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「ちょっと! あんたたち!」
モッコと輝也の座っているテーブル席の前に沙也加が腕組みして仁王立ちしていた。
「沙也加!」
モッコは驚いた。
「あ…そのっ…あのっ…モッコさんとは偶然ここで会って…」
輝也は慌てた。
「何、言い訳めいた事言ってんの? まるで不倫現場に遭遇したみたいじゃない!」
沙也加は眉間に皺を寄せて言った。
「そ…そんなんじゃないよ!」
輝也はますます慌てた。その様子を見て沙也加は大笑いした。
「あったりまえでしょ! まさかそんな事あるなんて思う訳無いじゃん! ねっ、モッコ!」
沙也加は笑いながらモッコにも言った。
「そうよ…そんな事ある訳ないじゃない! だって私よ! こんな中年のおばさんといたって疑われるはず無いわ…。」
モッコは自虐的に言った。
―そんな事ない…。現に俺は…
輝也はモッコを見つめた。その場を取り繕うために自分を貶めているモッコをさらに愛おしく思った。
「これから夫婦でデート?」
モッコは沙也加に聞いた。
「あ~、別にこの人と約束して来たんじゃないけど、ここに来たらたまたまあんたたちに出くわしたって訳よ。それよりさ、モッコはこの後、時間ある?」
「え…私? 夕方まで別に用事は無いけど…。沙也加! 今晩、私たちの同窓会だって忘れてない?」
「忘れる訳無いでしょ! その為に私、ここに来たんだから! ねぇ、今晩着ていく服を買いたいの! 付き合って!」
「あ…あぁ…私で良かったら構わないけど…」
―え! 沙也加のやつ、モッコさんを独り占めすんなよ! …せっかくまた会えたって言うのに…
輝也は予期せぬ妻の登場にイラついた。
「今晩着ていく服を買いたいの。付き合って!」
沙也加はモッコに言った。
「今晩の為に服まで新調するの? 来るのは気の知れたメンバーなのに勿体なくない?」
モッコは驚いた。
モッコも夜のお出かけなので少しはお洒落するつもりだったが、その為に服まで新調しようなどとは思いもしないからだ。
「分かってないわね…。みんなが揃うのって15年ぶりなのよ! バカにされないように武装しなくちゃ!」
沙也加は鼻息交りだ。
きっと朋美と張り合おうと思っているのだろう…。沙也加は全然変わってないな、とモッコは思った。
「わかった。付き合うわ! …えっと…」
モッコは輝也を見て、そして沙也加を見た。
「あんたはどうすんの? どうせ私の服選びなんて退屈だろうから帰っていいわよ。」
沙也加は輝也に言った。
「お…俺も行くよ!」
輝也は急いで立ち上がった。
「珍しいわね…。普段は全く付き合わないくせに…。ま、いいわ、時間が無いから行きましょう。」
三人はカフェを後にした。
「もっと早く言ってくれたらジムとか行ってダイエットしたのに!」
モールの通路を歩きながら沙也加が文句を垂れた。
「だってぇ、みんなに再会したの、ほんとつい最近なのよ! それに気心知れた女同士の集まりなのに、そこまで気合いれなくてもいいじゃない!」
モッコは必死に沙也加について行きながら言った。
モッコより背の高い沙也加の歩幅は広く、一緒のペースで歩いていても背の低いモッコは速足でないと並んで歩けない。
モールの長い通路をほぼ駆け足状態で歩いていると次第に息が切れてきた。
―モッコさん、小動物みたいだな…。
後ろからついて来ている輝也は、モッコの必死な駆け足姿を見て、さらに胸がキュンとなった。




