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ときめきざかりの妻たちへ  作者: まんまるムーン
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 白川絵梨。


 彼女も学生時代の同級生で、幼馴染で、仲良しのグループの一員だった。


 絵梨は誰もがうらやむ美人で、地方在住ながらも、小学生の頃から既に芸能事務所のスカウトが絶えなかった。


 高学年になってからは地元で活動するようになって、CMやポスターなどに出演していた。中学に入ってからは、ティーン向けの雑誌のモデルをしたり、ドラマの子役としてテレビに出たりする事も多くなった。


 そして高校2年の時、彼女の運命を揺るがすドラマに出演した。


 それは…女子高生と妻子持ち男性の不倫ドラマ。


 絵梨は主役では無く、かなりのわき役だったのだけど、その役のインパクトと彼女の演技の上手さに、完全に主役たちを喰ってしまい、そのドラマの話題といえば、ほぼ絵梨の役に関する事だった。


 そのドラマに出演したせいで、彼女の評判は瞬く間に地の底に落ちた。


 そのドラマの役どころの女子高生は、性格が悪く悪知恵が働き、幸せな家庭をぶち壊した挙句、誘惑した男も最後には飽きてポイ捨てしてしまう…という最悪な人物だった。


 主婦たちがよく見る夜の時間帯だったので、絵梨は全国の奥様方から総スカンを喰らった。


 番組に苦情を言ってくる人までかなりの数いたらしい。


 そしてドラマを見ている人は、絵梨とドラマの役柄とを同一視するようになっていった。


 絵梨はまともに表を歩けなくなり、道行く人たちは聞こえるように彼女に罵声を浴びせ、冷たい視線を送ってきた。


 絵梨の親は常にかかってくる苦情の電話に心を病んでしまい鬱病を発症した。


 国民の敵となってしまった絵梨だけど、絵梨のおかげでドラマは人気爆発。それ以降も彼女に悪女役のオファーが次々と舞い込んできた。


 しかしそれはもう何年も前の話…。





「最近、あまりテレビでも見かけなくなったよね…。」

私が呟くと、


「だいぶ前に芸能界引退したらしいよ。高校卒業してからほとんど音沙汰無かったから、知ったのは絵梨に再会してからなんだけどね。」

とモッコが言った。


 絵梨にもいろいろあったようだ。芸能活動が忙しく、高校も最後の方はほとんど来ていなかった。


「モッコはどこで絵梨と再会したの?」


「つい最近だよ! 先月だったかな…。この街のこといろいろ調べようと思って、主人と子供たちが出かけた後、一人で来てみたの。駅前を歩いてて、カフェに見たことがある人がいるなぁ~と思っていたら、よくよく見ると絵梨だったのよ! 相変わらず綺麗だったわ~。20代って言っても通じるくらい若かった。私とは大違い!」

モッコは少し出てきた下腹をパンっと叩いて笑いながら言った。


 病的な程の色白で、バラ色に染まった頬。思わず引き込まれそうな大きな瞳。そして漆黒の艶やかな長い髪。


 絵梨は物語に出てくるお姫様のようだった。


 悪女役を演じる絵梨の儚く可憐な容姿に、人々は彼女に対してより憎しみを感じた。


 あのドラマが有名になる前までは、絵梨はよく笑い、みんなとも楽しく話をする子だった。


 しかし次第に口数が少なくなっていき、笑顔も消えていった。そして態度も冷たい…というか、そっけなくなっていった。


 同級生たちは「有名人になったから勘違いしてるんじゃない?」と絵梨の事を悪く言っていたが、私にはそうは思えなかった。


 何となくだけど…彼女はそうじゃない自分を分かってもらうのに疲れていたんじゃないかと思う。


 もうきっと、諦めていたんだ…。



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