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モッコと輝也がショッピングモールで再会したその日の朝、いつもなら浩太はグダグダと寝ているところだが、何故か今日は早起きしてシャワーを浴びていた。
―寝汗が酷いのかしら? …もしかして早くも加齢臭が気になり始めた?
モッコはそんな事を思いながら朝食の支度をした。
「お~い! シェービングクリームのストックどこ~?」
脱衣所から浩太がモッコに聞いた。
「二番目の引き出し!」
モッコは夫に教えた。
―今日は念入りに身だしなみを整えてるのね…。
モッコは普段全く身なりに構わない夫が気を使いだしたことに感心した。
実は少し気になっていたのだった。先日偶然会った沙也加の夫・輝也が爽やかな外見をしていたからだ。
もちろん生まれ持った物はあると思うが、浩太と違い、輝也はちゃんと服装や髪型に気を配っていた。
若い頃とは違い、中年になると、どれだけ外見に気を使うかで見た目の印象や年齢まで違って見えててくると思う。
輝也はお腹も出て無いし、誰が見ても好印象を抱く外見だった。
それに比べて我が夫と言えば、夜風呂に入って髪を乾かさずに寝るので寝ぐせが酷いし、どことなく臭う。
家を出る前に一応は見える範囲を直しているが、後ろは必ずどこかが跳ねている。
髭剃りも適当でそり残しがあるし、長年の不摂生で体は弛み下腹も出ている。
輝也までとは言わないが、せめて人前に出てみっともなくないくらいまでは気を付けてもらいたいと思っていた。
でもいくらそれを助言しても右から左へ受け流すだけで、まともに受け止めてもらえない。モッコはもう諦めかけていた所だった。
しかし、最近の夫は変わった。心境の変化があったのだろうか…。
いずれにしても、身なりに構うのは良い事だ。モッコは夫の変わりようを嬉しく思った。
それにしても今朝の浩太は準備に時間がかかり過ぎている。リクとルイは既にダイニングで浩太が来るのを待っている。
「ちょっと~! 冷めちゃうわよ~!」
モッコは痺れを切らして夫を呼んだ。
「はいはい、分かったよ!」
やっと夫がやって来て自分の席に着いた。
モッコはテーブルコーデを先に撮影していた。
いつもは手つかずの料理を食べる前に撮るのだが、その時の浩太の嫌そうな顔を見るのが苦痛だったから早めにやっておいたのだった。
今日の朝食はヨーロッパ風に、クロワッサンとヨーグルト、フルーツ、ハム、チーズ、サラミなどをオシャレに皿に並べた。そしてガラスのピッチャーにはオレンジジュース。モッコと浩太にはコーヒーを入れた。
全体を納めるショット、一つ一つの食材を大きく流していくショット。
今回の素材はこれだけにしようと思っていたのに、いざ食事が始まると、やっぱり食べている様子も取りたくなった。
モッコは席を立って、花瓶に活けてある花にピントをあて、ダイニングテーブルで食事をしている家族の顔が見えないようにボカして撮影を始めた。
―やっぱりこういう日常感って大事よね…。
ふと浩太を見ると、やっぱり嫌悪感丸出しの表情を浮かべていた。
―きっと自分が悪いんだと思うけど、唯一の趣味だし、お金をかけてる訳じゃ無いし、そんな風にあからさまな態度取ることないじゃない…。
モッコは傷ついた。
食事が終わり、浩太と子供たちはダンス教室へ行った。
一人家に残ったモッコは朝食の片づけや洗濯を済ますと手持ち無沙汰になった。
今日は動画の編集をして投稿しようと思っていたけど、さっきの浩太の顔を見ていたら、そんな気も失せてきた。
モッコはコーヒーを入れるとソファに座ってテレビを付けた。チャンネルを回しても興味をそそられるような番組は何一つやっていなかった。
モッコは溜息をついてコーヒーをすすった。
ボーットしていると、ふいに輝也の事を思いだした。
―そう言えば…先週の今日だったな…沙也加の旦那さんとモールで会ったの…
モッコは立ち上がり、外出する支度を始めた。
気持ちの切り替えを兼ねて買い物に行くことにした。




