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レッスン中、他の保護者は教室の後ろに置いてある保護者用の椅子に座って待っている者もいれば、レッスンが終わるまで近くのカフェに行ったり、その間に買い物を済ます者もいた。
浩太は教室内の椅子には座らず、立ったまま外からユナの事をずっと見ていた。
楽しそうに踊ってはいるが、やっぱり顔色が悪い。
浩太は少し考え、その場から去った。
「先生、さようなら~!」
「は~い! また来週ね~!」
教室から続々と子供たちが出てきた。
「あれ? パパは?」
リクとルイは辺りを見回したが浩太の姿は無かった。
教室の生徒がほとんど帰った所で、やっと浩太の姿が見えた。
浩太は大きな袋を抱えて小走りにやって来た。
「す、すいません…迎えが遅くなっちゃって…。」
浩太は息を切らしながらユナに言った。
「いえ…全然大丈夫ですよ!」
ユナは笑顔で言った。
「パパ! 私、本屋に行きたい! 先に行ってていい?」
リクが言った。
「分かった。パパ、後で行くから。」
浩太が答えるや否や、子供たちは本屋に向かってすっ飛んでいった。
「…あの…これ…先生に…」
浩太は持っていた大きな袋をユナに渡した。
「え? 何ですか?」
ユナは少し驚いて中を覗いた。
袋の中にはビタミン剤や果物、スポーツドリンクなどがたくさん入っていた。
「…。」
ユナはじっと袋の中を見つめ続けた。
「ご、ごめん、お節介だったかな…。」
浩太は自分のした事を後悔した。
こんな若くて綺麗な人に自分みたいな冴えない中年が余計な物を持ってくるなんて…きっと気味悪がられたよな…。
浩太はいたたまれない気持ちになった。出来る事なら時を戻したいと思った。
「…何で…」
ユナは小さく言った。
浩太は拒絶の言葉が出てくるのだろうと覚悟した。
「何で…パパさんは…私の事が分かるの?」
―え?
「ほんとは、立ってるのも辛いくらいなの…。ご飯も食べられなくて…。」
ユナの大きな目はみるみるうちに潤んできた。そしてポタポタと大粒の涙がこぼれた。
「…ユナ先生…少し痩せたんじゃないですか?」
浩太がそう言うと、ユナは肩をひくつかせて泣いた。
浩太は今にも抱きしめてしまいそうな衝動に駆られた。その衝動を抑えるのに必死だった。
ユナは肩にかけていたタオルで涙を拭って浩太に微笑みかけた。
「あ~、やばい、やばい! うっかりパパさんにすがりつきそうになっちゃう!」
ユナは涙ぐんだ顔でクシャっと笑った。
―くっそ~! どんだけ可愛いんだよ!
浩太は心の中で悶絶した。




