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ときめきざかりの妻たちへ  作者: まんまるムーン
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 沙也加の家は彼女が幼い頃、決して裕福とは言えなかった。


 父はたいして大きくもない会社で働いていて、母はパートに行っていた。


 沙也加は近所の小学校へ通っていて、中学も公立に行くものだと思っていた。


 沙也加が小学校高学年になった頃、パソコンオタクだった父はホームページ制作の副業を始めた。


 当時、まだそんなにネットは普及していなくて、他に競合もあまりいなかった時期だったので、それは意外と儲かってしまった。


 そして年末調整の時に会社に副業がバレてしまい、父の会社は副業を認めていなかった為、父は会社を辞めるハメになってしまった。


 母はそんな父に怒り狂い、危うく離婚に危機にまで及んでしまった。


 沙也加の為に離婚を踏みとどまった母はパートを辞め、正社員として働けるところを探し、なんとか就職してフルタイムで働き始めた。



 “沙也加は可愛いんだから、その美貌を生かして出来る限り条件のいい人と結婚するのよ! お母さんみたいになったらダメよ!”



 沙也加の母はことあるごとに、娘にそう言い聞かせた。



 そんな中、副業から始めた父の仕事は意外にもうまく回るようになった。


 ホームページ制作のほかにも、いろんなサービスを始め、社員も増えて会社は大きくなった。


 家計に余裕が出来てくると、母は沙也加に地元でも有名なお嬢様学校の受験を勧めてきた。



 “いい、沙也加! いい結婚をする人たちは、最初からその場所にいるの。私たちのいる場所は当たり外れが分からなくて、言ってみると宝くじ売り場のような物なのよ。だからあなたは初めから当たりくじがたくさんある場所にいなきゃいけない! ”



 沙也加は努力の甲斐あって、見事受験に受かることが出来た。


 入学してみると、周りはほとんど内部生ばかりで、外部性はクラスの5分の1にも満たないほどの少数だった。


 内部生と外部生とは歴然の差があった。


 一長一短では身につけられない空気を漂よわせていた。


 そして内部生は明らかに外部生を見下して、自分たちの所に近寄らせないオーラを放っていた。




 入学してすぐ、沙也加はこの学校に来たことを後悔し始めた。


 友達だって出来そうにないと思った。


 小学校が懐かしく思えた。


 いつも一緒にいたあの子たちと同じ公立中学へ行けばよかったと悔やんだ。


 そんな時、新入生代表挨拶で壇上に立つ朋美を始めて見た。


 全生徒の前で堂々と挨拶をする朋美は美しくてカッコよかった。


 朋美はまさに自分がそうなりたいと思っていた存在で、それが今自分の目の前にいる、と沙也加は思った。


 そしてそれは、自分がどれほど努力しても到底到達できない場所にいるのも分かっていた。


 本当にこんな子いるんだ…と悲しくなった。





 沙也加は教室で独りぼっちだった。


 外部から入ってきた数人の子たちは、大人しすぎて向こうが自分を避けているように感じたし、内部生は外部の子を仲間にする気などさらさら無かった。


 あの新入生代表の子も同じクラスにいた。


 その子もその子の周りにいる子も、公立とは全く違う雰囲気のこの学校の中においても、さらにキラキラしたオーラを放っている。


 どうせ自分とは無縁の人たちだと思った。


 沙也加は窓の外を眺めながら、溜息しか出なかった。


 そんな時、最初に声をかけてくれたのは、なんとあの朋美だった。



「そのキャラクター好きなの? 実は私もなの!」

朋美に声をかけられた。


 沙也加は少年漫画のあるキャラクターが大好きで、小学校の頃はランドセルにたくさんそのキャラクターグッズを付けていた。


 しかしお嬢様学校でそれは流石に浮いてしまいそうだったので、小さなキーホルダーをペンケースに付けるだけにとどめていた。


「そうなの? …なんか…意外…」

沙也加は動揺した。


―この人…私の事からかってんのかな? 持ち上げてクラスのイジメの対象にでもしようとでも思ってんの?


 沙也加は必要以上に疑心暗鬼になっていた。


「私、この学校でこの漫画を好きな人、初めて出会ったの! 良かったら一緒にお昼食べない? 漫画談義しようよ!」

朋美はキラキラした笑顔で沙也加を誘った。


 沙也加はその笑顔に嘘は無いと思った。


 そして朋美は沙也加に幼馴染のモッコと絵梨を紹介してくれた。


 4人はすぐに仲良くなった。


 沙也加は本当に朋美の事が大好きだった。


 だから…朋美の事は全てマネしたくなったし、自分も朋美みたいになりたいと思ったし…憧れすぎて…羨ましくて…妬ましくて…そんな自分がどんどん嫌になっていった。



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