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いつもの朝

「ふふふ~ん♪」

 朝食後、蒼乃はいつもの日課で、部屋の掃除を始める。それは美しい朝日の差し込むいつもの朝だった。

「あれっ、どうしたの?」

 蒼乃が愛美を見る。愛美はなぜか荷造りをしている。

「私は消えるわ」

 愛美が言った。

「えっ」 

 蒼乃が驚いて愛美の顔を見る。

「き、消える?」

「助けてくれてありがと」

「う、うん」

「ちひろにもよろしくね」

「う、うん」

 蒼乃は戸惑うばかりだった。

「料理おいしかったわ」

「消えるって出て行くってこと?」

 戸惑う蒼乃は、分かり切ったことを訊いてしまう。

「そう」

「そんなに急いで出ていかなくても・・」

 蒼乃は慌てて言う。

「・・・」

 しかし、愛美はそれには何も答えなかった。そして、元々少ない荷物をまとめた愛美は、その荷物の入ったバックを持ち立ち上がると、そのまま玄関まですたすたと歩いて行く。

「まだいてもいいんだよ」

 それを追いかけながら蒼乃が言う。

「私はあんたたちを邪魔するほど野暮じゃないわ」

「えっ」

 その答えに蒼乃は困惑する。 

「私はそういう存在にはなりたくないの」

 そして、玄関までたどり着くと靴を履きながら、愛美が言った。

「えっ」

「それにあたしはやっぱり野良猫体質なのよ。こういう安定した生活はなんか居心地悪いの」

「・・・」

 蒼乃はそう言われては何も言えなかった。

「これからどうするの?」

 蒼乃が心配そうに愛美の背中に訊く。

「大丈夫よ、そんなに心配しないで。小さい頃から私はずっとこの街で一人で生きてきたんだから」

 愛美は笑顔で蒼乃を振り返った。

「・・・」

「お幸せにね。あなたたちきっとうまくいくわ」

 愛美は、最後にそう言って右目をつぶりかわいくウィンクすると、右手を上げてそのまま出て行った。

「・・・」

 蒼乃はその背中を見送ることしかできなかった。

 愛美は、小鳥がちょっと枝に休んでから飛び立って行くように、季節の変わり目にその土地を吹き抜けていく風のように、蒼乃たちの前からふいっといなくなった。

「・・・」

 蒼乃は一人ダイニングのテーブルに腰掛ける。愛美のいない部屋はなんだか少し寂しかった。

「愛美出てっちゃったよ」

 その日の夕方、包帯を取り替えている時、蒼乃がちひろに言った。

「ふ~ん」

 だが、ちひろはそう言っただけだった。全然気にする風もなかった。

「・・・」

 私がいなくなってもこんな感じなのかなと、蒼乃はそんなちひろの反応に少し不安になった。

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