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(アンティークマーケットの件なんですけど、やっぱり二人で行くのはいけないと思って…。沙也加にも誤解されるような行動はいけないと思うの。だから…行くのは止めましょう。)
モッコは輝也宛てのメッセージの送信ボタンを押そうとした。
―押せない…。
モッコは目をギュっと瞑った。
すると、ショッピングモールで過ごした時間や、先日のモッコの家でも輝也からの告白めいた言葉が頭の中を駆け巡った。
―ダメよ…。
モッコは思い切って送信ボタンを押した。そしてメッセージは輝也の元に送られた。
送信完了の文字を見て涙が浮かんできた。
モッコは心の中のいろんな気持ちに押しつぶされそうになっていた。
それは輝也に対する淡い恋心もあったが、浩太から突然宣告された離婚宣言の事でもあった。
―もしかしてあの人は…私の気持ちが他の男性にいっている事に気づいたのかしら…。
モッコは罪悪感を感じた。
その時、モッコのスマホが鳴った。
画面に輝也の名前があった。
「…もしもし」
「モッコさん! どういう事? 俺…めちゃくちゃ楽しみにしてるのに…」
モッコは輝也の言葉にキュンとした。しかしすぐに沙也加の事が頭に浮かんだ。
「…よく考えたんだけど…やっぱりこういうのはいけないわ…。」
「だったらさ、沙也加も連れて行けばいい? それでモッコさんの気が済むんだったらそうする!」
「…それは…」
モッコは何も言えなかった。
輝也(モッコさんから教えてもらったんだけど、今週末、令成記念公園でアンティークマーケットがあるらしいんだ。一緒に行かない?)
沙也加(は? 何であんたがモッコからの情報知ってんのよ?)
輝也(前にも言っただろ! 偶然ショッピングモールで会ったって。)
沙也加(あぁ。で、いつ?)
輝也(今週末だよ! 土曜!)
沙也加(…考えとく。)
―よし! 沙也加にはちゃんと言ったぞ!
輝也は今度、モッコにメッセージを送った。
輝也(沙也加には言いました。だから土曜、一緒に行きます!)
―沙也加が来るかどうかはまだ分からないけど、伝えたことは確かだからいいよな…。
モッコ(沙也加も行くのね! だったら了解です!)
モッコは輝也からのメッセージを見て安心した。
夫からの離婚宣言で沼の淵に落とされたような気持ちが少し救い上げられたような気がしてきた。
モッコの心の中を輝也の笑顔が暖かく照らしていた。
沙也加は休日というのに朝早く目が覚めてしまったので、しょうがなくキッチンへ行きコーヒーを入れた。
ソファに座りテレビを付けた。たまたま映った番組では海外の旅の紹介をしていた。
フランスの美しい田舎町の映像が流れていた。
レポーターは収穫したばかりの林檎で作ったアップルパイを美味しそうに食べていた。
―私もあんな所でゆっくりしたいな…。
沙也加はボーっとテレビを眺めた。
その時、スマホにメッセージが表示された。
絵梨からだった。
「今日、行けそう?」
輝也が起きてきて沙也加に声をかけた。
「何が?」
沙也加はスマホを見ながら言った。
「アンティークマーケットだよ! モッコさんと行く約束してただろ!」
「あぁ…あれ、今日だった?」
沙也加は輝也の話を半分に聞き、ずっとスマホをいじった。
「今日は俺が朝食作るからさ、食べ終わったら準備しよう!」
「今日はやけにサービスいいのね?」
「そ、そんな事ないよ…。」
沙也加が言うと、輝也は妙に焦って言い訳した。
「私、午前中行くとこあるから、あんたモッコと行ってきて! 間に合いそうだったら後で合流するから。」
沙也加はスマホに入力しながら言った。
「あ…そうなの?」
輝也は渡りに船とばかりに内心ほくそ笑んだ。
(一人で行こうと思ったんだけど…やっぱり心細くて…)
絵梨から沙也加にメッセージが入っていた。
沙也加は絵梨の付き添いをしようと思った。
輝也が作った朝食を食べ、簡単に身支度をした。
「純~! あんた今日の予定どうだったっけ~?」
沙也加は純の部屋へ行き、寝ている息子に声をかけた。
「…午後から塾だよ。」
純は布団にくるまったまま答えた。
「じゃ、パパからお昼代貰っときなさいね! ママ、用事で出かけるから!」
「は~い。」
沙也加はクローゼットから上着とバッグを取ると、キッチンで片付けをしている夫の元へ行った。
「私、間に合うかどうか分かんないからさ、もし行けなかったらごめんって、モッコに言っといて!」
「オッケ~!」
輝也は浮かれて言った。
―…キモ…。
沙也加は冷めた目で夫を見た。そして絵梨の元へ向かった。




