~。てっきり新しい彼氏かと思った…。って…お兄さんだけど…俺よりずっと年下だよな…。なんか気まずい…。
「あぁ! ユナから聞きました。ユナを助けて下さって、本当にありがとうございました!」
ユナの兄らしきイケメンは浩太に深々と頭を下げた。
―今時の若い子なのに、さすがユナ先生のお兄さんだけあって礼儀正しいな…。でももし俺がユナ先生と結婚することにでもなったら…この人を兄と呼ぶのは…う~ん…抵抗あるな…。
浩太は捕らぬ狸の皮算用ばかりしていた。
「パパさん! 本当にいろいろお世話になりました。私、パパさんのおかげで立ち直れました!」
ユナは嬉しそうにお礼を言った。
「…い…いや、僕なんて大したことしてないですよ…。」
浩太は照れて頭を掻いた。
「大したことですよ~! おかげで私、目が覚めたんだから! ねっ! 蒼汰兄ちゃん!」
ユナは蒼汰に向かって熱い視線を送った。浩太はそのユナの視線を見逃さなかった。
そしてユナと蒼汰にとてつもない違和感を感じた。
「本当に何とお礼を言っていいか…。これからは俺がユナを守っていこうと思ってます。」
蒼汰は浩太に宣言した。
「…え? どういう事?」
浩太は混乱した。
―お兄ちゃん…でしょ? 家族として守るって事??? なんかその言い方、気持ち悪いな…。
「パパさん! 私…北海道に戻ろうと思ってるんです。」
ユナ先生は言った。
「え! ダンサーになる夢は? 諦めちゃうの?」
浩太は焦った。
―ユナ先生が北海道に帰る? しかもそんなに嬉しそうに! 俺とのことは…何だったの?
浩太が唖然としていると、二人は肘でつつきあって、どちらが言うか迷っているようだった。
「私…この人と結婚することにしたんです!」
ユナは照れながら言った。
「はぁ? この方、お兄ちゃんじゃなかったの???」
浩太は開いた口が塞がらなかった。
「俺、ユナの幼馴染で、小さい頃から妹みたいにコイツの事可愛がってたんですよ…。本当はユナの事…ずっと好きで…でもこいつ、俺の事…兄としか思ってなくて…」
蒼汰は顔を赤らめた。
「だってぇ~! 物心ついた頃からずっと一緒だったんだよ! そりゃお兄ちゃんみたいに思うの当たり前でしょ! それに…私の事、思っててくれてたんだったら言ってくれれば良かったのに! そんなの私が分かる訳ないじゃん!」
ユナは照れて蒼汰の胸を軽く叩いた。
「パパさん、本当にありがとうございました! 俺…ユナから話を聞いて気が気じゃなかった。ユナに夢を諦めて欲しくなくて送り出したけど、今回の事で、一番大事な物が分かりました。」
蒼汰は真面目な顔で言った。
横にいるユナは蒼汰を見つめて顔を赤らめ涙ぐんでいる。
「…そ…そ…そうだった…の…! いやぁ~めでたい! 僕もね、ユナ先生みたいな可愛いい子が一人暮らしって心配だったんだよ! いや~本当に良かった! 二人とも、お幸せにね!」
心にもない事が口をついて出てくる。
―全て…俺の…勘違いって事だったのか…?
ユナと蒼汰は浩太に深々とお辞儀して、一緒にマンションの中に入っていった。
二人の後姿は、絵にかいたような幸せな光景だった。
浩太はその場に立ちすくんだ。
涙が止めどなく流れてきた。
人生で初めての本当の失恋だった…。




