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ときめきざかりの妻たちへ  作者: まんまるムーン
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 和也がヨーロッパに出張に出かけて一週間が過ぎようとしていた。


 その間、朋美は自分一人の時間を楽しんでいたが、そろそろ一人でいるのも寂しく感じるようになってきた。


 今日、和也は帰国する。仕事で迎えにはいけないが、成田からは直通のバスが通っているし、和也も帰りはバスで帰るから心配いらないと言ってくれた。  



 朋美が目を覚ますと、まだ5時を回っていなかった。


 和也がいない時くらいはたっぷり寝ようと思っていたのに、ここの所ずっと早くに目が覚める。


 外はまだ真っ暗だ。朋美は空気の入れ替えの為に窓を開けた。冷たい空気が部屋の中に入ってきた。急いでクローゼットからショールを取り出し羽織った。


 キッチンへ行き、コーヒーマシンをセットしてボタンを押すと、部屋中にいい香りが立ち込めた。朋美は淹れたてのコーヒーを持ってテラスに出た。


 ガーデンチェアに座ってゆっくりとコーヒーを飲んだ。


 朋美の脳裏には高校時代の友人たちの顔が浮かんでいた。




 モッコは昔と全然変わっていない。昔から明るくて飾りっ気が無い。


―少しおっちょこちょいだけど…。朋美はフッと思い出し笑いをした。


 沙也加は気が強くて、朋美の方は沙也加に対して全く敵対心が無かったにも関わらず、何かというと彼女は朋美に張り合ってきた。


 そして朋美のファッションや髪型や持ち物をいつも真似した。真似されるのはさほど抵抗が無かったが、何故かモッコが沙也加に文句を言っていた。


 正直、沙也加の事は苦手だったけど、嫌いというほどじゃ無い。


―だけどモッコは私が沙也加の事が嫌いと思っているみたい…。


 そして絵梨は…一番の親友だった。趣味や性格、育った環境も似ていたし、言葉は無くてもお互い分かりあえた。


―だからこそ…。


 朋美はそんな思い出を振り払うように頭を振った。


 立ち上がり家の中へ入ろうとした時には、すでに夜は明けていた。




 家事を簡単に済ませた後、朋美はサンルームにノートパソコンを持って行き、そこで仕事を始めた。


 この家をデザインした時に朋美が特にこだわった、ヨーロッパのインテリア雑誌で見かけたアンティークな温室をイメージして作ったサンルームだった。


 朋美はそこで珍しい観葉植物をたくさん育てていた。


 鉢植えの木もあれば、上から垂れ下がっている多肉植物もある。


 朋美は芸大を卒業後、大手デザイン会社に就職し、何年か前にフリーになった。


 今は主に自宅で家具やインテリアのデザインをしている。


 優しい光が射し込む中、アレクシス・フレンチのピアノ曲を流しながら作業に没頭した。しばらく作業をして少し疲れた朋美は背伸びをした。


 その時スマホが鳴った。


 モッコからの電話だった。


「朋美! 今、大丈夫?」

モッコは相変わらず元気いっぱいに話しかけた。


「うん。ちょうど休憩しようかなって思ってたとこ。」


「そうなの、良かった! あのね、皆で集まろうって言ってたじゃない! 今週末どうかしら?」


「ちょっと待ってね、スケジュール見てみる…」

朋美はスケジュール帳と取り出した。今週末は特に予定は入っていなかった。


「大丈夫よ。」


「良かった! じゃあ、土曜の夜にしましょう! 店は私が予約しておくから、また連絡するわ!」


「ありがとう。」



―十数年ぶりの再会か…。


 ふと時計を見ると正午を回っていた。


―いけない! そろそろ準備しなくちゃ!


 今日は午後から仕事の打ち合わせが入っていた。


 朋美は簡単に化粧をして、小さな一粒ダイヤのピアスを付けると、細身の白いアンクルパンツにネイビーの薄手の丸首のセーターを着て、秋物の軽いトレンチコートを羽織った。


 そしてクローゼットから仕事用に使っているルイ・ヴィトンのトートバッグを取り出した。モノグラムのこのバッグは、独身時代から大事に使っている物だ。


 朋美は見てすぐにどこのブランドか分かる品物はあまり使わないのだが、このバッグはサイズ感も媚びないきっちりとした長方形のデザインも気に入っていて、手入れしながら大事に使っているのだった。


 バッグにタブレットと財布、ハンカチやリップなどを入れた小さな化粧ポーチ、スマホを入れて玄関へ向かった。


 靴箱から紺色のスエードのローファーを出して履いた。


 玄関を出ると、外は気持ちのいい秋晴れだった。




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