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「着きました。」
ユナの声に浩太は我に返った。
ユナのマンションは駅から少し遠かった。
暗がりを若い女の子一人で歩かせるなんて危ない。やはり一緒にきてあげて良かった、と浩太は思った。
ユナのマンションはこぢんまりとした綺麗なマンションだった。
「ここなんです。」
ユナが言った。
「…あ…あぁ…そうですか。」
浩太は名残惜しかったが、ここはさっと立ち去る方がカッコいいと思った。
「今日は息子のケータイ、ありがとうございました。では、おやすみなさい。」
浩太はそう言ってお辞儀した。
「あ! あの! じゃがいも要りませんか? 実家からたくさん送られてきて…」
ユナが言った。
「え? …いいの?」
浩太は大喜びでジャガイモを受け取る為にユナの部屋の前まで付いて行った。
「すぐ取って来るので、ちょっと待ってくださいね。」
ユナはそう言うと鍵を開けて中へ入っていった。
浩太はユナの心遣いが嬉しくて一人ほくそ笑んでいた。
「キャァァァァーーーーーーー!」
突然、ユナの叫び声がした。
浩太は不審者でもいたのかと思った。
一人暮らしの女性の部屋に勝手に上がり込むのは気が引けたが、ユナを助けなければと部屋の中に飛び込んだ。
「ユナ先生、大丈夫? どうかしたの?」
浩太は叫んだ。
目の前には震えているユナがいた。
そしてその先には、裸でベッドの中にいる男女の姿があった。
「瑛人…どうして?」
ユナはパニックになった。
「…おまえ…今日、アヤカちゃんちじゃなかったのかよ…」
ユナ先生の彼氏の瑛人という男は言った。
「アヤカは…体調崩して…。で、何で? 誰なのこの人!」
ユナは泣きながら叫んだ。
瑛人はハッと息を吐き捨てユナを睨んだ。そして無言で脱ぎ捨てられていた服と下着を女に渡すと、自分も手繰り寄せた服を着た。
「何で黙ってるの? 何とか言ってよ!」
ユナは半狂乱になって彼氏を叩いた。瑛人はユナの腕を掴んだ。
「何も言う事ねーよ。」
ユナは掴まれた手を振りほどいて、今度は女に襲い掛かった。
「あんた誰なのよ! 何で私の部屋で瑛人と寝てるのよ!」
ユナは女の髪を引っ張った。
「キャー、助けて瑛人!」
女は叫んだ。
「おまえいい加減にしろよ!」
瑛人はユナの両手を掴んでベッドに突き倒した。
「ちょっと君! いい加減にしないか!」
浩太は叫んだ。
「何だ…このオッサン?」
「君はクズだな。ユナ先生みたいな彼女がいるのに!」
浩太は握りしめた拳が震えた。
「おまえには関係ねーだろ。てか…おまえこそ何でユナの部屋に上がり込んでんだ? 通報するぞ!」
瑛人は今にも浩太に殴りかかりそうだった。
「出てって! 今すぐ出てって!」
ユナが叫んだ。
そして瑛人の私物をかき集めると、大きな袋に乱暴に入れた。
「もう二度と…私の前に顔出さないで!」
ユナはその袋を瑛人の胸に叩きつけた。
帰り道、浩太の頭の中はユナでいっぱいだった。
心配で堪らなかった。
しかし自分はどうしてやることも出来ない。
そんな自分が歯がゆかった。
慰めてあげたい。
ユナが喜ぶ事ならどんな事でもしてあげたい。
胸が痛んだ。
空には気味が悪いほど大きな満月が浮かんでいた。
月は何も言わず、じっとと浩太を見つめていた。




