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宿場町は風の街

作者: 瀬川なつこ

夏のお盆の頃になりました。

迎え火、送り火。

どこの家の夕暮れ時にも、玄関先で、炎が燃えています。

海から、アーシャカクーシャカと、謎めいた声がして、

死人が仏壇に戻ってきます。

おじいちゃん、今年も、この時期がきたね。

裸電球がゆらゆらと揺られている。

風が吹いて、風の探偵が、ヒトゴロシを捕まえる。

朽ちた看板の女優、破れたポスターの中の女優。

どれもレトロ懐古の世界で奇妙に嗤っている。

水晶瓶の中に、いる、小さな蛸が、泡を吹いた。

ごぼごぼ。宿場町は水の中。

びょうびょう、宿場町は風の街。


夢の合間。二階には蛇の皮がいっぱい落ちている。

それは、祖母のもので、漢方薬に使うというのだ。

それ以外にも、庭で取れたマンゴラドラを、旅の雲水さんにあげていた。

物置の隅から見ていたら、悲鳴を上げていたのを覚えている。

近くには宿場町があって、なめした鬼の皮も、

どこかの家に保存されているらしい。


痛み。散った。裏切り。

泣いた後には、いらかの群れを見上げると、入道雲が高らかに、どこまでも宿場町に続いているのだった。

従妹が来たので、蔵の中に入って、かくれんぼ。

確かに、彼女が隠れていたと思ったところには、誰もいませんでした。

連れてゆくよ、そう、影法師が嗤って言って、従妹は、神隠し。

一七年経ったあと、そのままの姿で、山奥の中で、綺麗な西陣織を着て、暮らしていました。

山が呼んでいる。


山彦には返事を返してはいけないよ、と、そう云った祖父も、先日亡くなった。

魂を運ぶ回送列車を、見送りながら、線路沿いのお地蔵様に、彼岸花を手向ける。

回送列車は草原の上を何処までも逝く。

電信柱の警官が列車をおかしそうに見下ろしている。

その頃、学校のトイレのなかから、毬が転がりだしてくる。




懐古の時は、ただひたすら、君が一人で寂しい時にひたひたと迫ってくる。

懐かしい想い出、亡くした刻、麦わら帽子が、道に落ちている。

亡くした右指は見つかったかい?

鬼が食ったんだろう。

あれは、閻魔にやられて、胃袋が破けているから、

喰った先からポロポロ零れてゆくんだ。

軒先に干した布団。

凡て夢。

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