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朋美は駅前のデパートの地下でいくつかお惣菜を買い、自宅へ戻った。
帰りに 横田が車で送ってくれると申し出があったが、それは丁重にお断りした。
―定職についていないにも関わらず、自家用車を乗り回しているなんて、ご実家はさぞかし裕福なんでしょうね…。
朋美は思った。
家に帰りつくと、和也はまだ帰っていなかった。
朋美は真っ暗なリビングへ入り、電気を付けた。
和也が帰ってから一緒に食べようと思い、お惣菜は冷蔵庫の中へ入れた。
コーヒーを入れ、サンルームへ行き、燭台に置いている大きな蝋燭に火をつけた。
朋美は籐のソファに座ってコーヒーを飲んだ。
窓の外を見ると大きな月が光を放っていた。
―今晩は満月か…。
怪しいほどの美しい光を放つ月に朋美は見とれた。
“じゃあ、じゃあさ、俺が定職に付けば、朋美さん俺と再婚してくれる? ”
ふと横田の少年のようなキラキラした瞳を思い出した。
プッ
朋美は思わず噴き出した。
―この年になって愛の告白を受けるだなんて…全く有り得ないわ…
その大きく長い指と、青白く細い指は、お互いの指と指とを絡ませ合い、そしてギュっと握りしめた。
絵梨は幾度となく体をのけぞらせた。
和也は顔を上げ、肩が上がるほど荒く呼吸した。
まだ少し濡れている絵梨の髪を撫で、覆い被さるようにキスをして、そのまま首筋に吸い付いた。
そしてまた激しく動き、その度に絵梨は喘いだ。
ソファの上に置いてあった和也のスマホの画面が何度か光った。
そして窓の外には恐ろしいほど美しい満月が、まるで二人を覗き込むかのように怪しい光を放っていた。
朋美(食事は外で済ませてくる?)21:39
朋美(夕食は冷蔵庫に入れてあるから、もしよかったらチンして食べてね! おやすみ)23:45
―仕事関係の急な飲み会でも入ったか…?
朋美は和也に二度メッセージを送ったが、既読が付くことは無かった。
仕事の忙しい和也にはよくある事なので朋美は全く気にせず先に眠った。
結局その日、和也は帰ってこなかった。
翌日6:00a.m.
横田は車できさらぎガーデンヒルズへ向かっていた。
駅に通じる道で事故があったらしく、そこを迂回しようと住宅街へ入った。
運転していると、前方に見たことのある男がいた。
―あれ? あの人…確か朋美さんの旦那じゃないか…。ってことは…朋美さん、このマンションに住んでるのかな…。
そう思った矢先、その男を追いかけるように小走りで女が出てきた。
―朋美さん? …いや、違う! あれは朋美さん友達だ!
絵梨はスマホを和也に手渡した。部屋に忘れていたのだ。
和也はそれを受け取ると絵梨の手を引っ張り、建物の陰に連れて行った。
―あれ…絵梨さんだよな…。
横田は気になり車をすこし前へやった。
すると和也と絵梨の姿が見えた。
二人は抱き合ってキスをしていた。
そして和也は小さく手を振り去って行った。
絵梨は和也の姿が見えなくなるとマンションの中へ入っていった。
―…マジ…かよ…。
横田は茫然とした。




