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「ちょっとパパ! 聞いてるの? 純がさぁ~! ねぇ、ちょっと! 何、無視してんのよ!」
高橋家では、早朝から沙也加のキンキン声が響き渡っていた。
「…るさいな…。」
夫の輝也は妻の沙也加に聞こえないように小声で呟いた。
が!
「誰がうるさいだってぇ?」
しっかり聞こえていた。
「なんだよ…朝くらい穏やかに過ごさせてくれよ!」
輝也はウンザリしながら言った。
「私だって穏やかな朝を迎えたいわよ! ったく自分だけ被害者みたいな言い方して! 純の事なのよ! あんたの息子の事でしょうが!」
沙也加の声はさらに大きくなった。
「何だよ、純がどうかしたのか?」
輝也は見ていたスマホをテーブルの上に置いた。
「純の部屋にこんな物を見つけたの!」
沙也加は純のスニーカーの入っていた箱をテーブルの上にドンと置いた。
「何だよそれ。」
輝也は面倒くさそうに言った。
「中、見てみなさいよ!」
沙也加は吐き捨てるように言った。
輝也はどうでもいいのにと思いながらも箱を開けてみた。すると中からおびただしい数の綺麗に折られた可愛い折り紙が入っていた。その折り紙は便せんやノートのような物で折ってあった。輝也はそれらを微笑ましそうに眺めた。
「何、笑ってんのよ!」
沙也加は輝也を睨み上げた。
「いいじゃないか! これ、女の子からの手紙だろ? 可愛いじゃないの!」
「冗談抜かしてんじゃないわよ、ボケェ! これから中学受験が控えてるってのに、こんなのもらって浮かれてるなんてどうしようもないでしょ!」
沙也加は怒りで震えていた。
―女の子に相手にされないよりよっぽどいいじゃないか…。むしろ喜んでやるべきだろ…。
輝也は理解の無い妻にウンザリした。
そこへ息子の純が眠たそうな目を擦りながら二人のいるリビングへやって来た。
「…ちょっと! 何でっ!」
テーブルの上に置かれた箱を見ると、純は血相を変えて箱を奪い取った。
「何、勝手に人の物見てんだよっ!」
順は顔を真っ赤にして怒りを露わにした。
「…純、あんたいい加減にしなさいよ! 親が自分の子供の物をチェックするのは当たり前でしょ! だいたいあんたね、今がどれだけ大事な時期かって、分かってんの? ママ、もう我慢の限界なんだからねっ!」
沙也加は純に向かって怒鳴り散らした。
あまりのキンキン声に、輝也は両手で耳を塞いだ。
純は箱を脇に抱えると、沙也加をギロリと睨んで一目散に自分の部屋へ戻っていった。
「ちょっと、純! ママの話、まだ終わってないのよ! 戻ってきなさいよ! 純!」
沙也加はさらに怒鳴り散らした。
「もういい加減にしろよ!」
純の部屋へ押し入ろうとする沙也加の腕を輝也が引っ張った。沙也加はその手を思いっきり振り払った。
「あなたがそんなだから純の成績がパッとしないんでしょ! あの子に女の子と手紙の交換している暇なんて無いのよ! 純が受験に失敗して、自分の二の舞になってもいいって言うの?」
沙也加が勢いにかまけてそう言うと、輝也は突然真顔になり、冷たい目で沙也加を睨んだ。その時、沙也加は初めて言い過ぎたと思った。しかしそれは遅かった。
輝也は食べかけの朝食を残したまま、無言で家を出て行った。輝也が家を出るのと同時に純も出て行った。沙也加は家に一人取り残された。
「あぁぁ!」
沙也加は床を思いっきり踏み鳴らして叫んだ。
トゥルルル…
その時、スマホが鳴った。画面を見ると
モッコ
と映し出されていた。