73
「いったいどうしたの? デザート食べないなんてモッコらしくない。」
朋美はデザートプレートに乗ったフルーツをフォークで刺しながらモッコに言った。
二人は近くのケーキ屋に併設されてあるカフェで待ち合わせた。
「…それがさ…ハァ…」
モッコはさっきから溜息ばかりついている。
「沙也加のご主人の事でしょ? あれからどうなったの?」
朋美は聞いた。
「輝也さんにはちゃんと伝えるつもり。二人では会わないって…。」
モッコは溜息交じりに答えた。
朋美はモッコのその姿に、彼女の考えている事はものすごく分かりやすいなと思った。
「他にも何かありそうだね…。」
朋美は言った。
「…実は…」
「うん。」
「主人がね…」
「うん。」
「…離婚したいって…。」
「ハァ?」
「あの人、私と離婚したいって言ってるのよ!」
モッコはテーブルを叩いた。
「何でそう言う事になっちゃうわけ? モッコみたいないい奥さんいないでしょ!」
朋美は言った。
「…そんなこと…ないけど…」
モッコは肩を落とした。
―全く私の周りの男たちは何考えてんのかしら…
朋美は呆れてコーヒーを飲んだ。」
「理由は何なの?」
朋美は聞いた。
モッコはうなだれたまま首を横に振った。
「浮気でもしてるのかしら….。」
朋美が呟いた。
「…それは無いわよ。あの人がそんな事出来るわけないもの…。」
モッコは言った。
「分かんないわよ! 世の中には、えっ、この人が? っていう人だって、浮気したりするんだから…。」
朋美の言葉にモッコは自分の事を言われている気がしてドキっとした。
「そ、そうかもしれないけど…あの人に限ってそんな事…。」
モッコは慌てて言った。
「どうするの? まさか離婚に応じるわけないよね?」
「そりゃあもちろん…。子供たちだっているっていうのに…。」
「そうよね…。」
朋美は心配そうにモッコを見つめた。
「とりあえず、波風起こさないようにやり過ごしてみるわ。そのうちあの人だって我に返ると思う。」
「そっか。」
朋美はモッコに微笑んだ。
「朋美は? 何かあったんじゃない? ちょっと疲れてるみたいな気がする。」
―幼馴染ってのはするどいわね…
朋美は驚いた。
「実はさ、お義母さんが、孫の顔が見たくて仕方ないみたいでさ。悪気は無いんだろうけど、圧をかけてくるのよ。そのせいもあって、ちょっとストレス溜まってる。」
朋美は言った。
「朋美は欲しくないの?」
モッコは聞いた。
「そう言う訳ではないんだけどね…。何なんだろ…。私…やっぱり冷たいのかな…。こんな私じゃとてもじゃないけどモッコみたいな良い母親にはなれそうにないわ。」
朋美は苦笑いした。
「難しいね…。女の一生って、ほんと難しいよね。」
モッコは溜息をついた。
「一生、正解を出せそうにないわ…。」
朋美も溜息をついた。




